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【新春インタビュー】

日本鉄鋼連盟 宗岡正二会長

官民で回復の絵図

日刊産業新聞 2010年01月04日

 2009年、100年に一度ともいわれる世界同時不況の影響で世界中の鉄鋼メーカーが大規模減産を迫られ、その多くが赤字転落した。2010年、鉄鋼業界は新たな成長シナリオを描いていくことになるが、景気回復の足取りは不安定で、中国の能力過剰問題や資源リスクも抱える。日本鉄鋼連盟の宗岡正二会長(新日本製鉄社長)に課題と展望を聞いた。

――まず09年を振り返っていただきたい。

 「強く印象に残っていることが二つある。一つ目は鉄鋼業界が08年の末から09年春先まで急激かつ大幅な減産を強いられたこと。1―3月の全国粗鋼生産量は1760万トン、年率にすれば7000万トン。それまでの1億2000万トンレベルからの減産はまさにフリーフォール状態だった。結局、上期は4330万トンにとどまり、1969年以来40年ぶりの歴史的低水準となった。下期に入って徐々に持ち直したものの、09年暦年は約8770万トン、71年以来38年ぶりの低水準となった。海外では年前半にアルセロールミッタルが2万人、ティッセンクルップが1万2000人、USスチールも1万人をリストラした。それだけではとどまらず、年後半にはアルセロールミッタルがさらに1万人、ティッセンクルップがさらに2万人という二段重ねのリストラを余儀なくされた。世界中の鉄鋼メーカーが痛みを伴いながら大幅減産を進めたものの、需要の減少には追いつかず、需給バランスが崩れ鋼材市況も下落し、業界全体が大きなダメージを受けた。需要産業においても米BIG3の経営が悪化、GMが経営破たんし、政府の管理下に入った。日本でもトヨタ自動車や日立製作所をはじめとする名だたる企業が数千億円の赤字に転落するなど、甚大な影響を与えた」

――二つ目は。

    「地球温暖化問題だ。削減の道筋を含めて国内で何ら合意を得られないままわが国の温暖化ガスの中期削減目標が9月に国連で宣言された。その目標を達成することが技術的に本当に可能なのか、日本の産業構造にどういう影響を与えるのか、その結果としての国民負担がどうなるか、さらに雇用にどのような影響を及ぼすのか――などについて国民に問うこともなく実質的に国際公約してしまった。本来ならば、広く選択肢を示し、国民や産業界に広く意見を求め、その意見を踏まえて議論を積み重ね、結論を導き出すべき事柄だったのではないだろうか」

――さて2010年。どういう年になるのでしょうか。まず世界経済の観点から。

 「新年ということもあり、明るい話をしたいところだが、そういう見通しは立たない。足元の状況をどう認識するかにかかってくるが、米リーマンブラザーズの経営破たんに端を発した金融危機、その後の同時不況で世界経済が過剰に収縮したと考えれば、一定期間を経れば元に戻ってくるのだろう。そうではなく、欧米の金融資本にけん引されて5―6年続いた同時好況による過剰な膨張、つまりバブルが破裂したと考えるならば、再び成長路線に戻るまでには相当の時間がかかる。そのいずれであるかは歴史が証明してくれるだろうが、当分の間は一部の例外の地域を除いて厳しい状況が続くとみた方がよい。地域別に見ると、中国やインドなど本当に力のある発展途上国、ベトナムやインドネシアなど東アジアの一部、豪州やブラジルなどの資源国はすでに回復過程に乗っているようだ。先進国はというと、政府の景気刺激策の効果もあって回復の兆しが見えつつあるが、その足取りは非常に不安定。各国それぞれ財政事情があるだろうし、景気刺激策はいつまでも続けられるものではない。そもそも欧米は金融問題がまだ解決されていないし、雇用不安も続いており、回復するとしてもしばらくは緩慢としたものにしかならないだろう」

――日本はどうなるのでしょうか。

 「政府の景気刺激策のスポットライトが当たっている自動車や家電は回復傾向が見られるが、その一方でライトが当たっていないところ、つまり民間設備投資や建設関連の産業は相変わらず苦戦している。民間企業の設備投資意欲が落ち込んでいるため工場は建設されず、設備や機械類も発注されていない。これには、能力過剰という問題も背景にある。余剰人員を抱える中では経営者は新たな投資に踏み込めない。さらに言えば、政権交代期という過渡期にあるからなのだろうが、補正予算が執行停止になったままの時期が続き、ようやく執行するといったものの具体的な中身が伝わってこない。デフレ宣言をしたが、どのような対策が打たれようとしているのか分からない。14年ぶりの円高になっているが、これを放置するのか、財政的・金融的な手当てが打たれるのかも不透明。地球温暖化問題についても、その中身や具体的な取り組みついて一切明らかにされないまま財源論からいきなり環境税や排出量取引の導入議論が登場するような状況では経営者は国内における生産体制について慎重な判断をせざるを得ない。あまりにも先行きの不確定要素が多過ぎる。従って当面は厳しい経済環境、経営環境が続くと覚悟して経営に当たらなければならない。とくに国内に照準を合わせている企業は相当厳しい状況が続くと考えた方がよい」

※本文の続きは日刊産業新聞で

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