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【アジアン・メタルマーケット】

韓国・鉄鋼編 <1>

景気後退の中の自信

日刊産業新聞 2003/11/10

 「韓国の景気動向は、上期に比べ厳しくなっているが、それほど悲観的ではなくなった」。先週、ソウルで開かれた会合での鉄鋼メーカー幹部の発言である。韓国の特徴は、ある種の激しさである。得意と失意の狭間で反応が大きく振れる。楽観論では天まで上る。悲観論には打ちひしがれる。しかし、今回の穏やかな景気後退に対しては、余裕が感じられる。ある経済アナリストは、それだけ深みが出てきたと表現する。浅ければ、少しの風で波立つ。こうした中で鉄鋼製品の輸入関税ゼロ化が来年1月からスタートする。業界に異論はあるが、受けて立つとの気概は強い。韓国鉄鋼産業は、世界のフロントに立ちつつあるようだ。

 ▼空前の好決算

 POSCOは4日、10月の月次決算をまとめた。売上高が1兆3260億ウォン。営業利益が3120億ウォン。売上高は、前年同月比で21・0%の増加。営業利益も同32・8%増。生産は、251万2000トン、同3・6%の増加。販売量は、250万9000トン。同6・9%の増加。売上高、営業利益ともに史上最高を記録している。

 支えたのが、数量増と値上げ効果。特に国内向けは、自動車と家電向け薄板の増加が効果的だった。こうしたPOSCOの高収益は、11月も続いている。


ソウル市内
 電炉メーカーも好調だ。INIスチールは前月末、経営情報の上方修正を発表した。2003年の売上高は3兆5960億ウォン。史上最高記録を更新する。営業利益が3909億ウォン、経常利益が3031億ウォンと高水準が想定されている。特に営業利益は売上高の10・9%と2ケタ台に乗る。

 冷延鋼板のリロールと表面処理鋼板で展開する東部製鋼も好調。1―9月で売上高1兆3011億ウォン。営業利益1103億ウォン。史上最高を達成した。世界的な鉄鋼製品の需給タイト化を背景に、増産と販売価格の引き上げが貢献している。

 ▼下期も堅調

 鉄鋼メーカーの好業績を支える需要動向は、しかしながらここへきて陰っている。

 「鉄鋼製品の下期国内販売は、前年同期比3・5%減の2168万トンと見込まれる」。韓国政府産業資源部が8月に発表した下期の需要見通しである。輸出は、引き続き好調を持続している。しかし経済全般はやや停滞感が出ている。

 需要見通しの減少に対応して、生産は前年同期比1・7%減の2596万トンが想定されている。年間では5200万トン。低い水準ではないが、上期の勢いはややそがれている。

 こうした中で生産増を支えているのは、輸出。上期は全鉄鋼で670万2000トン。前年同期比3・6%増。下期の想定は、同3・9%増の665万5000トン。向け先は、北米から中国向け主体に転換している。輸出の特徴は、量の側面よりも単価アップ。薄板を主体にドル建ての価格がアップし、金額ベースの伸び率は、31・4%に達している。

 ▼微妙に変化する需要動向

 昨年の韓国国内の鋼材需要は、鉄筋を中心におう盛だった。

 ソウル市内のマンションブームを主体に、7月のサッカーワールドカップ、釜山市で開催されたアジア大会、12月の大統領選挙とイベントが途切れなく続いた。イベントによる活況は、内需を下支えして生産増を導いた。中国向けを主体とした輸出も堅調だった。

 今年は、こうしたイベントも少ない。さらに6月以降の全国300社近くに達した企業のストライキも、経営者の投資意欲に水を差した。宴の後といった面もある。

 こうした動向を反映し、建設研究院がまとめた2004年の建設需要は、03年比で10%減の87兆ウォンになる。03年は、マンションブームで民間部門は前年比19%増の34兆ウォンと想定。この部分が2004年は不安視されている。

 ただ現在の鉄鋼人の間には、需要想定の悲観論を批判する空気もある。現にそうした議論も聞いた。こうした反応は、これまでの景気後退局面ではなかった。

 多少悪くなっても、凌いでいける。不必要な悲観論は、意味がないとする意見は、韓国鉄鋼人の自信と長年の曲折の中で学習したものだ。