2025年6月17日

JFEHD新中期計画始動/長期ビジョン2035に向けて/北野嘉久社長/CN技術 トップ走る/グループ事業利益7000億円へ

――長期ビジョンの「JFEビジョン2035」を策定し、目標の達成に向けて第8次中期経営計画(25―27年度)を開始した。10年後に目指す姿を示した狙いとは。

「長期的な視野に立って先を見据え、足元の中期計画として3年間に何に取り組むか。そのように考えないと今の時代に企業として成長できない。ありたい姿、社会における存在意義とは何かを問い、広い観点から第一にパーパスが重要と考え、議論を重ねてJFEスチール、JFEエンジニアリング、JFE商事それぞれのパーパスを策定した。企業理念と行動規範、パーパスに基づき、10年後に目指す姿を定めた。最重要テーマのカーボンニュートラル(CN)を2050年に実現するまでに今後必要となる設備投資額はおよそ5兆円。成長投資と2050年のCN達成に必要な利益規模として35年度のグループ事業利益7000億円を目標とする。スリムで強靭な国内生産体制を築き、海外事業の拡大で成長を図り、CNに向けた技術開発のトップランナーを目指す」

――倉敷地区での革新電気炉導入を4月に決め、GX戦略の取り組みが加速する。

「欧米のCNへの取り組みが減速しているが、CNは世界の潮流であるのは間違いなく、鉄鋼業界にとってパラダイムシフトとなり、成長のチャンスにつながる。他国の動向に惑わされることなく、研究開発を続け、実装化に向かうべきだ。革新電気炉を28年第1四半期に立ち上げる。既存大型電気炉では製造しえなかった年200万トンの高品質・高機能鋼材の供給体制を他社に先駆けて実現し、2030年度にグリーン鋼材の供給可能量を300万トンに拡大して国内グリーン鋼材市場でトップシェアを狙う。これがファーストステップだ。高炉については超革新技術の開発とともに水素の安価・安定調達の可否を見極めるが、28年度以降も稼働を続ける高炉5基のそれぞれの改修タイミングが大きなプロセス転換を決断する時となる。革新電気炉に続き、カーボンリサイクル(CR)高炉とCCUSとのセットでCNを追求する。CR高炉は既存の焼結炉やコークス炉、原料ヤードや荷役設備を利用できる利点がある。直接水素還元製鉄法も開発している。水素の大量調達とともに水素を高温に予熱する技術の開発などハードルが高いが、千葉地区に試験設備を建設し、テストを開始したところである。千葉地区ではCR高炉、革新電気炉も実証実験を開始しており、複線的アプローチでCNの目標に近づいていく」

――鉄鋼事業は需要の減少に対応し、生産規模は縮むが、成長に向けた施策をどう進めるのか。

「需要環境に応じて生産設備を構えることが大事であり、8次中計で福山地区の高炉1基を休止し、28年度には倉敷地区の高炉1基を革新電気炉にプロセス転換することで粗鋼2200万トン体制となる。10年先にはさらに内需が減少することも想定の中に入れながら目指す成長の姿に向かい、どう施策を打っていくかが鉄鋼事業のポイントになる。成長投資は国内でも実行しており、高品質鋼とグリーン鋼材を製造するなど技術や人財を生み出すマザーミルとして製造実力を磨き上げる。高付加価値品比率は8次中計で60%に高める。電磁鋼板に加え、洋上風力発電向けの大単重厚板は品質の造り込みが難しく、世界で製造しているのはごく少数に限られる。成長の楽しみの一つだ」

――海外展開が成長のカギとなる。印JSWスチール、米ニューコアとの新たな連携策が重要になるが。

「キーワードはトップクラスのパートナーとインサイダー型事業。前中期でJSWと合弁の方向性電磁鋼板(GO)製造販売会社設立、さらには共同で電磁鋼板メーカーの買収を行った。電力網の整備向けにGOの需要は拡大し、NO(無方向性電磁鋼板)の需要も増えていく。有力なパートナーのJSWとの協業で需要を捉え、インド国内で最大のGOサプライヤーとなる。引き続きインドの成長を捕捉しながら投資機会を検討する。ニューコアとは協業についてアイデアを出し合い、検討している。トランプ大統領の政策の影響をもう少し見極める必要があるが、高品質鋼の需要は増えていく。チャンスを捉え、攻めていきたい」

「有望な投資先として中東を視野に入れている。天然ガスが豊富で原子力発電にも力を入れ、エネルギーの優位性で産業を興そうとしている。まずはUAEの有力のパートナーであるエムスチールとともに低炭素還元鉄サプライチェーン構築を協議している。長期安定的な調達ソースとして、28年度に稼働する革新電気炉や既存高炉での使用を目指す」

――JFEエンジニアリングは受注高が高水準を維持している。多様な事業があり、成長が期待できる。

「エンジニアリングのキーワードはサーキュラーエコノミーだ。総合エンジニアリング会社として確固たる地位を築いている。廃棄物発電や廃プラスチック・食品リサイクルを総合的に行う代表的なエンジニアリング会社であり、事業をさらに強力に進め、世界に展開していく。廃プラスチックを燃やさずに破砕し、ペットボトルの原料にする水平リサイクルも進めている。洋上風力発電向けのモノパイルは来年度に納入が始まる見込み。実績を着実に伸ばし、利益を上げていく」

――JFE商事は海外展開が奏功し、収益力を高めている。

「国内の加工・販売拠点の再編などにより効率的で筋肉質な運営体制を構築し、さらなる成長の場を海外に求めていく。需要が伸びると期待できるエリアとして北米、豪州、インド、欧州などでインサイダー型ビジネスを推進する。電磁・自動車分野では加工機能の強化や拡充を行っていく。北米・豪州で建材薄板の製造販売会社を買収し事業を広げているが、建材薄板事業のサプライチェーンをさらに拡大させ、35年度に1000億円規模の利益を目指している」

――市場の減速が続くアジアの事業は見直しを進め、タイのTCRとTCSの統合を決めた。ベトナムのFHSも苦戦している。

「中国とASEANはしっかりと稼げる事業を維持し、厳しい事業は撤退も含めて判断している。ベトナムは製造業の伸びが期待通りではない。FHSは新型コロナ明けの21ー22年に収益が戻った後は中国材の影響を受けている。需要の多くが建材であり、市場の動向を注視する。ベトナムにはグループ企業が多く進出し、JFEエンジニアリングは現地パートナーと組んで北部のバクニン省で廃棄物発電プラントの設計・建設・運営を手掛けている。日本で広げてきたEPC(設計・調達・建設)と運営事業の海外展開の第一弾となる」

――7次中計は守りと攻めの多くの施策を実施した。成果を8次中計にどうつなげる。

「構造改革を実行し、量から質への転換、販売価格体系の見直し、海外での成長投資など計画した施策をいずれも実行した。高付加価値品比率は23、24年度で概ね50%を達成し、海外ではインドでGOの製造販売会社を設立した。倉敷地区での無方向性電磁鋼板の能力増強計画決定や連続鋳造機増設による大単重厚板の生産開始、福山地区では新CGLの投資を決めた。経営者として反省すべきは、24年度の利益が鉄鋼事業中心に目標に達しなかったこと。国内需要は建設・製造業とも低調で、中国の高生産・高輸出の影響で海外市況が悪化し、海外事業の収益も悪化した。7次中計で粗鋼生産能力を2600万トンに減らしたが、生産量は24年度に2200万トン弱と想定以上に減少した。25年度は米国をはじめとした各国の通商リスクの発現などを想定し、生産はさらに100万トンほど減る可能性がある。一方でインドの電磁鋼板製造会社の買収や豪ブラックウォーター鉱山権益獲得など大型の成長投資を進めており、第8次中計以降で収益化し、実りあるものにしていく」

――CN対策によってグリーン鋼材の供給量が増え、収益につながっていく。

「グリーン鋼材の環境価値を認めていただき、世の中で広く使われない限り、鉄鋼業のCN化は進まない。経産省主導が主導するGX推進のためのグリーン鉄研究会が立ち上がり、広く有識者を集め、グリーン鉄の需要創出の必要性と必要な政策支援などについて議論がなされた。グリーンスチールガイドラインは、鉄連が22年9月に初版を策定後、より信頼性や透明性を高めるための見直しを重ねている。さらに鉄連ガイドラインをベースに、国際標準化に向けた第一歩として、世界鉄鋼協会のガイドラインも24年11月に策定した。今後、需要家の製品CFPへ削減価値を反映すべく再改訂を進め、GHGプロトコルやSBTiへの反映にも取り組んでいく。日本がリーダーシップをとって国際標準化を図っていく必要がある。また、グリーン鋼材の普及を進めるには、需要家を含むサプライチェーン全体と連携した活動が重要である。例えば、バルクキャリアへのグリーン鋼材JGreeXの採用にあたっては、造船会社、海運、船主、荷主といったサプライチェーン全体でグリーン鋼材の環境価値を負担する仕組みを作っている。自動車関連は今年、経産省でCEV補助金が決まり、グリーン鉄の使用が促進される。今後もより幅広い分野において、需要家に理解していただき、仕組みを作り上げ、それを世界に展開していく。このようなCNに向けた一連の活動は、日本の製造業が国際的に力を取り戻す大きなチャンスと考えている」

――DX戦略は業務の効率化が大きく進み、徐々に戦力化している。

「7次中計で取り組んだ全ラインCPS化は約8割に達し、操業改善や省力化に効果を上げている。全製鉄所・製造所の基幹システムのクラウド化は半分程度進み、25年度末に完了する。約2億ステップのプログラムを5年6カ月でクラウド化するケースは国内初だろう。旧プログラムを読める人材が限られていたが、新しい言語に切り替え、全て読める状態にしてクラウド化した。クラウド化の後は、それをベースにして業務改革を進めていく。新ビジネスモデルの創出として製造ソリューションビジネスである『JFE Resоlus(レゾラス)』を展開し、提携する海外の鉄鋼メーカーだけでなく、鉄鋼業以外への販売も考えている。組織と販売戦略をしっかりと組み立て、ソリューションビジネスを拡大していく」

――人財戦略に力を注ぎ、特に多様化を重視している。

「変革が必要な時代には、DEI(多様性・公正性・包括性)は大事な考えだ。多様な考えを持つ人材を確保していく。そのために働きやすさとして職場環境を改善し、働きがいを高めていく」

――「京浜土地活用」を第4の事業の柱に据え、土地売却や事業化が着々と進んでいる。

「GI事業の液化水素サプライチェーンの商用実証への土地賃貸を行う。27年度には、原料ヤードの跡地である扇島の先導エリアで高度物流ゾーンを売却する予定。賃貸売却事業とともに自社の事業も考えている。グリーン電力の供給も可能な立地特性を活かし、三菱商事とデータセンターの共同事業化を検討している。また、川崎市と連携してJFEエンジニアリングのリサイクルビジネスも拡大していく。35年度には累積土地事業収益で1000億円、土地事業(賃貸)及び事業利用により、年100億円の利益を計画するがそれ以上の利益水準を目指していきたい」(植木 美知也)







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