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【企業研究シリーズ】

大変革時代を生き抜く― JFEグループの底力

<1> 序章 企業価値向上へ邁進

日刊産業新聞 2006/7/10

 世界鉄鋼最大手のミッタル・スチールが第2位のアルセロールを買収しようとしている。鉄鋼業界は次なる再編の可能性を秘め、大変革時代に突入したといえる。日本の鉄鋼メーカーはかつて経験したことのない大きなうねりの中で、真の実力が試されようとしている。

  旧川崎製鉄と旧NKKの経営統合により誕生したJFEグループは、統合後3年間の第1次中期計画を前倒しで超過達成し、2006年度を起点とする第2次中期3カ年計画をスタートさせた。グループの中核をなす鉄鋼事業会社JFEスチールの進むべき方向は明確だ。「高級鋼志向を一段と強め、安定・持続的な成長をめざす」(馬田一社長)。規模よりも質。付加価値を高めていくのが基本だ。ミッタルとアルセロールの統合により年産1億トンを超える規模のメーカーが誕生する局面にあっても、その路線は一向に揺るがない。


JFEグループ首脳
  前中期での成果には目を見張るものがある。設備の集約など統合によるシナジー効果で収益力を高め、財務体質を改善することに主眼を置き、最終の05年度では連結経常利益5000億円を確保し、D/Eレシオ(株主資本に対する有利子負債倍率)は1を切るレベルに到達した。中国の成長で需要が急拡大するという追い風はあったものの、「東日本、西日本の2大製鉄所体制とするなど真のリストラクチャリング(事業の再構築)に取り組み、コスト競争力・品質対応力を強化した成果といえる」(中西敏修常務経営企画部長)。

▼高級鋼を拡充

  JFEスチールの第2次中期計画は高収益をいかに安定・持続させるかをテーマに、高級鋼の生産能力増強に相当な投資を行う一方、JFEホールディングスへの配当、有利子負債削減も引き続き積極的に進めるという、三方への配分を意識した取り組みを実施する。

  高級鋼は08年度の販売量を05年度比300万トン増やす計画で、年間生産量3000万トン(単独粗鋼ベース)に対し2300万トンをめざす計画だ。中でもオンリーワン・ナンバーワンと位置づける商品は08年度で足元の21%から26%に引き上げる方針だ。自動車、造船、エネルギー関連などがメーンターゲットになる。

  高級鋼拡充に向けた設備増強投資も順次進めており、来春には300万トン増に対応できる年産3000万トン体制がほぼ整う。グループ会社の生産能力も系列電炉メーカーであるJFE条鋼の仙台製造所への新型電気炉導入などにより、粗鋼ベースで現状の年間約360万トンから約400万トンに引き上げる。グループとしての弱点ともいえる自動車用特殊鋼棒線の補強を目的とするもので、これも高級鋼拡充の一環。またアジアを中心とした海外アライアンス先との垂直分業ネットワークについても、より高級鋼を主体とした体制に切り替えていく計画だ。

  統合によるメリットの享受も終わったわけではない。3年間をかけてスチールの業務システム統合(J―Smile)を完了、これにより最適生産化、納期短縮など顧客対応力が高まるほか営業部隊の生産性向上などで今後、年間100億円のコスト削減効果が見込める。さらにグループ会社の業務改革、システム統合を今中期計画中に進め、これによる効果の上乗せも図る。

▼アジアで生きる

  JFEスチールのメーンマーケットはアジア圏。ここで顧客満足度を高め、高級鋼の顧客を囲い込むことが不可欠だ。国内ユーザーへの対応力強化を着実に進めるが、内需の大幅な伸びが望めない中で、アジア圏での高級鋼需要への対応は、今後ますます重要になってくる。海外拠点は(前中期で計画にはなかったが)中国の広州JFE鋼板を立ち上げ、中国での高炉一貫製鉄所のFSも昨夏に終了した。

  「中国、インドやその他鋼材需要の伸びる地域では、日本の製造業の進出にあわせて高級鋼をつくる形が、日本の産業全体として効率的だと考えており、将来に向けての可能性については勉強しておく」(馬田社長)。日系自動車メーカーがシェアを伸ばしている北米への展開は「日本からの製品・中間製品の輸出の多くはADなどでブロックされており、かつ遠隔地であることから垂直分業が成り立ちにくい。また、高炉を含めた上工程に再び取り組むのも難しい。したがってAKスチールやドファスコとの提携の中でできることをやっていく」(同)。

  いま世界的な鉄鋼業のM&A(企業の合併・買収)、再編が起こっている。ミッタルによるアルセロール買収により、アルセロール傘下のドファスコとの提携見直しも迫られよう。さらに再編の波が国内へも押し寄せてくるだろう。JFEは敵対的買収に対する防衛策を検討はしているものの公表はしていない。透明度の高い経営をし、株主価値、企業価値を高めることが王道であり、完全な防衛策というものはないからだ。高級鋼で生きていくことに揺るぎはない。そのために技術開発力、商品開発力、競争力の源泉たる製鉄所の力をいかに強めていくか、それがポイントになる。環境対策なども避けて通れない問題だ。第2次中期計画はJFEスチールにとって、次なる飛躍に向けたステップを踏めるか否かの重要な3年になる。