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岐路に立つ鉄鋼流通

(1)総論 10万円の波 再編早める

日刊産業新聞 08年9月11日
  「来年まで商売を続けていられるかどうか分からない」。ある鋼材特約店オーナーは先行きの経営不安を漏らす。鉄鉱石や石炭など原燃料価格の上昇による大幅なコストアップで、年初からの市況上伸幅がトン3万円以上に達している鋼材価格の急騰は、鉄鋼業界を取り巻く環境のパラダイムシフトを生んだ。急激なコスト負担増に見舞われた鉄鋼流通は、業界再編の新たな局面に向かっている。

  鉄鋼メーカーの大幅な値上げを受けて、鉄鋼流通は年初来”適正価格の維持”を掲げ、販売価格の引き上げを進めてきた。東京地区の主要品種の市況は8月末時点で、H形鋼(200×100)がトン12万7000円(07年12月末比4万5000円高)、異形棒鋼が11万3000円(同4万3000円高)、厚板(19ミリ、5×10)が12万円(同3万8000円高)、熱延鋼板(3・2ミリ)が10万4000円(同3万3000円高)となった。空前のコストアップにけん引されて市況が高騰した結果、鉄鋼流通の収益は大幅に伸び、鋼材価格の上昇は各社に恩恵をもたらした。

主要品種の相場推移  しかし、いつまでも恩恵を享受できるとは限らない。過去の仕入れ在庫を高い市況で販売できる状況は一過性のもの。鋼材仕入れ価格がピークに達している今、現行市況を維持できなければ利益の確保が困難になってくる。また鋼材の値上がりによって、各分野でユーザーの購買意欲が減退するというジレンマも抱える。

  鉄鋼流通の大半は建設用鋼材をメーンに取り扱っているが、その向け先である建設業界は公共投資の削減や、マンション市場縮小などで厳しい需要環境に置かれている。一部都市圏の再開発など大型物件を除いて、引き続き中小規模物件の減少を予想する向きが強い。野村総合研究所は、人口減による新規住宅着工の減少で、2015年度の国内建設投資がピーク時の83兆9708億円(92年度)に対し、約53%の水準(約45兆円)に半減する予測を立てている。

  改正建築基準法の影響から抜け出しつつあったところに、今回の鋼材急騰が建設需要の回復に水を差したとの指摘もある。資機材価格の高騰が経済に大きな打撃を与えていることから、国土交通省は同省直轄工事に、鋼材と燃料の2品目について契約額の上積みを認める「単品スライド条項」を80年以来28年ぶりに適用する支援策を打ち出した。ただ、大きな割合を占める民間建築工事への適用は、まだ先が見えてこない。

  需要縮減に伴い、ゼネコンの受注価格競争は激化し、7月には中堅ゼネコンの真柄建設、北海道の北野組などが経営破たんに追い込まれ、ゼネコンの経営悪化が喧伝されている。そのしわ寄せを受けて、鉄骨加工業者など専門工事業者の収益が悪化。建築用鋼材を販売する問屋にとって、収益確保だけでなく、与信管理も重要な課題となっている。他方、資金繰りの問題も噴出。納品から売上金の回収に至るまで一定の期間を要するため、流通各社は鋼材販価が大幅に上昇したことで、より多くの資金が必要になる。「従来以上に資金の収支バランスに注意しないと、財務が一気に不安定になる」(大手鋼材特約店)と警鐘を鳴らす。

  「トン10万円台を超えた市況は簡単に戻らない。相場は上がったら下がるのが世の常だが、鋼材価格は明らかにステージが変わった」(大手厚板加工業者)。過去、市場の需給バランスで決定されていた鋼材価格だが、07年以降は資源事情で決まる不可思議な現象が起こり、これが定常化しつつある。山元の事情が変わらなければ、09年度以降もメーカーの価格が現行水準を大きく割り込む可能性は低い。

  これを背景に、飽和状態にある国内マーケットで生き残るためには、メーカー値上げを即価格転嫁できなければ経営は成り立たなくなる。近年の好況に支えられていた鉄鋼流通だが、資源高騰に端を発した鋼材価格のステージシフトによって統合、再編の流れが加速するはずだ。

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