2020年7月31日

双日の金属・資源戦略 尾藤雅彰本部長に聞く 安定収益事業を強化 水素など将来に布石

双日の金属・資源本部はコロナ禍のなか、上流資産の効率化に加え、市況に左右されないトレード、事業を強化する。将来に向けてリサイクルや水素関連事業も手掛けたいという尾藤雅彰本部長に方針を聞いた。

――2019年度は減益だった。

「19年度は厳しい年だった。本部長になった16年、17、18と右肩上がりで本部の利益も100億円、200億、300億となった。18年は全ての金属資源のマーケットがよかった。19年になって上期から価格が下がった。モノは動いていたのでトレードは善戦したが市況が悪くて上流がかなり苦戦した。事業関係はメタルワンが特に下期苦戦した。炭素事業を双日ジェクトでやっているが18年に過去最高の利益を出したがそのあと電極棒の市況が大幅に下がって苦戦した。18年度300億に対して予算は250だったが200で終わって予算未達だ。中計の目標が一つは安定した収益基盤の確立、もう一つが社会ニーズへの対応。それが新技術とかリサイクルとか3Dとか電池だがそこも打たれつつある。仙台の日本積層造形(JAMPT)もコロナになってメーカーにとっての新規の開発費が減っているので足元は苦戦している。収益の安定化をいかにやっていくか。一つは上流案件のコスト競争力強化ともう一つはトレードなり事業なり市況に左右されないビジネスをどれだけ増やしていくかが引き続きの課題だ」

――新戦力は豪原料炭鉱グレゴリー。

「去年10月に生産を開始して20年度で200万トンの生産を予定している。生産は順調にいっている。ただ石炭の価格が下がっていて鉄鋼生産が各国でこれだけ落ちているので原料炭の需要がかなり落ちている。グレゴリーは新規参入になるので販売で苦戦している。 当面はコスト削減に集中して需要の回復を待つ。石炭ビジネスの課題は一般炭から原料炭へのシフトがある。2030年までに一般炭の上流資産を半減させると言っているが、想定以上に進んでいる。一昨年BAUというインドネシアの炭鉱を売却して去年度でムーラーベンを売却してグレゴリーが立ち上がっているので20年度で原料炭の方が多くなる。日本積層造形が実質的なフルの1年だ。苦戦しているがだいたい方向性は見えつつある。いかに量産につなげていくかが今後の課題だ」

――今年の利益計画は130億。

「今のマーケットを反映させた。最初の3カ月はコロナの影響を受けるだろうと試算したがコロナが想定以上ではある」

――鉱山など操業は。

「うちで止まったのはない。オーストラリアも鉱山業は不可欠な仕事という。カナダの銅とかフィリピンのニッケルとか感染者も出なかったので操業が継続された。ただ今の状況が特に鉄鋼関係が続くと生産量も考えなければいけない。石炭もそうだしニオブとかニッケルも鉄関連のものは動向を見ていかないといけない」

「今後より力を入れていきたいのはリサイクル。IT機器とかリチウムイオン電池は自動車もその他小さいのもあるが電池に含まれるものだ。ニッケル、コバルト、銅、都市鉱山と言われるが新興国が出てくるしIT化が進むと需要量は増える。鉄はメタルワンがやっているが、その他のレアメタルとか貴金属のリサイクルを今検討している。自動車の廃触媒を回収し、製錬所に売ったり、プラチナとかパラジウムは取引している。あとは廃電子基板を回収して売っているが、それだけでは面白くない。電池関係、太陽光パネルもあるかもしれないが今後増えるものを回収して抽出する。技術にも投資していきたい。急いでやりたいが現場に行けないとできない。ベンチャー投資、新しい技術はリサイクルに限らずどんどんやっていきたい」

――製錬所と組むのか。

「それもあると思う。日本ではなく海外でやっている例えば工業団地で製錬と組んでやるのも考えたい。あとは環境だ。環境関連で行くとCO2(二酸化炭素)とか水素もまだ初期段階だがベンチャーと組んで話はしている。CO2の分離回収だ。水素は輸送のところだ。水素は生産と消費はだいたいめどがついて水素自動車とかある。電解なのか太陽光とか再生可能エネルギーで作るのかあとは石炭から作るとか生産はそれなりにあるが輸送が課題になっている。ベンチャーと組んで実証実験する話がコロナで進まない。短期的には上流のコスト削減とかトレードだ。中期的にはリサイクル。長期的にはCO2とか水素をしっかり追いかけていく」

――投資は3年間で350億円。

「大きな投資をやっていない。去年は電極と既存の炭鉱とか銅の維持費だ。せいぜい数10億だ。大きいのは一昨年のグレゴリーで80億円くらいだ」

――本年は100億円単位で考えている。

「案件次第だが、なかなか進まない」

――持っていない金属に手を出すことは。

「上流については、強みのあるもの以外はやらない。石炭みたいに自分たちで操業をやっている、それ以外ではトレードでシェアを持っているとか販売ネットワークが強いとかいうのがないと手を出せない。ニオブはいい。鉄だけではなく他の用途もある。石炭のサプライヤーもだが単一の商売をやっている人たちは多角化したいと思う。有力なパートナーと新しいエリアをやっていきたい」

――ニオブの電池絡みは。

「時間がかかる。東芝とやっている。電気自動車が伸びている。欧州は環境関連が進んでいる。中国は補助金を止めてからEVは減っていたが、今度ハイブリッドもOKという。ヨーロッパ、中国でEVは伸びていく。電池の負極、正極の部材の供給は引き続き力を入れる。そこでの新しい技術の開発だ。もう一つはバッテリーのリサイクル。我々が部材を供給して彼らが使ってバッテリーを我々が回収してまた部材を供給するサイクルが作れたらいい。終わったから捨てるというだけでなくサーバとか使えるものはリユースに回して使えないものはレアメタルを取り出すとか、そこら辺にノウハウがあるかもしれない」

――3年間は資産を増やさずというと売る計画もある。

「今回ムーラーベンを売った。他の資産も売却交渉しているものがある。資産の入れ替えという形だ。聖域はない。石炭の資産でもチャンスがあって別のもっといい案件があれば純粋に増やすだけでなく売って新しく買う。全体の質をよくしたい。過去売り時を逃したというのはある。利益が出ているときに判断できなければだめだ」

――デジタル化では丸紅とブロックチェーンを使って鉄鋼原料の物流を効率化する。

「業務の効率化だ。船で原料を運ぶのは変わらない。その間の書類とか決済とか作業をどれだけ簡素化できるか。紙とか人とか膨大なコストがかかっている。一つの試みだ。リモートというと今回のコロナでパソコンがものすごく売れたのと同じでサーバとかIT関係の需要が増える。増えるほど陳腐化が激しくなるだろうからリユースとかリサイクルが増える。鉱山から出てくるものとコスト面で戦いになる。リサイクルに公的な支援が付くと思う」(正清 俊夫、松尾 聡子)

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