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鉄鋼需給を聞く

新日本製鉄常務取締役 内田純司氏/内外市場年末にも正常化

日刊産業新聞 2010年10月06日
 

――アジア市場の不透明感が強まっているように見える。

 「中国からアセアン、インドを含めたアジアは、中間所得層が増え、消費が拡大する成長軌道に乗っている。それが見えにくくなっているのは、圧倒的にウエートが高い中国において、経済成長を維持するための、良い意味での調整が進められているためで、アジアの鉄鋼需要自体は堅調であり心配ない。一方、日本は円高、株安、デフレと良い材料が見当たらないが、ポジティブにみれば建設を含め、悪い要因はほぼボトムにある。エコカー補助金の終了で、自動車は一時的な反動減を避けられないが、産機、電機を含めて製造業がアジアの成長を享受できるとすれば、緩やかな回復は続く」
 

――輸出市場の調整局面はいつまで続くのか。

special_195  「先高・先安観などで思惑が働く汎用品分野は、過剰生産が解消し、在庫が適正レベルに向かう過程で変化点が出てくる。それを過ぎれば実体の成長トレンドに沿った、需要見合いの注文が出てくる。鉄鋼生産設備の能力過剰問題が顕在化している中国が、構造調整に本腰を入れ始め、8月の粗鋼生産が前年割れとなり、鋼材輸出も減少傾向にある。象徴的な変化の兆しであり、年末にかけて中国の鉄鋼需給は、バランスに向かうと期待している。そうなればアジア市場における最大の不安定要因が解消され、安定的に需要が拡大する中で、高位安定する資源価格を織り込んだ、新価格体系に落ち着いていくはずだ」
 

――韓国の能力増強が懸念される。

 「中国が安定成長のための設備調整に入っているのに対して、韓国では反対方向の設備増強が動き出した。韓国国内の需給バランスが崩れ、ウォン安もあって、数量指向で輸出が増加することが懸念される状況にあるのは事実。その影響は東アジアにある程度限定されるとみているが、日本市場への影響も含め、今後の動向を注意深く見守っていく必要がある」
 

――普通鋼鋼材輸入が年率400万トンペースと、07年度までの水準に戻っている。内需は大幅に縮小しており、輸入材のシェアが高まっている。

 「価格が常識以下となり、輸入数量が増え、国内産業に悪影響を与える怖れがあれば、WTOルールに沿って整々と行動を起こすことになろう」
 

――経産省まとめによる3四期(10―12月)の粗鋼需要見通しは、前期実績見込み比微減の2698万トンとなった。

 「足元は輸出市場の調整局面が続いており、国内在庫も積み上がっていることから、実感としては40万―50万トン多いと感じている」
 

――エコカー補助金終了の自動車生産への影響をどうみる。

 「2四期から3四期にかけて、国内販売台数が減少することは避けられないことや、回復傾向にある完成車輸出が円高の制約を受けることなどから、完成車生産については2四期が250万台弱、3四期は220万―230万台に落ちるが、4四期は250万台前後に回復するとみている。ノックダウン輸出は四半期200万―210万セットのペースを保つのではないか」
 

――新日鉄の生産スタンスを聞きたい。単独粗鋼生産量は1四期が800万トン、2四期は7月が年初見込みの四半期840万トンペースにあったが、8月は同800万トンとペースダウンした。

 「輸出市場の環境変化に合わせ、実需見合いで少しブレーキを踏んだ。今期は国内の自動車生産減に対応するとともに、鋼材在庫の適正化を進め、併せて中国が正常化の途上にあるというトレンドをきっちりフォローしなければならない。この基本方針に沿って、実需見合いの生産を徹底することから、粗鋼生産量が前期に比べて数%減る可能性はある。国内需給の適正化、中国の正常化トレンドをフォローするには、四半期800万トン程度が一つの基準点になってくるとみている」
 

――3四期は鉄鉱石、石炭など原料価格が下がったが。

 「2四期が非常に高かったこともあって3四期は少し下がった。3四期が一つの均衡点だとすれば、半期単位でみると下期(10―3月)は上期(4―9月)に比べて、使用ベースでの原料コストは重くなる」
 

――自動車分野などひも付きは、1―3月の原料価格が見えてくる12月に、下期の価格交渉に入るとされている。上期据え置きが基本となるのか。

 「詳細はコメントできないが、資源価格が高位安定する中で、下期の原料価格が上期より上昇するとすれば、それをベースに交渉に臨むことになる。上期で原料価格上昇に見合った価格に届いていないものもあることから、引き続き新価格体系定着への努力が必要だ。コスト、商品価値、企業の総合力を評価していただくことが、交渉の出発点と考えている。アジア市場は基調として成長が続く。世界の鋼材消費も増加する。正しく、『天行ハ健ナリ』だ。内需の掘り起こし、新規分野への取り組みを需要家と一体となって進めることで、国内の成長も見えてくる。今、鉄鋼業界は、その見識と自彊を問われている」

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