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構造改革に挑む 大競争時代の到来/1/総論

粗鋼8000万トンケースに備え

日刊産業新聞 2010年08月16日

 21世紀に入ってから2010年までの10年間で、世界の鉄鋼業界は大変貌を遂げた。

 2001年4月、NKKと川崎製鉄が経営統合で基本合意。翌年には新日本製鉄が住友金属工業、神戸製鋼所との相互出資を含めた提携に合意。50年以上にわたって続いた高炉5社体制が崩壊し、2大勢力に集約された。

 海外でも構造改革が進んだ。欧州では01年に仏ユジノール、ルクセンブルクのアーベット、西アセラリアが合併し、年産能力5000万トン規模となる世界最大の鉄鋼ミル、アルセロールが誕生。米国ではUSスチールを残して、ベスレヘムスチール、ナショナルスチール、LTVなどの大手・中堅高炉が相次ぎ姿を消し、電炉大手ニューコアが台頭してきた。

 これら先進国で起こった00年代前半の業界再編は、鉄鋼需要の停滞による需給構造問題が背景にあった。世界粗鋼は約40年にわたり7億トン台で停滞し、OECDでは世界の鉄鋼過剰設備の廃棄議論が続いた。世界中の鉄鋼ミルは展望を開けず、リストラで身を縮め続けるしかなかった。日本の鉄鋼業界はゴーンショックがトリガーとなり、サバイバル合戦に突入。高炉業界は再編を迫られ、中山製鋼所が高炉を休止し、伊藤忠丸紅鉄鋼、メタルワンが発足するなど、大規模な構造改革が行われた。  

需要拡大期

 その後、世界の鉄鋼市場は一転、成長期に入った。世界粗鋼は04年に10億トンを突破し、07年には13億5000万トンに達した。日本も07年度、全国粗鋼が過去最高の1億2150万トンを記録。90年代後半のボトムとなった98年度に比べて約3000万トン、大手高炉1社分の生産増を分かち合い、鉄鋼メーカー、商社・流通ともに高収益を謳歌した。

 需給構造問題の解消が確認された00年代中盤、世界の鉄鋼ミルは需要の伸びと市場のグローバル化に対応するため、拡大路線に大きくかじを切った。

 成熟産業とみられていた鉄鋼産業に、金融資本の投資マネーが流入。それを活用したラクシュミ・ミッタル氏がM&Aの手法で規模拡大に動く。05年、著名投資家のWLロス氏がベスレヘム、LTVなど倒産した米高炉大手を買収して形成していたISGを吸収。06年にはアルセロールの買収にこぎ着け、年産1億トンを超えるアルセロール・ミッタルを築き上げた。

 印タタスチールが欧コーラスを買収し、ブラジルやロシアの鉄鋼ミルが米ミルを傘下に収めるなど、新興国ミルもグローバルマーケットに乗り出してきた。とくに需要が拡大する中国では、多くの鉄鋼ミルが設備能力を急ピッチで増強。同国への先進国ミルの進出も相次いだ。新日鉄・上海宝鋼・アルセロール、JFEスチール・広州鋼鉄、ティッセンクルップ・鞍山鋼鉄、POSCO・本渓鋼鉄――などが、それぞれ自動車鋼板の合弁事業を立ち上げた。

 国内でも高炉各社による高炉の拡張改修、自動車用鋼板など高級鋼の能力増強投資が続いた。  

世界を動かす中国

 需要拡大期を経て、世界の粗鋼シェアは中国に一気に偏り、業界地図も大きく塗り替えられた。00年の世界粗鋼ランキング(世界鉄鋼協会まとめ)は、1位が新日鉄(2840万トン)、宝鋼集団(1770万トン)は8位だった。09年はトップがアルセロール・ミッタル(7750万トン)、3位がPOSCO(3110万トン)、新日鉄は4位(2650万トン)、JFEスチールが5位(2580万トン)。トップ10には2位宝鋼集団(3130万トン)、6位江蘇沙鋼集団(2050万トン)、8位鞍鋼集団(2010万トン)と中国の3社がランクインし、11位以下にも首鋼集団や武鋼集団、邯鄲鋼鉄などが続く。協会未加盟だが、河北鋼鉄集団、山東鋼鉄もトップ10クラスである。

 01年の中国の粗鋼生産量は1億5000万トン。それが本年7月には年率6億5000万トンまで拡大。世界粗鋼の約5割を占める中国の需給変動が、鋼材・原料の国際需給と価格を大きく左右するという市場構造が出来上がった。

 資源業界でも再編が進んだ。00年にリオ・ティントがノースを買収し、01年にはBHPとビリトンが統合、03年にはCVRD(現ヴァーレ)がカエミを吸収。その結果、BHP、リオ、ヴァーレのメジャー3社がシェアを大きく引き上げ、鉄鋼ミルと原料サプライヤーとのパワーバランスが、原料側へと逆に大きく振れた。需給タイト化と市場寡占化により、原料価格は大幅に上昇。さらに長年続いてきた日本の大手高炉と資源メジャーとのベンチマーク方式による年間契約が、スポット価格をベースとした四半期契約に変わり、原料の需給構造も大きく変わった。  

大競争時代に

 アジアでは、韓国のPOSCOが6000万トンプラスαをめざして、内外で設備投資を進め、現代製鉄が高炉一貫製鉄所を立ち上げた。中国の東北地区では首鋼唐山の曹妃甸、鞍本鋼鉄集団の営口の2つの高炉一貫製鉄所が相次ぎ稼働し、華南地区では宝鋼集団の湛江、武鋼集団の防城港などの大型プロジェクトが、中央政府のゴーサインを待つ。インドではタタスチールやJSWスチール、ブーシャンなど大手ミルが、新規の高炉一貫製鉄所建設を計画。インドネシアではPOSCOがクラカタウとの合弁一貫製鉄所建設で合意。ベトナム、フィリピン、タイ、マレーシアでも自国ミル建設構想がそれぞれに練られ、海外ミルが参画のチャンスをうかがっている。アジアマーケットは大競争時代に突入する。  

内需5000万トン

 需要拡大期、米リーマン・ショックを経て、いま世界の鉄鋼業界は、アジアの鉄鋼生産能力過剰、原料の供給不足という、新たな構造問題に直面している。

 ただ90年代後半までの構造不況時と異なり、世界の鉄鋼消費は拡大を続ける。09年の12億5000万トンが、20年には18億トンに達すると予測されている。

 一方、8000万トンから6000万トンに縮んだ内需は、少子化、製造業の海外シフトなどによって、自然体では5000万トンまで落ち込むとみられている。鋼材輸出次第だが、全国粗鋼が7000万―8000万トンに縮小する可能性がある。これは鉄鋼企業の多くが赤字に陥った09年上期のレベル。内需創造を急ぐとともに、厳しい経営環境に備えた構造改革も進めなければならない。

 さて2020年の鉄鋼業界はどうなっているだろうか。この10年を検証しつつ、20年に向けての展望を探っていく。

※連載内容は以下の通りです。
総論
第1部(メーカー編)
  1、高炉 経営戦略/生産・販売戦略/輸出戦略/海外事業戦略/
原料対策/収益・財務/2020年に向けて
2、電炉 普通鋼電炉/特殊鋼電炉/ステンレス
3、二・三次メーカー 鋼管/鋼板/建材/棒線
第2部(流通・加工編) 商社/特約店(普通鋼)/特約店(二・三次)/特約店(特殊鋼)/
特約店(ステンレス)/コイルセンター/シャー
第3部(原料編) 主原料/スクラップ
第4部(海外編) 中国/東南アジア/インド/韓国・台湾/米州・欧州



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