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2024.12.4
2016年4月8日
東南アジア鉄鋼協会 コーラ会長 中国過剰供給訴え続け 利益確保へ価格上昇必要
中国発の鉄鋼デフレを世界で最も強烈に受ける東南アジア市場。年1億トンを超える中国鋼材輸出の3割が流れ込み、シェアを奪われた地場の鉄鋼企業が減産や操業停止を余儀なくされている。東南アジア鉄鋼協会(SEAISI)のロベルト・コーラ会長(フィリピンのスチール・アジア副社長)は産業新聞社の単独インタビューで「このままでは雇用や技術を維持できなくなる」と語り、東南アジアの鉄鋼業の存続のために中国に過剰供給への対策を訴え続ける考えだ。
――東南アジアの15年の鉄鋼需要は7000万トン。鋼材輸入6000万トンのうち3000万トン超を中国材が占めている。
「中国の大量輸出のおかげで東南アジアの鉄鋼企業の生産量が大きく減っている。東南アジアの粗鋼生産量は15年に1974万トンと前年比3%減り、製鋼設備の稼働率は37%に低下した。フィリピンやインドネシアに中国製ビレットが多く入り、製品でもマレーシアでは線材や亜鉛めっき鋼板が中国から多く輸入されるなど中国の能力過剰が東南アジア市場に強く影響している。中国の鉄鋼企業は輸出時増値税還付というアドバンテージを受けている。まずボロンを添加した合金鋼が生産され、合金鋼として輸出税還付を受けて輸出を拡大した。中国政府は15年1月にボロン添加合金鋼に対する輸出時増値税を撤廃したが、鉄鋼企業はクロムなどを転換した別の合金鋼の生産にシフトし、鋼材輸出は減るどころかさらに増えた。中国製鋼材の価格は非常に低く、輸入量は自然に増えてしまう」
――SEAISIとしてどう対応しているのか。
「CISA(中国鋼鉄工業協会)と鉄鋼対話を毎年開き、実情を伝えている。中国と東南アジア各国の高級外務官で組織する中国・東南アジア自由貿易区連合委員会との会議を15年2月と7月に北京で開き、対策を中国政府に要望した。CISA会員企業の合計粗鋼能力は全国能力の80%に相当するが、全能力は12億トンで会員外の能力が2億トン以上あり、CISAとしてもコントロールは難しいようだ。輸出に関する税制など政策の実行を定期的に要望してきているが、中国の鋼材輸出は15年に前年比20%増え、1億1240万トンに達した」
――東南アジアの鉄鋼企業は収益が低下し、操業の停止によって技術や雇用を保てなくなるのでは。
「その通りだ。マレーシアやベトナムのビレットメーカーは十分な能力を持つが、中国製の輸入増で電炉の操業が停止している。ロシアからのビレット輸入もあるが、自社の電炉で生産するよりも安価なビレットを輸入して圧延だけした方がコストが低い。ただ、それでは雇用の維持や技術、ノウハウの向上が妨げられる。原料価格が下落した問題も大きい。東南アジアは電炉企業が多いが、高炉に対する競争力が低下している。鉄スクラップ価格は下がったが、それ以上に鉄鉱石と原料炭の価格が下がり、各国の電炉企業は厳しい競争にさらされている」
――複数の中国鉄鋼企業が東南アジアに製鉄所を建設しようとしている。
「マレーシアに年産70万トンのミニ高炉ができたが、小規模で競争力が足りず、安価な中国材に押されている。年産150万―200万トン程度のサイズでなければ競争力を持てない。インドネシアにPOSCOクラカタウ、ベトナムにフォルモサハティンスチール(FHS)が建設され、両社は東南アジアの大型一貫製鉄所のモデルになる。FHSは熱延ミルの試験圧延が始まり、今年6月に高炉の火入れを行う。大型製鉄所が東南アジアに増えることで競争環境が変わる。中国や台湾、韓国と同じ問題が起こる可能性がある」
――東南アジアの鉄鋼能力は増えていくのか。
「未来の能力増について語ることはできない。すでに供給は過剰だ。FHSは将来設計として一時2100万トンを計画したが、東南アジアの需要は現在7000万トンだ」
――東南アジアの鉄鋼需要は将来も5%成長を続けるのか。
「鉄鋼需要は10年から15年まで年率6・3増え、16年からは毎年5%成長し、18年に8000万トンを超える見込みだ。18年以降も同程度の成長を維持するだろう。タイとベトナム、インドネシア、マレーシア、シンガポール、フィリピンの主要6カ国に加え、今後はミャンマーなどの鉄鋼需要が経済発展とともに増えていく」
――東南アジアも足元鉄鋼価格が上がっている。上昇基調を保つことはできるのか。
「原料価格に高く依存する。原油価格の影響を受け、原料供給の能力も十分であり、原料価格は大きく上がりそうにない。鉄鋼価格は十分に上がっていない。東南アジアの鉄鋼企業は利益を得ていない。私の会社も同様だ(笑)。事業を維持できるマージンを得ることができない。企業の収益面からみれば、鉄鋼価格は上がる必要のあるレベルだ」
――日本の鉄鋼業に望むことは。
「自動車や電機向けのハイエンド鋼材が日本から輸入されている。日本や韓国が供給するハイエンド鋼材は東南アジアの鉄鋼企業と直接に競合していない。日本とは良好な関係を保ち続けたいと思っている」
(植木 美知也)
――東南アジアの15年の鉄鋼需要は7000万トン。鋼材輸入6000万トンのうち3000万トン超を中国材が占めている。
「中国の大量輸出のおかげで東南アジアの鉄鋼企業の生産量が大きく減っている。東南アジアの粗鋼生産量は15年に1974万トンと前年比3%減り、製鋼設備の稼働率は37%に低下した。フィリピンやインドネシアに中国製ビレットが多く入り、製品でもマレーシアでは線材や亜鉛めっき鋼板が中国から多く輸入されるなど中国の能力過剰が東南アジア市場に強く影響している。中国の鉄鋼企業は輸出時増値税還付というアドバンテージを受けている。まずボロンを添加した合金鋼が生産され、合金鋼として輸出税還付を受けて輸出を拡大した。中国政府は15年1月にボロン添加合金鋼に対する輸出時増値税を撤廃したが、鉄鋼企業はクロムなどを転換した別の合金鋼の生産にシフトし、鋼材輸出は減るどころかさらに増えた。中国製鋼材の価格は非常に低く、輸入量は自然に増えてしまう」
――SEAISIとしてどう対応しているのか。
「CISA(中国鋼鉄工業協会)と鉄鋼対話を毎年開き、実情を伝えている。中国と東南アジア各国の高級外務官で組織する中国・東南アジア自由貿易区連合委員会との会議を15年2月と7月に北京で開き、対策を中国政府に要望した。CISA会員企業の合計粗鋼能力は全国能力の80%に相当するが、全能力は12億トンで会員外の能力が2億トン以上あり、CISAとしてもコントロールは難しいようだ。輸出に関する税制など政策の実行を定期的に要望してきているが、中国の鋼材輸出は15年に前年比20%増え、1億1240万トンに達した」
――東南アジアの鉄鋼企業は収益が低下し、操業の停止によって技術や雇用を保てなくなるのでは。
「その通りだ。マレーシアやベトナムのビレットメーカーは十分な能力を持つが、中国製の輸入増で電炉の操業が停止している。ロシアからのビレット輸入もあるが、自社の電炉で生産するよりも安価なビレットを輸入して圧延だけした方がコストが低い。ただ、それでは雇用の維持や技術、ノウハウの向上が妨げられる。原料価格が下落した問題も大きい。東南アジアは電炉企業が多いが、高炉に対する競争力が低下している。鉄スクラップ価格は下がったが、それ以上に鉄鉱石と原料炭の価格が下がり、各国の電炉企業は厳しい競争にさらされている」
――複数の中国鉄鋼企業が東南アジアに製鉄所を建設しようとしている。
「マレーシアに年産70万トンのミニ高炉ができたが、小規模で競争力が足りず、安価な中国材に押されている。年産150万―200万トン程度のサイズでなければ競争力を持てない。インドネシアにPOSCOクラカタウ、ベトナムにフォルモサハティンスチール(FHS)が建設され、両社は東南アジアの大型一貫製鉄所のモデルになる。FHSは熱延ミルの試験圧延が始まり、今年6月に高炉の火入れを行う。大型製鉄所が東南アジアに増えることで競争環境が変わる。中国や台湾、韓国と同じ問題が起こる可能性がある」
――東南アジアの鉄鋼能力は増えていくのか。
「未来の能力増について語ることはできない。すでに供給は過剰だ。FHSは将来設計として一時2100万トンを計画したが、東南アジアの需要は現在7000万トンだ」
――東南アジアの鉄鋼需要は将来も5%成長を続けるのか。
「鉄鋼需要は10年から15年まで年率6・3増え、16年からは毎年5%成長し、18年に8000万トンを超える見込みだ。18年以降も同程度の成長を維持するだろう。タイとベトナム、インドネシア、マレーシア、シンガポール、フィリピンの主要6カ国に加え、今後はミャンマーなどの鉄鋼需要が経済発展とともに増えていく」
――東南アジアも足元鉄鋼価格が上がっている。上昇基調を保つことはできるのか。
「原料価格に高く依存する。原油価格の影響を受け、原料供給の能力も十分であり、原料価格は大きく上がりそうにない。鉄鋼価格は十分に上がっていない。東南アジアの鉄鋼企業は利益を得ていない。私の会社も同様だ(笑)。事業を維持できるマージンを得ることができない。企業の収益面からみれば、鉄鋼価格は上がる必要のあるレベルだ」
――日本の鉄鋼業に望むことは。
「自動車や電機向けのハイエンド鋼材が日本から輸入されている。日本や韓国が供給するハイエンド鋼材は東南アジアの鉄鋼企業と直接に競合していない。日本とは良好な関係を保ち続けたいと思っている」
(植木 美知也)
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