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鉄道電線 動き出す新規ビジネス

(1)「インフラ回帰」で注目

日刊産業新聞 2010年09月22日

 国内大手電線メーカーが、海外鉄道市場に関心を向けている。新興国の経済成長に伴う貨物・旅客輸送の増加、CO2排出量削減を目的とするモーダルシフトの流れなどを受け、鉄道建設計画が世界各国で数多く浮上する。海外インフラ市場に新たな成長の足がかりを求める大手電線メーカーにとって、鉄道は電力、通信と並ぶ注目産業の一つだ。鉄道市場全体が欧州系企業に支配される構図の中、日本の電線メーカーは、事業拡大の余地をどう見いだせるか。  

◇手探り段階の鉄道ビジネス

special_194  「官公需依存脱却」「非電線事業拡大」を1990年代から掲げてきた日本の大手電線メーカーが、今、「インフラ回帰」の傾向を強めている。日本国内の電線市場は成熟して久しいが、海外電線市場、とくに新興国のインフラ絡みの需要は、これからが伸び盛りだ。

 住友電気工業は今年5月、中期事業課題の一つとして「中国・アジアなどの鉄道インフラ需要の増加に対応し、トロリ線や車両用空気ばねの製造・販売の拡大を図る」と明示。古河電気工業、日立電線も同4月発表の新中期経営計画で、鉄道市場への注力を打ち出した。鉄道関連製品のすそ野は、非電線のものも含めて広く、潜在需要への期待値は大きい。

 では、鉄道ビジネスでどれだけの収益が見込まれるのか、その達成に向けてどのような事業投資を行うのか。まとまった形で数値目標や生産計画を対外公表する電線メーカーは、まだない。グローバルな実態把握と横断的な戦略の策定は現在進行中、というのが各社の現状だ。鉄道向けの製品群が複数の事業セグメントにまたがり、「鉄道」とひとくくりにしづらい面もある。

 ただ、傾向として中国市場では電線現地生産化の動きが先行しており、とくに走行中の車両に電力を供給するトロリ線は住友電工、古河電工、日立電線の3社が、すでに製造合弁を構える。鉄道車両用電線の海外生産をめぐる動きもここに来て一部出始めている。  

◇鉄道電線ビジネスの規模感

 欧州鉄道関連企業工業会(UNIFE)は2008年9月、世界の鉄道関連市場規模(アクセス可能分)を07年で860億ユーロ(約9兆6200億円)、16年予測で1110億ユーロ、年成長率2・5―3・0%と発表した。アクセス可能分とは、閉鎖的な内部需要を除いた、外部に開放された需要を指す。トンネル、橋梁、駅舎などの土木工事は含まない。

 一部の国内大手電線メーカーは、鉄道車両用電線の世界市場を年300億―400億円、鉄道ビジネスの一大市場と目される中国国内のトロリ線需要を、年17億元(約220億円)と推計する。UNIFEの9兆6200億円と単純比較すると、どちらも1%に満たず、電線は鉄道ビジネス全体の中で、フィールドが狭いことを示唆する。

 同じ輸送用電線でも、自動車用ワイヤハーネスの世界市場は09年で2兆7000億円(富士キメラ総研調べ)と、規模が一回り違う。一方で、日本鉄道車輌工業会編「鉄道工業ビジネス」では、UNIFEの調査データに基づき、鉄道関連市場全体の大きさを「自動車は20倍近い市場規模で別格としても、航空機に匹敵し、造船の倍近く」と分析している。

 これらの背景から類推すると、電線メーカーの狙う鉄道ビジネスは、自動車部品事業ほどのボリューム感はないものの、手堅いサイズと成長の見込まれる事業分野と位置付けられる。  

◇主戦場は高速鉄道

 鉄道ビジネスの世界は仏アルストム、加ボンバルディア、独シーメンスの「ビッグ3」に支配されており、欧州系企業の優位性は、鉄道用電線の市場にも及ぶ。その牙城に食い込めるもの、付加価値の高いものを絞り込むと、日本の電線メーカーのメーンターゲットは、おのずから高速鉄道になる。JRとの共同開発技術、とりわけ新幹線対応で培った技術が武器になる。

 部材メーカーの川下では、鉄道車両メーカー、総合商社、鉄道会社などの「日本企業連合」が、海外高速鉄道の受注獲得に動いている。日本連合の受注成否が、部材メーカーの海外戦略に与える影響は当然小さくないはずだが、トロリ線の中国展開に見られる通り、日本連合の動きに必ずしも縛られるわけでもない。

 日本の電線メーカーに今求められるのは、鉄道ビジネス市場を支配する欧州系規格への早期対応、そして現地供給体制の早期構築だ。製品によっては、ビッグ3を含む海外車両メーカーへの販売比率を高める策も必要だろう。台頭著しい中国勢との競合も課題になる。

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