2021年3月30日

脱炭素社会へー切り開く未来ー非鉄編(1) リサイクル  アルミ二次合金・地金 資源・環境保全に貢献 再生原料使用自体が付加価値

脱炭素化の流れを受け、アルミニウムリサイクルの魅力が改めて見直されそうだ。アルミ二次合金・二次地金の生産にかかる二酸化炭素(CO2)の負荷は、アルミ新地金の製造に比べ約30分の1にとどまるなど、そもそもCO2排出量の少ない産業であるためだ。再利用するアルミスクラップが原料であることから、資源保全や環境保全にも大きく貢献している。

アルミ二次合金業界では、事業所が使用する燃料の多くを廃棄物由来の再生重油にしている。廃棄物を燃料にリサイクルを進めている点でも極めて環境にやさしい産業といえるが、日本アルミニウム合金協会の朝来野修一会長は「協会としても脱炭素化に向けた動きは不可避と捉えており、今後の議論は不可欠と考える」と話す。協会としての正式な決定事項ではないものの、アルミ合金業界のCO2排出量を把握することなどによって、議論の起点にする可能性はありそうだ。

二次合金は再生塊であることから、環境に配慮している点でニーズが高まるかもしれない。炭素を排出しない生産については「技術的な課題もそうだが、海外の生産者との競争が可能な範囲で、炭素を含まない燃料や炭素の排出のない電力が適切な価格で提供される必要がある」(朝来野会長)と指摘する。

これまで以上に、溶湯が注目される可能性も出てくる。溶湯は、溶解したアルミを保温ポットに入れ、液体のままユーザーに運ぶというもの。従来の地金のようにユーザーによる再溶解の必要がなく、エネルギー消費の低減につながる。「SDGs(持続可能な開発目標)の観点から言えば、溶湯が増える方向になる」(関係筋)とみられ、今後の需要増が期待される。

アルミニウムの完全資源循環の実現に向けた取り組みは、アルミ業界全体で進んでいく。日本アルミニウム協会は昨年、アルミ素材による循環経済などを目指す長期ビジョン「アルミニウムVISION2050」を発表した。アルミ展伸材の循環使用率を50年に50%を目指すほか、前段階として30年に30%の目標を掲げた。

あるメーカーは「水平リサイクルが進展するのは、最も現実的に起こり得る環境にも配慮した動き」と指摘する。長期にわたり業界全体で資源循環に取り組む姿勢をアルミ協会が示したことは大きいとみられ、大手リサイクル業者は「動脈産業から静脈産業に至るまでアルミ業界であれば働き続けられるという意味でも、若い人たちのやる気にもつながっている」と歓迎する。

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アルミだけでなく、長い歴史を持つ銅、鉛などの非鉄金属リサイクルも「古くて新しい産業」として着目される時代がこれから訪れるかもしれない。

銅スクラップを主力に扱う関東の大手原料問屋社長は、「ユーザーが再生原料を使う理由はこれまで、新地金より安いという価格メリットだけだった。しかし、これからは再生原料を使うこと自体が付加価値になってくるだろう」と予想する。

再生原料を使うことでメーカーは脱炭素社会への貢献を社会に示せる。カーボンニュートラル実現のため、環境負荷が小さい再生原料の積極的な使用を促す動きが各国で広がることも考えられ、リサイクル産業の追い風になるとの考え方だ。

都内の総合リサイクル企業社長も同様の見方を示し、「リサイクル業界として、そのメリットをもっとPRしていく必要がある」と力を込める。同時に、再生原料の使用による省エネ・脱炭素効果を定量的に示していくような取り組みの重要性も説く。

再生原料市場が広がれば、低品位スクラップをどこまで高度にリサイクルできるかというテーマも出てくる。すでに低品位ミックスメタルの選別などに参入する企業が増えており、こうした流れは今後も拡大するだろう。

地金代替での使用が増えれば、高品位スクラップも品質管理の要求がますます強まっていくことが予想される。仕入れ先の工場や回収業者と確実な情報共有を行い、検収、選別という一手間をかける原料問屋がこれまで培ってきたノウハウの真価が問われる。

前出のリサイクル企業社長は、「自動車メーカーがリチウムイオン電池のリサイクル網を自ら構築しようとしているように、ユーザー業界には閉鎖的な回収スキームを志向する傾向も見える。リサイクル企業として商品価値を高める取り組みをしていかなければ、再生原料の需要が増えたとしてもわれわれの存在価値は小さくなってしまう」と警戒する。脱炭素社会はリサイクル業界に大きなチャンスをもたらすと同時に、その存在価値を外部に知らしめる努力の必要性も突きつける。

(藤田章嗣、田島義史)



政府が2050年カーボンニュートラルの目標を打ち出した。非鉄関連業界が直面する課題や取り組みを連載する。