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【アジアン・メタルマーケット】

JFEスチールの中国展開 <1>

広州JFE鋼板

日刊産業新聞 2003/10/14

 JFEスチールの海外事業戦略は明快だ。海外ミルなど資本提携先および合弁事業向けにホットコイルやブリキ原板など素材を安定供給。垂直分業による消費地生産で製品の競争力を高め、合わせて日本国内の設備稼働率を維持するというものである。

 同社は2002年度、2650万トン(旧NKK、旧川崎製鉄の合算)の鋼材を生産、1000万トンを輸出したが、このうち垂直分業対応が400万トン以上を占める。

 05年度を最終年度とする中期経営計画において、垂直分業による素材の安定供給を柱に、アジアで年間80万トン以上、北米でも50万トン以上の規模拡大を具体化し、トータルで130万トン増の530万トンに引き上げる考え。数量のみならず対象を厳選することで、自動車用など高級鋼板への高付加価値化を推進する方針も打ち出している。そのための3カ年300億円の事業投資枠を設定する。

 こうした基本戦略をベースに、中国での自動車鋼板の現地調達ニーズの高まりを見込み、このほど設立を決めたのが広東省広州市での溶融亜鉛めっき鋼板合弁企業「広州JFE鋼板有限公司」である。

 【ハイテンにも対応】

 広州JFE鋼板は200億円を投じて年産能力40万トンの溶融亜鉛めっき鋼板ライン(CGL)を建設、2006年4月に営業生産を開始する。


広州JFE鋼板の基本合意書調印セレモニー
 生産するのは最大幅1700ミリ、厚み0・3―2・3ミリのめっき鋼板。自動車向けのGA(合金化溶融亜鉛めっき)鋼板が中心となる見通しだ。ハイテンについては、スタート時から60キロ級(590MPa)の生産を可能とする態勢を整える。

 CGL建設予定地は、広州市の南東60キロに位置する南沙開発区の臨海工業地域にある。広州市中心部から高速道路を30分、一般道路を30分。養魚場水路沿いの細い未舗装道路を通り到着した30万平方メートルの予定地は、すでに干拓作業を開始しており、年内に整地を完了する見通し。

 敷地対岸には5万トンクラスの公共埠頭も04年に完成する。高速道路および幹線道路網が04年内に構築され、06年には鉄道敷設工事も開始される予定である。

 【JFE51%出資】

 JFEスチールの數土文夫社長は、中国での新規事業について、かねて「独資あるいは、それに近いかたちで具体化する」とのスタンスを表明してきた。

 広州JFE鋼板の出資比率はJFE51%、広州鋼鉄企業集団49%。パートナーの広州鋼鉄の株式100%を保有する広州市は、南沙開発区の開発母体であり、優遇措置など好条件が見込める。

 9月22日、広州市迎賓館で開催された基本合意書の調印セレモニーで、中国共産党広州市委員会の林樹森書記も「市政府として全面的に支援することを約束する」と明言している。

 かつてほどではないが、中国における独資プロジェクトのリスクは高い。JFEはパートナーを厳選することでリスクをヘッジ。51%シェアを握ることで垂直分業態勢を確立できるという「最も効率的に事業運営ができる形態を選択した」(JFE幹部)わけだ。

 広州JFE鋼板の董事会はJFE4人、広州鋼鉄3人で構成される。董事長は広州鋼鉄、副董事長はJFEがそれぞれ指名するが、日本でいう社長に当たる総経理はJFEが指名し、経営管理業務を統括する。

 自動車・電機など日系メーカーをおもな販売対象とするため、日本同様の生産販売態勢を作り上げる必要がある。これは「JFEとして広州JFE鋼板に最先端の製造技術を投入する」(數土社長)ことを意味するわけで、経営主導権の確保は、間接的に技術流出を防ぐ効果もありそうだ。

 原板となる冷延鋼板40万トン強は、基本的にJFEが全量を供給する。

 JFEの中国向け直接輸出は02年度で200万トン弱。このうち垂直分業はブリキ原板20万トン強で、広州JFE鋼板のフル操業によって一気に3倍増となる。