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韓国の鉄鋼事情 未曾有の拡大局面に

藤原義久氏(韓国三菱商事金属事業本部長)

日刊産業新聞 2010年08月06日

 韓国鉄鋼業は、本年新たに高炉2基が立ち上がり、昨年から今年にかけて熱延ミルが2基、厚板ミルが3基稼働するなど、未曾有ともいえる拡大局面にある。活力あふれる韓国経済、鉄鋼業の現況と見通しを、現地事情に詳しい韓国三菱商事金属事業本部の藤原義久本部長に聞いた。  

――韓国の景気は。

 「韓国経済は10年に入って、非常に力強く伸びている。09年も0・2%プラスできていて、10年は5・9%成長するということになっている。民間の消費も好調。設備投資も過去2年やってきていなかったということで好調。建設投資は大きく増えていないが、それなりにいい。輸出依存なので、世界経済の不安定さが不安要素も、今のところ元気だ」  

――鉄鋼業も好調。

 「昨今注目を集めているのが唐津地域。現代製鉄の高炉、東国製鋼の新厚板ラインと、唐津地域を中心に鉄鋼生産が伸びる。08年度の6000万トンの鉄鋼生産能力が、11年までに8000万トンに増えていく。少子化世界一、出生率が1・2を切っている状況なので、日本よりも少子化はひどい。少子化で内需は増えない。8000万トンというと日本の7割まで追いついてくる。特に増える部分は厚板が多い。世界一の造船メーカーの現代重工業がある」  

――内需がどの程度伸びると見ているのか。

 「見掛け消費で08年5900万トン、09年は落ち込んで4500万トン、10年見通しでもまだ5100万トンだから、内需の伸びは限定的ではある」  

――能力増強で輸出基地にしようと。

 「輸出だ。輸入も08年は2900万トンあったのが09年2000万トンに落ち込んで、本年度も2000万トン。輸入は今後は増えないというより、減ると見ておいたほうが自然だ。韓国のお客さんが海外生産している。現代重工、サムスン、LG向けは韓国勢がやっていくだろう。大消費地、中国があり、今後内需が増えるアジアがあり、この消費を取り込んでいくということだと思う。鉄鋼の需要産業だが、自動車が急回復している。造船はまだ大きくはないが、機械も家電も伸びている。造船は09年が非常に高水準だった。現代重工は世界一だ。現代起亜自動車は世界5位。非常に元気なお客さんが多い」  

――10年後はどうか。

 「経済もどうなるか読めない。韓国内需が限定的だというのは、出生率が1・2を切っている。一方街ではタクシー以外は古い車が走っていない。結構消費意欲は旺盛だ」  

――日本同様に人口が減り、需要が減る。

 「サムスンやLGの強さ、現代もそうだが、内需が限られているので、早く外に出て外需を取り込むという成長エネルギーが働いたのではないか。日本は内需が大きい。内需がない韓国は外に打って出る力が強かった。IMFの危機の時に企業統合したりしているので、強いところが生き残った」  

――韓国経済の将来は、まだまだ明るいと見ているのか。

 「明るいと思う。とにかく元気な企業が伸びている。外需をうまく取り込んでいる。韓国人は外に打って出るという気概は、若者を含めて高い」  

――現代製鉄の高炉進出は、POSCOや日本の製品を外に押し出す形になる。

 「高級鋼は押し出されないだろう。自動車鋼板とか高級鋼材の輸入は続くと思う。ただ低グレードのところはなくなっていく」  

――韓国鉄鋼業が輸出市場に進出する際に、日本の商社のノウハウも生かせるのでは。

 「彼らは韓国商社を中心にやっている。われわれができる範囲は限定的だろう」  

――元気な国の元気な業界での、韓国三菱の将来展望は。

 「ビジネスチャンスとしては、スクラップをはじめとした原料など。鉄鋼メーカーが能力を増やしているが、国内におけるスクラップの供給は少なく、スクラップ純輸出国の日本からの原料輸入。合金鉄をはじめとした輸入というところだ。鉄鉱石や石炭が取れるわけではない。限定的なお客さんで、韓国製品の3国間というのはあるかもしれない。(赴任後)3カ月だが、お客さんの成長に従って取引も増えていくのを体感している」  

――国内の流通は。

 「参入のハードルは高い。POSCOはユーザー直売りだし、小さいお客さんはポスチールだし。国内の取引には韓国商社と言えども、商社は絡んでいない」  

――韓国内で投資する考えは。

 「簡単ではない。内需が増えない。将来的には投資も出てくるだろう。韓国のお客さんの海外進出を狙って、われわれが投資する機会があるかもしれない。将来的には韓国の企業と、海外市場において合弁事業を行う発想があってもいいと思う。そういう国境を超えた枠組みは十分考えられる」

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