2025年9月2日
日本アルミ協会の重点施策/石原美幸会長/国内資源循環を強化/「アルミの日」定め認知度向上
日本アルミニウム協会は、アルミ資源の国内循環強化に取り組んでいる。アルミスクラップの海外流出抑制を目指し、経済産業省、環境省への働きかけを継続し、地方自治体に対しても国内資源循環の重要性や海外流出の問題について理解を得る取り組みを平行して進める。1月11日を新たに「アルミの日」と定め、リサイクル性などに優れるアルミ素材の社会的認知度向上を図る。石原美幸会長(UACJ会長)に需要動向や重点施策などを聞いた。
――今年度のアルミ圧延品の需要動向をどうみる。
「足元は弱含んでいるが、下期の回復に期待している。缶材はアルコール飲料値上げで減少したが、年間では前年並みを見込む。アルミ缶リサイクル協会によると、2024年度のアルミ缶リサイクル率は99・8%、『CAN to CAN』率も75・7%と過去最高を記録した。リデュース率も6%超で推移しており、資源有効利用や二酸化炭素(CO2)削減の観点から、今後も利用拡大が見込まれる」
――欧米に比べ、日本でペットボトルからアルミ缶への代替が進みにくい理由は。
「海外でも一律ではなく、北米はアルミ缶化率が高い一方、欧州は瓶のリユースが注目されている。いずれもリサイクル性を重視した素材選択である。日本では一面の経済合理性が優先され、環境優位性や経済安全保障上の優位性評価の側面が不足しているのが現状かと考えるが、アルミ缶はほぼ限りなく繰り返し利用できるリサイクルの優位性から今後も拡大していくだろうし、拡大させていく努力をしていく」
――リデュース率上昇は缶材需要減の要因にも映る。
「資源の有効利用の観点から一缶あたりの質量の減少は望ましい。薄肉化により1バッチあたりの溶解量は変わらないが、缶数にすると増えるので一缶あたりは省エネになる。使用量を減らすことにより、結果、CO2排出量を減らせる。一方で、リサイクル利用を更に拡大させる。包装材ではアルミの技術力に匹敵する代替素材は見当たらない」
――自動車材の見通しを。
「自動車の国内生産は回復傾向だが、アルミパネル材の採用車種の一部で販売減があり、足元はマイナス傾向が続く。しかしながら、軽量化の観点から採用車種と使用部位は今後も増加するものと考えており、アルミの需要増に繋がることを期待している」
――建材分野はどうみる。
「住宅着工戸数の減少やサッシ樹脂化でマイナス傾向が続く。都市部の再開発需要は堅調で、ビル建材需要は見込める。一方で輸入材の増加もあり、リサイクルを含めて国内材活用の仕組みづくりが必要だ」
――半導体製造装置向けなど厚板需要の見通しを。
「在庫調整は出口が見え、今後増えていくだろう。日本半導体製造装置協会の発表によると、25年度の日本製半導体製造装置販売高は過去最高を記録した24年度年比2%増の4兆8634億円と予測されている。米中関係や米関税など先行きは不透明だが、来年度の本格回復を期待している」
――アルミ箔の需要はどうか。
「リチウムイオン電池(LiB)箔はEV需要の停滞影響を受けているが、サプライチェーン(供給網)の在庫調整が収束しつつあり、前年比でプラスに転じている。民生用も生成AI関係のデータセンターを中心として蓄電関係の需要が増えている。コンデンサー箔もデータセンター向けが好調である」
――会長2期目を迎え、どのように取り組みたいか。
「アルミ需要拡大に向けた取り組みの他、国内循環利用の推進や適切な価格転嫁の促進を図りたい。資源循環はアルミ業界だけでなく産官学で取り組む課題だ。引き続き、関係機関に対し、国内循環利用の促進を働きかけていく。今後は海外流出への対応や循環利用に向けた技術開発、市場拡大への工業化支援などのまとめ役として当協会が担っていきたい」
――選別技術での課題とは。
「LIBS(動的レーザー誘起ブレークダウン分光法)とX線による選別技術がある程度確立しているが、精度向上には時間とコストがかかる。AI活用を含めて形状などで選別した後に、レーザーなどの選別方法を組み合わせ、高精度で省時間化する技術開発を検討・評価している」
――海外流出防止の取り組みの進捗を。
「経済合理性に基づくUBC(使用済みアルミ缶)やサッシスクラップなどの海外流出防止を政府に働きかけている。アルミを経済安全保障上の重要な鉱物に位置付けることで流出抑制につなげたい。輸出関税などの規制は難しいが、消費税の還付見直しなど税法上の対策も検討している。環境省とも不適正ヤードの対応で協力している」
――リサイクル推進の具体策は。
「協会内にサーキュラーエコノミー委員会を設置し、アルミスクラップの確保方法や環境価値評価、設備導入、循環の仕組みづくりを議論してきた。グリーンアルミの定義の明確化や展伸材のリサイクル率の計算方法も公表した」
――今後、資源循環では何を行う。
「アルミ製品のカーボンフットプリントやマスバランスに関するガイドライン整備にも着手し、今年度中の公表を目指している。経産省のサーキュラーパートナーズのビジョンロードマップ検討WG内に『アルミニウムWG』が新たに設置され、サッシ業界や二次合金業界などと連携し、アルミリサイクルに関するネットワーク構築を目指している。今後の排出権取引制度(ETS)も議論していく」
――価格適正化に向けて。
「3回のアンケート調査で、一定の進展はあったが、中小企業は大企業に比べ価格転嫁が不十分だ。政府指針に沿った原材料費やエネルギーコストの全額転嫁には至っていない。昨年度は取引先に価格転嫁の理解を求める文書を会長名で発出した。今年度は中小企業の価格転嫁促進を目的に新たな支援ツールの提供を行い、原材料費やエネルギーコスト、人件費などのコスト増の説明を補完できるようにしたい」
――米関税の影響とは。
「自動車関税は関税分を補うコスト削減が必要となる。自動車部品の海外調達増や日本の国内雇用への影響も懸念される。特に東南アジアでの生産拠点で中国製の安価な部材が使用されることで、日本国内の自動車部品にも影響が及ぶ可能性がある」
――昨年12月の中国の増値税還付廃止の影響は。
「影響は限定的で増値税還付がなくとも中国製品は依然安価だ。還付廃止直後には引き合いがあったと聞いているが、一時的だったとみられる。長期契約の顧客には大きな変化はなく、スポット取引での引き合いがあった程度と捉えている」
――HSコードの細分化で圧延品の輸入では何が分かったか。
「23年1月から3000系、5000系、6000系が新設され、3000系は、更に厚さ0・35ミリ以下と0・35ミリ超に分類された。厚さ0・35ミリ以下の3000系は韓国とタイからの輸入が9割を占める。0・35ミリを超える3000系は中国と台湾からの輸入がほぼ100%で、塗装用建材と思われる。5000系は中国材に加え、韓国材も増えている。増加した韓国材に関しては現在調査中だ。6000系は韓国、豪州の順に多い。恐らく自動車用パネル母材と思われる。日本への影響が顕在化した場合、対抗措置を検討できるようになったことは意義がある。更なる分析によって国内材の競争力強化につなげていきたい」
――輸出はHSコードの改定では何が分かってきたか。
「輸出のHSコードも24年1月から改定され、『アルミ缶』『その他』の2分類から、新たに『サッシ』『切削・打抜きくず』が加わり、4分類となった。『その他』の分野では中国、タイ、マレーシアへの輸出が多い。追加された2分類は、輸出されるスクラップの主要な品目で、国別の輸出量が把握できるようになったことは、今後の海外流出の対策を検討する上で大きな意義がある」
――協会活動の注力点とは。
「グリーンアルミ新地金の確保にも努めている。今年6月に勉強会を開始し、需要の把握や権益確保の手段を検討している。アルミは現時点では、経済安全保障上の重要鉱物と特定されていないが、重要な鉱物として認識が改まったことから、今後、政府からの支援を受けられる対象になった。製錬メーカーなどとも連携し、権益の拡大や化石燃料由来のアルミを非化石燃料に変えるなどの取り組みを検討している。資源循環推進の仕組みづくりも重視しており、国内での循環利用を促進するための投資や政策提言も進めている」
――新たに定めた「アルミの日(1月11日)」の活用方法について。
「アルミの特性や優れた点を広く一般の人に知ってもらい、アルミが選ばれる素材となるよう需要拡大につなげていくことを目指している。来年1月11日に向けて、会場を借りて老若男女が参加できるイベントを計画している。参加型イベントを通じて、アルミがさまざまな用途に使用されていることを体験し、楽しんでもらいたい」
(増岡 武秀)
――今年度のアルミ圧延品の需要動向をどうみる。
「足元は弱含んでいるが、下期の回復に期待している。缶材はアルコール飲料値上げで減少したが、年間では前年並みを見込む。アルミ缶リサイクル協会によると、2024年度のアルミ缶リサイクル率は99・8%、『CAN to CAN』率も75・7%と過去最高を記録した。リデュース率も6%超で推移しており、資源有効利用や二酸化炭素(CO2)削減の観点から、今後も利用拡大が見込まれる」
――欧米に比べ、日本でペットボトルからアルミ缶への代替が進みにくい理由は。
「海外でも一律ではなく、北米はアルミ缶化率が高い一方、欧州は瓶のリユースが注目されている。いずれもリサイクル性を重視した素材選択である。日本では一面の経済合理性が優先され、環境優位性や経済安全保障上の優位性評価の側面が不足しているのが現状かと考えるが、アルミ缶はほぼ限りなく繰り返し利用できるリサイクルの優位性から今後も拡大していくだろうし、拡大させていく努力をしていく」
――リデュース率上昇は缶材需要減の要因にも映る。
「資源の有効利用の観点から一缶あたりの質量の減少は望ましい。薄肉化により1バッチあたりの溶解量は変わらないが、缶数にすると増えるので一缶あたりは省エネになる。使用量を減らすことにより、結果、CO2排出量を減らせる。一方で、リサイクル利用を更に拡大させる。包装材ではアルミの技術力に匹敵する代替素材は見当たらない」
――自動車材の見通しを。
「自動車の国内生産は回復傾向だが、アルミパネル材の採用車種の一部で販売減があり、足元はマイナス傾向が続く。しかしながら、軽量化の観点から採用車種と使用部位は今後も増加するものと考えており、アルミの需要増に繋がることを期待している」
――建材分野はどうみる。
「住宅着工戸数の減少やサッシ樹脂化でマイナス傾向が続く。都市部の再開発需要は堅調で、ビル建材需要は見込める。一方で輸入材の増加もあり、リサイクルを含めて国内材活用の仕組みづくりが必要だ」
――半導体製造装置向けなど厚板需要の見通しを。
「在庫調整は出口が見え、今後増えていくだろう。日本半導体製造装置協会の発表によると、25年度の日本製半導体製造装置販売高は過去最高を記録した24年度年比2%増の4兆8634億円と予測されている。米中関係や米関税など先行きは不透明だが、来年度の本格回復を期待している」
――アルミ箔の需要はどうか。
「リチウムイオン電池(LiB)箔はEV需要の停滞影響を受けているが、サプライチェーン(供給網)の在庫調整が収束しつつあり、前年比でプラスに転じている。民生用も生成AI関係のデータセンターを中心として蓄電関係の需要が増えている。コンデンサー箔もデータセンター向けが好調である」
――会長2期目を迎え、どのように取り組みたいか。
「アルミ需要拡大に向けた取り組みの他、国内循環利用の推進や適切な価格転嫁の促進を図りたい。資源循環はアルミ業界だけでなく産官学で取り組む課題だ。引き続き、関係機関に対し、国内循環利用の促進を働きかけていく。今後は海外流出への対応や循環利用に向けた技術開発、市場拡大への工業化支援などのまとめ役として当協会が担っていきたい」
――選別技術での課題とは。
「LIBS(動的レーザー誘起ブレークダウン分光法)とX線による選別技術がある程度確立しているが、精度向上には時間とコストがかかる。AI活用を含めて形状などで選別した後に、レーザーなどの選別方法を組み合わせ、高精度で省時間化する技術開発を検討・評価している」
――海外流出防止の取り組みの進捗を。
「経済合理性に基づくUBC(使用済みアルミ缶)やサッシスクラップなどの海外流出防止を政府に働きかけている。アルミを経済安全保障上の重要な鉱物に位置付けることで流出抑制につなげたい。輸出関税などの規制は難しいが、消費税の還付見直しなど税法上の対策も検討している。環境省とも不適正ヤードの対応で協力している」
――リサイクル推進の具体策は。
「協会内にサーキュラーエコノミー委員会を設置し、アルミスクラップの確保方法や環境価値評価、設備導入、循環の仕組みづくりを議論してきた。グリーンアルミの定義の明確化や展伸材のリサイクル率の計算方法も公表した」
――今後、資源循環では何を行う。
「アルミ製品のカーボンフットプリントやマスバランスに関するガイドライン整備にも着手し、今年度中の公表を目指している。経産省のサーキュラーパートナーズのビジョンロードマップ検討WG内に『アルミニウムWG』が新たに設置され、サッシ業界や二次合金業界などと連携し、アルミリサイクルに関するネットワーク構築を目指している。今後の排出権取引制度(ETS)も議論していく」
――価格適正化に向けて。
「3回のアンケート調査で、一定の進展はあったが、中小企業は大企業に比べ価格転嫁が不十分だ。政府指針に沿った原材料費やエネルギーコストの全額転嫁には至っていない。昨年度は取引先に価格転嫁の理解を求める文書を会長名で発出した。今年度は中小企業の価格転嫁促進を目的に新たな支援ツールの提供を行い、原材料費やエネルギーコスト、人件費などのコスト増の説明を補完できるようにしたい」
――米関税の影響とは。
「自動車関税は関税分を補うコスト削減が必要となる。自動車部品の海外調達増や日本の国内雇用への影響も懸念される。特に東南アジアでの生産拠点で中国製の安価な部材が使用されることで、日本国内の自動車部品にも影響が及ぶ可能性がある」
――昨年12月の中国の増値税還付廃止の影響は。
「影響は限定的で増値税還付がなくとも中国製品は依然安価だ。還付廃止直後には引き合いがあったと聞いているが、一時的だったとみられる。長期契約の顧客には大きな変化はなく、スポット取引での引き合いがあった程度と捉えている」
――HSコードの細分化で圧延品の輸入では何が分かったか。
「23年1月から3000系、5000系、6000系が新設され、3000系は、更に厚さ0・35ミリ以下と0・35ミリ超に分類された。厚さ0・35ミリ以下の3000系は韓国とタイからの輸入が9割を占める。0・35ミリを超える3000系は中国と台湾からの輸入がほぼ100%で、塗装用建材と思われる。5000系は中国材に加え、韓国材も増えている。増加した韓国材に関しては現在調査中だ。6000系は韓国、豪州の順に多い。恐らく自動車用パネル母材と思われる。日本への影響が顕在化した場合、対抗措置を検討できるようになったことは意義がある。更なる分析によって国内材の競争力強化につなげていきたい」
――輸出はHSコードの改定では何が分かってきたか。
「輸出のHSコードも24年1月から改定され、『アルミ缶』『その他』の2分類から、新たに『サッシ』『切削・打抜きくず』が加わり、4分類となった。『その他』の分野では中国、タイ、マレーシアへの輸出が多い。追加された2分類は、輸出されるスクラップの主要な品目で、国別の輸出量が把握できるようになったことは、今後の海外流出の対策を検討する上で大きな意義がある」
――協会活動の注力点とは。
「グリーンアルミ新地金の確保にも努めている。今年6月に勉強会を開始し、需要の把握や権益確保の手段を検討している。アルミは現時点では、経済安全保障上の重要鉱物と特定されていないが、重要な鉱物として認識が改まったことから、今後、政府からの支援を受けられる対象になった。製錬メーカーなどとも連携し、権益の拡大や化石燃料由来のアルミを非化石燃料に変えるなどの取り組みを検討している。資源循環推進の仕組みづくりも重視しており、国内での循環利用を促進するための投資や政策提言も進めている」
――新たに定めた「アルミの日(1月11日)」の活用方法について。
「アルミの特性や優れた点を広く一般の人に知ってもらい、アルミが選ばれる素材となるよう需要拡大につなげていくことを目指している。来年1月11日に向けて、会場を借りて老若男女が参加できるイベントを計画している。参加型イベントを通じて、アルミがさまざまな用途に使用されていることを体験し、楽しんでもらいたい」
(増岡 武秀)












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