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マンデーインタビュー 挑戦―TheBigChallenge ▼自動車用電炉鋼板の開発 ■東京製鉄技術開発部長代理 中西栄三郎氏

2014.06.30 / 8 min read
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Strategy Portrait
激動の時代において、不変の価値とは何か。
最前線で舵を取るリーダーが、その胸中を明かす。

国内発生の「資源循環」/合金元素生かす独自技術

 東京製鉄は自動車用電炉鋼板の開発を進めており、2012年度と13年度では環境省の「鉄スクラップの高度利用化調査業務」を受託し、田原工場で板厚1・2ミリと1・4ミリとなる高炉材と同等の品質を持つ自動車構造用高張力鋼板を試作に成功した。日産自動車で車体骨格系材料の研究に従事してきた中西栄三郎・技術開発部長代理が研究開発の最前線で指揮を執る。中西氏に自動車用電炉鋼板の開発進捗、将来性などについて聞いた。

 

Q. 東京製鉄に入社する前は、日産自動車で材料研究に従事していた。とくに印象に残っている仕事は。

 「日産自動車では、始めに総合研究所の材料研究所でトランスミッション関連材料に関する研究に携わった。その後、衝突性能に優れる車体骨格系材料を研究に移り、鋼板の高速変形挙動を解明するところからスタートした。とくに印象に残っているのは、590MPa級ハイテンを初めて採用した『March、Micra(マーチ、マイクラ)』。車体重量の24%にハイテンを使用したが、これまでの440MPa級から590MPa級に全面的に置換したエポックメイキングな車である。このマーチを開発するタイミングで、私はテクニカルセンターの材料技術部門に異動し、主担として車体材料研究から鋼種開発、実車適用にまで携わった。カルロス・ゴーン氏が日産自動車の社長に就任して初めての『March、Micra(マーチ、マイクラ)』であり、仏・ルノー社と共同開発し、材料だけでなく、車体はルノー社と共同プラットフォームで開発を進めていった」

 

Q. 2年前、東京製鉄に入社した。そのきっかけは。

 「日産自動車では主担として車体開発に従事し、12年、シニアスタッフを最後に東京製鉄に移った。車体戦略に従事していると、資源循環は大きなテーマになってくる。日産時代に資源循環戦略を検討する中で、自動車分野に進出したいと考えていた東鉄に成長する芽があると感じた。自動車に関して、私は東鉄にないものをすべて持っている。お互いの思惑が合致し、東鉄に入社することになった」

 

Q. 成長する芽とはどういうものか。

 「先陣を切って、北米ではニューコア社が自動車用電炉鋼板を成長軌道に乗せている。ニューコア社に出来て、田原工場を擁する東鉄が出来ないはずはない。電炉メーカーでは他に競合する相手がいない分野であり、鉄スクラップを武器に新しい価値を創造できるなら、本来は独壇場になるはず。自動車メーカーでは、資源循環がもたらす利益に関して、議論を重ねている。スクラップは日本で発生する貴重な資源で、それを利用できる強みは何ものにも代えがたい。スクラップから自動車用鋼板の製造が可能になるなら、産業にも大きな変化をもたらす」

 

Q. 中西氏が所属する技術開発部は営業本部内に置かれている。

 「技術はマーケットにひも付いて開発しなければならない。マーケットに合致してこそ、技術は生きてくる。日産時代から、マーケットと技術をしっかり結び付けることが、いかに重要であるかを身に染みて理解していた。そういう意味で、営業本部内に技術開発部を設置していることは、理にかなっている。東鉄で自動車出身の社員は私1人である」

 

Q. 東鉄の自動車用電炉鋼板の開発ポイントはどこにあるのか。

 「高炉原料は成分コントロールしやすく、純度が高い。スクラップにはトランプエレメント(循環性元素)が含まれているものの、あらかじめ合金元素が含まれているのはむしろ強みであり、スクラップを生かす電炉メーカーならではの造り方がある。物質・材料研究機構が主体となって実施した超鉄鋼プロジェクトの微細結晶粒に基づく組織創製の技術などを生かして開発を進めており、高炉材を模倣する必要はない」

 

Q. 本来は邪魔とされる合金元素を利用しようという試みか。

 「スクラップを合金を含めて利用すれば、自動車用高強度鋼板を安価に生産できる。しかも、高炉材由来のピュアな新断ちではなく、市中から調達するヘビースクラップをメーンに使う。今後も車体鋼板は超ハイテンの歴史を辿ることになる。そこではスクラップに含まれる合金元素を有効に活用できるはずで、費用対効果の優れる材料を造ろうと挑戦している。自動車工場でもスクラップは発生し、このスクラップを流通を介さず調達・利用して出来た製品を納入できる。この資源循環だけでなく、様々な可能性が広がっている。スクラップから高度な製品を造ることは新しいテクノロジーがあって成り立つ。自動車用電炉鋼板は、まさに先進国型のニューテクノロジービジネスと言える」

 

Q. 田原工場の技術力に関してはどうか。

 「自動車用電炉鋼板を実現するためには、『中間炉』と『微細粒鋼の創製に適した圧延設備』がポイントになる。『中間炉』は、粗圧延工程と仕上げ圧延工程の間に中間炉を設置した。この中間炉は世界でも珍しい設備。粗圧延は1スタンドでリーバース圧延を採用しているが、圧下時に加工発熱が発生するので粗圧延時の温度低下は小さいものの、仕上げ圧延までの距離が長く、搬送する過程で圧延されたスラブは先端と後端で温度差が生じ、品質にバラツキが生じる可能性がある。仕上げ圧延工程に入る前に中間炉を通すことで、粗圧延後のスラブ温度を均一に保ち、酸化を防ぐ目的がある。また銅脆化という銅が品質に悪影響を及ぼす温度域が存在する。スラブが1100―1200度に存在する銅脆化温度域に入らないよう中間炉で調整する。中間炉に挿入する時の搬送スピード、中間炉内温度などをコントロールして、銅脆化が生じないようにしている。岡山工場では中間炉と同じ効果を出すため、粗圧延と仕上げ圧延の間にコイルボックスを設けているが、中間炉の方が歩留まりに優れる」

 「『微細粒鋼の創製に適した圧延設備』は、仕上げ圧延で加工熱処理を施し、組織を微細粒に制御する。需要家が求める強度を実現するには、スクラップで基本組成を作り上げることが最も競争力があるが、必要があれば足りない元素を添加すればいい。また加工熱処理を施しながら圧延をコントロールし、微細粒組織を実現する。我々は熱延鋼板で自動車用鋼板を造る。田原工場に導入した最新鋭設備を駆使して、ターゲットとする板厚、表面性状を熱延で完結できるようチャレンジし、自動車分野への本格参入を目指している」

 

Q. このほか、田原工場ではスクラップヤードの電子番地管理を実施している。

 「業者が田原工場にスクラップを納入するが、それぞれのスクラップを納入業者ごとに番地を付けて管理する方法を採用している。トレーサビリティに似ているが、どの業者がいつ納入したかなどが記録され、製品になるまで追いかける。仮にスクラップに問題が生じた場合、納入業者がすぐに判明し、調査することが容易になる。また管理を徹底することで、スクラップの品質確保にも繋がる。製品品質を保つためには重要な原料管理方法であり、自動車メーカーは安心できるだろう」

 

Q. 12年度、13年度で環境省から「鉄スクラップの高度利用化調査業務」を受託した。その成果は。

 「スクラップを100%使用し、電炉で高炉材と同等の品質を持つ自動車構造用高張力鋼板を試作することに成功した。13年度事業では国内ヘビースクラップとの割合で、新断スクラップ使用比率を16%まで低減。また板厚1・2ミリと1・4ミリの熱延コイルの製造に成功し、手酸洗を施した。この試作材は590MPa以上の引っ張り強度を有し、高炉材980MPa相当以上で、1180MPaまでの引っ張り強度と伸びのバランスを得ることができている」

 

Q. 量産化に向けての課題はどうか。

 「熱延コイルの長手方向と横方向で材料特性が異なるのが異方性と呼び、これを解消するべく取り組んでいるが、すでに目途が付いている。銅の表層濃化が鋼板表面品質に悪影響を及ぼすため、中間炉を活用しながら影響が出ないようにコントロールする。またコイル幅方向における端部の温度制御を検討することも課題である」

 

Q. 集荷したスクラップだけでなく、一部の元素を添加するという。合金元素の添加はコストがかからないか。

 「足りない合金元素は添加して補わないといけない。環境省の受託事業で試作した熱延鋼板の段階ではクロムを中心に添加した。現在集荷しているスクラップの成分ではクロムなどが足りない。ただ、自動車のマフラーはステンレス製でクロムを含んでおり、これを集荷し、利用することが可能になる。合金を多く含むスクラップは使用する側の自由度を制限するので、比較的安価で購入できる」

 

Q. スクラップは国際商品になり、年間を通しても、高値で取り引きされるケースが増えている。高炉溶銑価格とのコスト比較をどうみるか。

 「国内外の情勢を踏まえて、スクラップ市況は2―3年という中長期視点でとらえた場合、コスト的にはスクラップが優位になると思う。また将来的に中国で発生量が増えるなど、東アジアのスクラップ需給が緩和されれば国際市況は下がり、間違いなく電炉業の原料コストは優位になる」

 

Q. 自動車用電炉鋼板に関する開発スケジュールは。

 「2016年前後に国内の全自動車メーカーが新しいプラットフォームに切り替わる。この第1世代の中で車体骨格部材への採用を目指していきたい」

 

Q. 日本では人口減少、少子高齢化が進んでいる。自動車需要では首都圏で車離れが顕在化し、一部の地方では過疎化が進む。自動車メーカーの海外展開もあり、日本国内では資源循環による電炉鋼板需要の伸びが期待できないのではないか。

 「我々は電炉メーカーとして、工場操業で小回りが利く特性を生かし、車体骨格部材向け超ハイテンで競争力を持つべきだと考えている。国内マーケットが減少しても、自動車用電炉鋼板は右肩上がりに伸びるとみている。スクラップ由来によるモノづくりは間違いなく競争力がある」

 

Q. 先日開かれた「自動車技術会2014年春季大会」では、「自動車用電炉鋼板の資源循環」のテーマで基調講演をされた。その際に「パフォーマンスイノベーションを起こしたい」と発言されたが、自動車用電炉鋼板は現時点でどこまで完成し、どこまで出来るのか。

 「研究者としての個人的な見解になるが、自動車ビジネスを手中にするには溶融亜鉛めっき鋼板を手掛けなければいけないと考えている。熱延鋼板でベースを築き、めっき鋼板に入ることが重要だ。めっき槽に鋼板を通すことは、めっき温度にさらされることを意味するが、環境省の受託事業で試作した熱延鋼板にとって、めっき温度は相性が悪い温度ではなく、むしろ心地よい温度である。防錆鋼板の車体適用は遠大なテーマである。我々が生産する酸洗鋼板で、自動車用として採用されている最高強度は440MPa級で、次のステップとして590MPa級材料が採用されることを目指しており、それほど遠くない将来に実現できると考えている」(濱坂浩司)

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 ▽中西栄三郎(なかにし・えいざぶろう)氏=84年京大院工学研究科修了後、日産自動車に入社。京大時代は牧正志研究室に在籍した。日産を12年3月に退職し、同4月に東京製鉄に入社。1958年9月22日、広島県生まれ。



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