2025年12月9日

商社の経営戦略 事業・人財ポートフォリオ/住友商事グローバルメタルズ 村上宏社長/物流最適化、DX機能磨く/CC事業効率化追求 インド特殊鋼拡大へ

――厳しい市場の中で上期の利益は139億円と前年同期比32億円増加した。

「出資しているEEWオフショアウィンドホールディングス(以下EEW)のモノパイル製造事業の利益貢献が開始し、鉄道案件プロジェクト関係も好調だったことが増益の主な要因だが、国内事業も需要が落ち込んでいる状況に対して健闘している。トレードは社員のがんばりで積み重ね、人手不足に対応した商材や工法も伸びている。事業会社のサミットスチール、マツダスチール、紅忠サミットコイルセンター(25年10月にマツダスチールに統合)、大利根倉庫、伊藤忠丸紅住商テクノスチール、住商メタルワン鋼管、NSステンレスいずれも事業環境が非常に厳しい中で踏ん張っている。加えて市況が底打ちの様相をみせている。鋼材輸入が鋼材市況を押し下げていたが、需要が減少する中での市況の変化は政府によるステンレス冷延や亜鉛めっき鋼板の輸入に対するAD調査開始が影響している可能性がある。鉄鋼業界挙げての働きかけの結果、AD調査開始に至り、潮目の変化に期待している」

――米国の関税引上げによる米国事業や鋼材輸出への影響は。

「鉄道用製品を製造するアーカンソースチールやスタンダードスチールは米国内で完結し、関税の影響は限定的で大きな変化はみられない。一方で米向けの鋼材輸出は影響を受けている。輸出についてはAD措置で減っているところをその他の輸出先でカバーしようとしているが、全体的には向かい風が続いている」

――通期の利益予想を275億円と前回予想から18億円上方修正した。

「堅調なEEWおよび鉄道事業がプラス要素だが、それを除いた事業の利益予想はさほど変えていない。内需は長期的になだらかに減っていく前提の中で、お客様や最終需要家に価値を感じていただくよう、さらに筋肉質化し、機能を増やしていく。トレード事業は特に物流の最適化が重要になる。人手不足で物流費が上がり、物流の位置付けが高まっていくので、物流最適化の効果は大きい。在庫を最適化し、加工も物流と組み合わせた最適な場所を考える。現時点で最適だとしてもマーケットの変化に伴い最適ではなくなる可能性もあり、常に見直しが必要だ。小さな改善を積み重ね、サプライチェーン全体の最適化・効率化に貢献していく。最適化・効率化が進めば需要減少の速度が緩やかになるはず。DX化に関しても、電子ミルシート提供システムについてお客様に使っていただいている画面を見やすくし、検索しやすいよう機能を追加するなど今年度中のシステム改編を予定している」

――内需が中長期的に減少する見通しの中で流通の効率化が課題となっている。

「需要の総量が減っていくことに対して効率化は必要となるが、機能面で取引先にとってさらに役に立つことを考えていく。機能向上によって事業の面積を広げることは可能だ。DXだけでなく、GXも仕組みを構築することで機能や付加価値に変わっていく可能性がある」

――マツダスチールと紅忠サミットを10月に統合した。見込む効果とは。

「同じ地区で従来から分業を進めてきたが、会社が別だと、社内と全く変わらないコミュニケーションを取ることは難しかった。一つの会社となることで加工・在庫・物流の最適化やシステムの統合によって全体コストを下げ、事業効率化を進めやすい構造に変え、直接の需要家や最終需要家に対し、より高い機能を提供する。コイルセンター(CC)事業の効率化を常に追求している。当社は以前より日鉄物産と国内CCに相互出資し、CC機能の相互活用などの協業を実施している。サミットスチールは設備の合理化を進め、日鉄物産系のCCに加工を委託するなど相互出資によるメリットを発揮している」

――海外の成長市場を捉える投資の新たな一手は。

「米国は注力地域であり、投資先を常に狙っている。インドは住友商事の出資先のムカンドスミスペシャルスチール(MSSSL)が一貫製鉄所を新たに建設する。10年先をみても圧倒的に需要が増える地域であり、MSSSLが提供する特殊鋼事業を拡大するとともに他の鋼材についても機能を伴った事業を追加していきたい。中東や欧州、その先のアフリカはそれぞれの地域、ステージに合わせて必要とされる機能や役割、新たな事業を検討していく。ASEANはCCなど広く事業を展開してきたが、まだまだ伸びしろのある国や産業構造が転換して新たなニーズが起こる国があり、時代に合わせて変革させながら事業を成長させていく。変化はチャンスであり、新たな機能を求められる。日本国内もそうだが、需要が減ると新たな機能が必要とされ、ビジネスチャンスとなる」

――洋上風力はやや向かい風だが、EEWモノパイル製造事業の見通しは。

「欧州でもコスト上昇に伴い、洋上風力のプロジェクトについて少し見直しの動きが出ているが、各国政府が支援策を検討し、発表しつつある。再生エネルギーのプロジェクトは不安定なところがあるが、脱炭素の大きな流れを踏まえ、EEWモノパイル製造事業は中長期的に成長していくとみている」

――企業の成長を担う人材を確保し、育成する戦略をどのように進めているか。

「社員数は単体が600人強でうち総合職が約400人。連結は管理業績上で1万1000人。以前から行っていることだが、新入社員一人一人に若手指導員を付けてマンツーマンで指導している。新入社員が迷わないよう相談相手を明確にし、指導員側も自分が新人を育てる強い意識と責任を持って指導している。さまざまな経験が成長につながると考え、目標として入社10年以内に3つの異なる業務を経験するようにローテーションを進めている。3カ所のうち少なくとも1カ所は海外か国内の事業会社も含めた東京以外の地域で多面的に経験を積むようにしている。以前から方針として行ってきているが、数年前から明確に実施しようと取り組んでいる」

「やりがいを感じてもらえるよう、メリハリをつけ、納得感のある人事評価を目指している。本人と評価者相互にとって適切で納得感のある目標を設定し、進捗を確認し合い、評価する。ベースアップ含め処遇の水準も引き上げている」

――キャリア採用を積極的に行っている。能力発揮のために工夫していることは。

「会社のことや雰囲気を理解してもらおうと入社前に面接だけでなく、採用候補組織の社員と懇談会などを設けている。入社後も画一的な育成は合わないので、困っていること、想定と異なっていることなど一人一人ヒアリングしながら必要な対応をとっている。『キャリア入社式』に入社数年のキャリア入社社員が参加し、経験を共有してもらうなどネットワークを広げている。キャリア入社ならではの悩みもあり、手助けしていく。新卒、キャリアともに採用人数は年20人前後。感覚的だが同程度の採用はバランスがよいと考えている」

――成長戦略の実現のために海外人材の重要性が高まっている。

「海外駐在の社員は約100人。現地社員を登用することで駐在員が減るところはあるが、逆に新たな事業を進める際には駐在員が増える。若手育成の場として海外トレーニーを増やしているが、さらに増やしていく方針であり、トータルの海外駐在者は増えていく。新入社員は全員と言ってよいほど海外志向が強く、理想をいえば全員を海外に派遣したいと考えている」(植木 美知也)







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