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コバルト、モリブのLME取引

成否のカギ握る実需筋

日刊産業新聞 2010年03月04日

 ロンドン金属取引所(LME)が2月22日にコバルトとモリブデンの先物を上場した。初日こそコバルト90枚(90トン)、モリブデン9枚(純分54トン)の出来高があったが、その後は激減。取引が成立しない日が目立つようになってきた。市場規模6万トン弱のコバルトと30万トンのモリブデン。世界初のレアメタル上場は成功するのか。

 「LME上場は失敗する」。上場初日はコバルトとモリブデンを合計して99枚の出来高を記録したが、2日目は早くも半減。さらに3日目になると合計しても13枚にまで減った出来高を眺め、関東地区のレアメタル商社はこう切り捨てた。

 世界で取引されるコバルトは英金属情報誌のメタルブリテン(LMB)、モリブデンは米メタルズ・ウィーク誌に掲載される価格が値決め指標になっている。しかし掲載価格は各誌がトレーダーにヒアリングした結果。極論すればトレーダーのさじ加減一つで価格操作が可能だ。

 このためコバルトとモリブデンのLME上場については、「価格形成が透明になる」(生産者筋)ことや、「ヘッジの手段ができる」(岡田昌徳・日本鉱業協会長)として業界内に歓迎する声は多い。

 ただし「値決め指標に使うかどうかは今年1年間LMEの動きを見てから」と大手商社のコバルト担当が指摘するように、「興味はあるが今すぐに取引しようとする動きはない」(モリブデン扱い商社)のが需要家、生産者、商社、トレーダーを含めた関係者の大勢。それが現在のLMEの出来高に反映されている。

 LME上場の成否を握るのはもちろんコバルト、モリブデンともに「現物を取り扱っている人の参加」(総合商社)が絶対条件。しかし「出来高が最低ラインとして100枚はないと参加したくない」(同)のが本音。

 鶏が先か卵が先かのような状況だが、一つはっきりしているのは、今のような10枚、20枚程度の出来高が続けば、関東地区のレアメタル商社が指摘するように上場は失敗に終わる。

 現在指標になっている金属情報誌から価格形成の主導権がLMEに移らなければ、LME上場が成功したとは言えない。そこで最大の関門となりそうなのが、コバルトを具体例に挙げると、取扱量が最も多いスイスの商社グレンコアの存在。

 コバルトの市場規模6万トン弱のうち、LMEで取引対象となるのがカソード、ブリケット、インゴットの3種類で市場規模は3万―4万トン。このうち1万5000トンをグレンコアが取り扱っている。

 世界市場の40―50%を握る立場になれば、「自分たちで価格を操作できる」(大手商社のコバルト担当)のに、わざわざLMEを使って取引する必要がない。「グレンコアはLMEに消極的な姿勢」(同)なのは当然だ。  価格差の問題を指摘する声もある。LME取引への参加条件として、モリブデン取扱商社は「スプレッド(価格差)の縮小」を挙げた。

 LMEのリング取引における買い唱えと売り唱えの値差は、参加者が多いベースメタルの場合は値差が開いてもトン当たり5ドルや10ドル程度。しかしコバルトとモリブデンは上場開始から常に1000ドルの値差がある。

 現地2日のモリブデンの場合は買い唱え4万ドルに対して売り唱え4万2500ドルと2500ドルの開きがあるため、「少なくとも100ドル未満にならないと取引は成立しにくい」と指摘する。

 指標となる金属情報誌との連動性を成功の条件とみる向きもある。LMEとの価格がかい離していたら、「ヘッジの機能が使えない」(生産者筋)からだ。上場初日のコバルト価格はLMEの方が約8%安かった。

 現時点でLME取引への参加を表明していなくても、「ニッケルのようにコバルトとモリブデンもLMEに収れんされる」とみる関係者は多い。ニッケルも生産者プライスからLMBへ移り、結局はLMEが国際指標となった。

 コバルトはLMEとLMBの値差は直近で1―2%程度にまで縮小。徐々に連動性が出てきており、上場成功のための条件を一つクリアしつつあるといえる。ただしグレンコアをはじめとする現物取扱業者の市場参加、スプレッド縮小、出来高の増加など課題は山積している。今後も取引が盛り上がらなければ指標の連動性を維持することも難しい。LMEのコバルト、モリブデン上場は手探りの状況がしばらく続きそうだ。

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