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【アジアン・メタルマーケット】

韓国・鉄鋼編/<1>

POSCOの戦略(上)  量的拡大と品質高度化へ

日刊産業新聞 2004/2/3

 POSCOの李亀澤会長兼CEOは1月14日、ソウル市内の韓国証券取引所で開催したCEOフォーラムにおいて、約240人のアナリスト、マスコミ関係者を前に「粗鋼4200万トン構想」を表明。「資源メジャー、鉄鋼、そして自動車など鉄鋼需要業界の寡占化がそれぞれ進み、一方でアジアの鉄鋼市場も急速に拡大している。このような状況において、POSCOの成長戦略として、あるべき方向性を提示したものだ」と中期ビジョンの背景を説明した。

【成長と革新】

 新中期経営計画(04年―08年)のキャッチフレーズは「成長と革新」。 「業容拡大と収益構造の改善を加速する」(李会長)ための投資枠の大幅拡大、高付加価値品種へのシフト加速など、さまざまな具体策を打ち出した。


CEOフォーラムで中期ビジョンを説明する李会長
 業容拡大に向けて表明した「4200万トン構想」は、まず2900万トン規模の国内粗鋼を08年までに3200万トンへ拡大。さらに中期計画とは別に10年内、2014年までに海外での1000万トン規模の生産態勢を新たに構築するというものである。

 あまりに急速な中国の鉄鋼需要拡大で陰が薄くなっているが、OECDの枠組みでの世界の過剰鉄鋼設備の削減計画は継続している。このため李会長の「拡大宣言」を衝撃的に受け止める向きも少なくない。

 たとえば「株主および社内外に向けての李会長・CEOのいわゆる続投宣言」(現地商社)という見方から、「能力増強投資を控えてきたPOSCOの宣戦布告だろう」(現地鉄鋼企業幹部)との意見まで、さまざまな受け止め方がある。

 李会長は03年3月に劉常夫前会長からポジションを引き継いだところ。本年3月に常任理事(取締役=任期2年)としての再選期を迎えるが、新経営計画発表後、韓国内では李会長は続投するとの見方が強まった。

【攻めの経営に】

 ソウルに続き、ニューヨークで26日に開催したCEOフォーラムでは「過去10年は財務内容の改善、配当性向の向上を優先してきたが、これからは積極投資による成長戦略を具体化することで『量的拡大と品質の高度化』を果たし、世界最高の鉄鋼企業の地位をめざす」と述べ、攻めの経営に転じる考えを明らかにした。

 99―03年の5年間の投資実績は7兆5000億ウォン。新中期計画では5年間13兆5000億ウォン(約1兆3500億円)の投資枠を設定。04年は前年の2・2倍に相当する2兆8000億ウォン(2800億円)を計画、このうち2兆3000億ウォン(2300億円)を国内製鉄事業に投じる考えだ。

 韓国の03年の国内鋼材生産は約5300万トン。1400万トンを輸出、1600万トンを輸入した。李会長は「韓国は約200万トンの純輸入国であり、とくにホットコイルの輸入量は500万トンに達し、供給が不足している」と強調する。

 POSCOの生産は2820万トン、輸出が680万トンで生産・輸出ともに全体の約2分の1を占める。唯一の高炉一貫ミルであり、国内の能力増強計画については、「供給責任上、能力拡大は不可欠」(李会長)という考えがベースにある。

【額面配当率120%】

 POSCOの2003年末の外国人持ち株比率は66%に達し、議決権は7割を超える。「4200万トン構想」を含めた成長戦略は、IR活動の一環ともいえる。

 03年の最高業績を受けて、前年比70%アップの1株当たり6000ウォンの配当を決めた。額面配当率は120%。発行済み株式総数は9000万株で、6000ウォンの配当原資は5400億ウォン(540億円)に上る。
 株価は03年年初の11万8000ウォンが年末には16万3000ウォンまで上昇。さらに本年1月6日には17万1000ウォンをつけている。

 株主リターンや株価を強く意識した経営戦略はいきおい短期的なものとなり、中長期な視点での設備投資や研究開発投資の優先順位が低くなる可能性がある。米国の高炉大手が凋落の一途を辿ったのは、これが主因とされている。

 米高炉と大きく異なるのは、POSCOが短期的なIR戦略を大々的に行いつつ、将来をにらんだ投資をも実行できる収益力と強固な財務体質を確立しているところにある。