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[企業研究シリーズ]

新世紀の風―住友金属の挑戦 第1部<1>

改革にかける夢「鹿島新高炉」

日刊産業新聞 2003/6/9

 「君たちが50歳になってもこの高炉はもつ。25年後、改修するときはしっかり頼む」。篠原均・高炉プロジェクトチーム長は、鹿島製鉄所見学に訪れた新入社員にこう語りかけた。前方には「新第1高炉」。茨城県鹿嶋市に建設中の21世紀最初の新高炉だ。内容積5370立方メートル。研究所での応力解析シミュレーション技術、現場の高炉操業技術のすべてをつぎ込み、設計段階から25年寿命の思想を織り込んだ初の大型高炉である。


建設が進む鹿島の新第1高炉
 高炉プロジェクトチームは約50人で、ベテランと若手を組み合わせた混成チーム。伊勢神宮は、正殿様式を継承するために20年ごとに社殿をつくりかえる「式年遷宮制」をとるが、高炉づくりもまた世代を超えて技術を継承する大事業といえる。

 鹿島では現在、第2高炉(内容積4800立方メートル)と第3高炉(同5050立方メートル)の2基が稼働している。2004年9月末に新第1高炉が完成、稼働。これに続いて第3高炉を改修、第2高炉を止め、06年度から5000立方メートル級の最新高炉2基稼働とする。住金がこれから突き進む「鉄鋼事業の構造改革」は、まさにこの新第1高炉の建設によって可能となった。

 本年4月、鹿島製鉄所長に就任した西澤庄藏常務は、製銑部長時代の98年、特命を帯び、本社の技術部隊を率いて、和歌山、鹿島両製鉄所の高炉の次なる態勢の検討に入った。和歌山の稼働中の高炉2基は当時、古い方で15年を超え、比較的新しい方も11年目に入っていた。

 プロジェクトチームの初代チーム長だった西澤常務はいう。「最初はいざという時に照準を合わせて、和歌山に新高炉をつくってはどうかという検討を始めた。しかし並行して延命を研究するうちに和歌山は補修だけであと15年、最低でも10年はもたせられるという見通しが立った。一方、鹿島の高炉は改修の時期が近づいていた。和歌山も延命するが、若い青年の体ではないので、いたわりがいる。やはりメーンの鹿島に、1本しっかりした高炉を置く必要があった」。

そのうえで改修か、新設か――検討されたが、改修の場合、最低でも90日間は高炉を止めることになる。鹿島の高炉1基を止めて、1基操業で走ると生産力が半減し、90万トンの減産になり、相当なロスが出る。顧客にも迷惑をかけることになる。

 プロジェクトチームは、和歌山の新設を検討した時からヨーロッパをみてまわり、エンジニアリング会社を歩き、新設でも相当安くできるという確信をもっていた。総合的にみると改修と費用はあまり変わらない。最後はトップ判断だった。

▼和歌山ミル休止を検討

 新高炉の建設構想が固まろうとしていた頃、社内では競争力で劣る和歌山の熱延、冷延ミルを止める検討が具体的に進められていた。和歌山は98年に500億円を投じて製鋼をリプレース、世界でも1級の製鋼工場を完成させており、下工程には「看板商品」であるシームレスパイプを抱える。最新の製鋼工場をつぶすわけにはいかないし、シームレスパイプの競争力は堅持しなければならない。高炉を止める選択肢はなかった。しかし和歌山は当時赤字。鋼板の需要は長いトレンドでは落ちると想定され、競争力で劣るラインを含めて構造的な改革の必要に迫られていた。

 そこで、和歌山の熱延、冷延ミルを休止。新高炉の建設で上下工程のバランスがとれ、上下年産800万トン能力が整う鹿島に和歌山の薄板量産品をシフト。一部ミルオーバーフロー分を新日本製鉄、神戸製鋼所に圧延委託。ミル休止によって余剰能力が生まれる和歌山の上工程を活用し、台湾・中国鋼鉄(CSC)と合弁事業を展開――という一連の構造改革スキームが描かれていった。「これらはすべて合わせ技」。橘昌彰副社長はこう表現する。

 住金幹部のいう「蛮勇をふるっての構造改革」が、発射台にのせられ、秒読みが始まった。

 6月9日から約30回にわたって、本紙独自取材による企業研究シリーズ「住友金属工業編=新世紀の風・住友金属の挑戦」を日刊産業新聞に掲載します。構造改革に挑む住金の取り組みを、「総論」「各論」「まとめ」の3部構成で紹介します。