2024年1月10日

非鉄新経営 変化を好機に/UACJ社長/石原美幸氏/事業部新設、「素材+α」へ/北米、自動化設備でコスト低減

UACJは2024年度から新たな中期経営計画が始動する。売上高1兆円に向けて、アルミ素材の強みを生かした持続可能な成長を目指す。国内では1月から押出・加工品事業本部と鋳鍛事業本部の2事業部を新設。海外でも26年に向けて北米拠点の増強を進めている。石原美幸社長に新たな年の舵取りを聞いた。



――2023年を振り返って。

「世界では地政学的な混乱が見られた一方、国内ではコロナの5類移行で経済活動などが活発化した。設立10年の節目を迎えた当社は各種記念事業に加え、アニメーションによるテレビCMも放映し、ソフトなイメージも打ち出した。19年から進めてきた構造改革も22年度で完遂し、利益率の高い筋肉質の企業となった。今年度から国際会計基準(IFRS)も導入した。海外事業の売上高が6割を超える当社にとっては必然と捉える」



――厚板需要をどうみる。

「半導体製造装置向け厚板は23年下期も低迷が続くとみる。24年下期には厚板も含む半導体製造装置やIT関連で復調するだろう。国内での半導体工場建設の動きもあり、中長期的には国内外問わず確実に伸びていくだろう。厚板は半導体製造装置向けが低迷した一方、太陽光パネル向けが伸びた。太陽光パネル需要は中国などで拡大基調のため、一時的な需要増ではないとみる」



――箔と建材の需要環境について。

「箔地は車載用で堅調を維持するとみる。一般材向けもインバウンド需要で増加するだろう。建材も24年は増加基調を予想する。昨年は人手不足や資材高騰などで建築市場は低迷したものの、今年は首都圏の再開発案件などでアルミパネルやハニカムパネルなどの需要が伸びるだろう」



――価格転嫁の浸透状況を。

「昨年7月から20%の加工賃(ロールマージン)改定を打ち出している。諸資材コスト、エネルギーコストの上昇を受けたためだ。各業界のひも付きの取引先も労務費や運賃が上昇しているため、値上げに理解を示している。国内はひも付き、店売りとも23年度中に概ね浸透するとみている。一方で海外は長期契約に基づいて転嫁しており、足元では次期の契約交渉も進めている」



――24年の事業の注力点を。

「市場が今後伸びる分野に注力する。アルミ素材の強みを生かし、環境負荷低減やサーキュラーエコノミー(循環経済)に寄与する取り組みも進める。UACJグループでのUBC(使用済み飲料缶)活用量は27年に19年度比1・7倍まで伸びる見込みだ。グループ全体の循環経済に寄与する『ALmitas+ SMART(アルミタス・スマート)』のような新ブランド立ち上げでリサイクル比率の高い素材を開発している。循環経済に貢献する投資を次期中計でも増やしていきたい」



――今後の事業の注力点を。

「国内では自動車や鉄道車両向けのほか、オールアルミのヒートポンプなど熱マネジメントビジネスにも注力していく。新領域開拓にも掲げているモビリティー分野では、空飛ぶ車やドローンなどでも引き合いがあり今後にも期待している」



――海外事業の今後の展開を。

「米国はEVの自国生産を掲げており、当社もEVメーカー向けに販売している。これまで米国やメキシコ、中国と取引先の展開に合わせて事業拡大を進めてきた。今後も取引先の方針と市場動向に沿って新拠点の設置なども検討していく」



――北米の自動車事業について。

「自動車部品の米UWH(UACJオートモーティブ・ホワイトホール・インダストリーズ)は日系と現地の大手EVメーカーと取引している。23年度は黒字化のめどが付き、24年も需要増を期待している。業界トップクラスの自動化設備によるコスト低減策も顕現し、収益に一層プラスに働くだろう。このほか、副資材や原燃料コストの低減も図っている」



――板子会社TAA(トライアローズアルミナム)の受注状況を。

「北米では概ね25年までの契約で、足元では25年以降の契約も交渉している。27年ごろから新たな圧延設備でも供給を始める。北米の取引先は今後の缶需要の増加を考慮しており、足元の需要減はそこまで加味していない」



――ローガンアルミナムの設備増強に関して。

「TAAと米ノベリスが共同所有する同圧延工場は1億5000万ドル(約220億円)を投じて26年までに生産能力を10%以上引き上げる。北米の缶材需要を考慮すると、26―27年は既存メーカーの増産に適したタイミングと捉えている。ボトルネックが熱間圧延と考えていたため、早期の投資で競争力強化につながると考えた」



――欧州事業は今後どう進める

「欧州でも熱ビジネスに注力すべく市場調査などを進めてきた。仮に新拠点を構える際は合弁も視野に入れる。すでに押出事業でチェコに多穴管工場を持つほか、ギリシャのエルバル・ハルコーと共同でドイツに熱交材の販売会社も持つ。ポーランドでもUACJトレーディングが拠点を置いている。缶材供給も拡大したい。日欧で関税がないため福井製造所からの供給を増やす。中韓がすでに進出している電池材でも欧州は展開の余地があるとみる」



――中国材の影響をどうみる。

「価格面で中国材は依然優勢だ。24年ごろから本格化する取引先との長期契約交渉時に影響を考慮する必要がある。UATH(UACJタイランド)では、北米での販売不振に伴い、東南アジアや中東、オセアニアに注力してきている。その際に東南アジアでの中国材との競争は激しくなる可能性がある。中国は国内景気の動向に左右され長期供給の実績がないため、当社の安定供給力は強みの一つと捉える」



――24年の新商品発表について。

「長期経営ビジョン『UACJ VISION 2030』で掲げた『素材+α』を意識した商品開発を進めていく。昨年は100%リサイクル材を使用したアルミ棚天板が無印良品の店舗で採用された。環境配慮型製品のブランド名を冠した商品は24年も幅広い分野で展開していく」



――研究開発について。

「同業他社と比べても遜色ない投資を従来行っており、今後も一定額の投資を続けていく。名古屋製造所内のR&Dセンターを中心に国内外の各拠点の特徴を生かし、長期ビジョンに掲げるモビリティー、ライフスタイル・ヘルスケア、環境・エネルギーの3領域開拓に注力する。リサイクル関連の研究開発も進め、素材と用途開発を拡充するほか、リサイクル材を用いた自動車材もモデルチェンジに応じて開発していく」



――人材育成の考えを。

「研究開発などでは外部からの人材確保が欠かせない。国内では採用時に国籍や性別など多様性に配慮した採用を進めていく。社内の教育制度の拡充や大学などと共同で研究開発を行い、スキルアップと人的交流も図っている。海外でも従業員への日本国内での研修など人的交流を図っている。このほか、給与水準の引き上げにも積極的に取り組んでいる」



――次期中期経営計画の方針とは。

「財務体質の改善は重要課題の一つと捉える。30年への長期ビジョンに示した財務目標値に向けて次期中計の数値目標も定めている。売上高1兆円も目指していきたい。DX推進も不可欠とみる。データ収集・解析の結果を生産と経営に生かす。採用難や労働環境完全などでも自動化を促進する。『素材+α』も重要だ。各事業部門で模索しており、加工品への注力で収益率を上げていきたい。供給網とバリューチェーンでの具体的な取り組みは次期中計中に示していく」



――新たに押出・加工品事業本部と鋳鍛事業本部の2事業部を立ち上げた。

「自動車分野などで素材としての押出材だけでなく、加工による付加価値も高めて事業領域を広げていく。すでに製品特性を押出材で実現しており、今度は素材特性も加工時に引き出す必要がある。素材から設計できるという点で優位性がある。近年はルーフレールなど一部の加工分野にも進出しており、被る領域もあるため再編が必要と考えた。鋳鍛事業本部は航空宇宙防衛関連の供給機会を増やしていく」



――箔事業への投資について。

「UACJ製箔の伊勢崎製造所で27年度をめどにLiBの集電体用箔の生産能力を1・5倍に引き上げる。既存顧客の需要に応じた格好だ。政府補助金も活用でき良い機会だった。東洋アルミニウムとの統合の有無に関わらず必要な投資だったと考えている」



――環境負荷低減の施策とは。

「リサイクル比率を30年度までに80%まで引き上げる。スコープ1、2に加え、スコープ3の目標値も発表した。下流の圧延業界などはマスバランス方式による温室効果ガス(GHG)の管理が重要だ。一方で地金製錬など上流に対しても取引先とともにGHG低減の技術開発が不可欠だ。新地金の使用率を2割に引き下げるため、日本とタイで設備導入を図っている。福井製造所の新設備でも2000トンのUBC処理が可能となるほか、ラヨン製造所でもUBCが活用できる溶解炉を立ち上げている。持続可能なアルミ産業に関連するASI認証も欧州拠点での取得など新たな施策を考えている」



――スクラップ材を用いた商品展開について。

「缶材や自動車材などで環境配慮型の製品ブランドを展開してきた。昨年12月に発表した環境配慮型の缶蓋『EcoEnd(エコエンド)』はリサイクル率向上を目的に、胴体、蓋、タブの合金成分を近づけた。『UACJスマートマスバランス』は第三者機関でGHG排出量の認証を受けている。今後も取引先に賛同してもらい展開していきたい。今後の炭素税導入も含めてGHG低減が検証できる仕組みは重要だ」



――アルミスクラップの供給について。

「国際情勢も受けて調達が難しくなりつつある。すでに水平リサイクルが進む缶のように、新たな領域でもアルミ需要ができることでリサイクル率が高まる。国内はリサイクルすることでアルミ特有の循環経済ができるため、国外へのスクラップ輸出を止める必要がある。缶以外では、自動車材や空調用フィン材などでもリサイクル率を高めていきたい。業界全体では建材用の押出形材や廃車のスクラップ回収も進むだろう。海外輸入量が多いビレットはスクラップ材利用を制御しにくい部分もあるため、6000系合金のリサイクル体制構築で循環できるようになるだろう」



――グリーンアルミについて。

「製錬時に用いる電力を再生原料由来にしたグリーンアルミと、スクラップ由来のリサイクル材を用いたグリーンアルミとに分けて考えられる。日本は両方を用いることができる強みがある。現在、展伸材の水平リサイクル率は10%程度だ。今後の産官学の研究で、アップグレードリサイクルが可能なリサイクルシステムを構築し、グリーンアルミの比率を引き上げる必要があるだろう」



――24年をどのような年にしたいか。

「マテリアリティーとサステナビリティーを意識した経営を進めていく。サステナビリティーを重視する潮流はアルミ素材を扱う当社グループにとって追い風とみる。30年への長期ビジョン達成に向けて、利益最大化や筋肉質な財務体質、新たな価値創出などを支える基盤強化を24年度からの新中計にも盛り込んでいく。全員野球で新中計の初年度に臨む」

(増岡 武秀)

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