2020年8月24日

「未来へ見出す活路 伸銅品流通、次なる課題へ」 サービスの本質見極め必要 問屋復権へ体質に風穴を

 2020年代の幕開けから間もなく日本の社会経済を襲った新型コロナウイルス。ここにきて再び感染が拡大し、伸銅業界においてもリーマン危機級の需要陥没が長引く可能性が現実化しつつあり、それを支える伸銅品流通にとっても10年代のコスト課題を持ち越したまま、市場縮小の節目を迎えてしまった。しかし、この新型コロナ禍は業界が抱える課題に立ち向かう契機となり、自己変革を起こさざるを得ない可能性も秘めているだろう。コロナ後の展望を占い、伸銅品流通にいま必要なものを探る。

 黄銅棒や銅帯(ブスバー)などの長尺品を扱う問屋幹部は「コロナで物流問題が少し緩和されてきた」と話す。工場の稼働低下やユーザーの在庫調整に伴って、あらゆる製造業の物量全般が減り、今まで制限されていたサイズや数量が一部で受け入れられるようになっているのだ。

 リーマン危機後、伸銅品の小ロット販売を行う流通業にとっての最大の悩みがこの物流問題であった。10年代半ばから銅管・銅帯の長尺品を運ぶ路線便において、トラックや運転手不足により運賃が高騰したほか、中継地点での滞貨が常態化して納期が長引いた。その対象には黄銅棒の定尺サイズ4メートルも含まれるようになり、もはや地方顧客に対するサービス維持が難しくなっていたが、この問題はひとまず一服している。

 しかし、それ以上に販売数量の減少は深刻化している。棒・管などの押出品で2―3割、板・条では4―5割減ったとの声も聞かれる。この7―8月が大底と見られているが、秋口から回復する保証はどこにもないと言えるだろう。7月からの新型コロナウイルスの感染再拡大で年内、さらには来春までの年度内の景況感にも暗雲が立ち込める。

 不透明感がぬぐえない情勢だが、ある問屋幹部は「コロナはここ数十年にわたって後退してきた流通業界が、20年代に避けて通れなかった課題に前倒しで取りかかることになる。ある意味では、長年変われなかったこの業界が変わるチャンスかもしれない」と話す。極めて前向きに聞こえるが、今の後退の流れに歯止めをかけるには変革しかないという意見だ。物流問題が緩和した今、まずはこの膠着した業界体質の風穴を探さなければならない。

 ■個性か共同化か

 1970年代前半までの高度経済成長期を知る業界の古参者は、「キロ1円でも安ければその店にトラックが押し寄せた」と証言していたほど価格競争があった。つまり同じ商品でも販価の差が明確にあり、それが問屋の個性の一つだったのである。

 しかし、オイルショックで成長が頭打ちになると、メーカーのユーザーへの直売率の高まりとともに流通口銭が減少。平成バブル崩壊によって「利益なき繁忙」にも終止符を打たれると、値決めをめぐる商習慣も次第に銅建値を軸に固まった。流通問屋は他社との差別化を図るため、切断加工や小ロット・短納期の配送サービスに活路を見出そうとし、地方ユーザーに対しても短納期サービスを提供したが、その「差別化」が同列化し、そのサービス負担が膨らんだのが10年代だった。

 水栓金具などを加工する黄銅旋盤業者は「メーカーの品質レベルも上がり、リーマン後はどの店から棒を買っても同じになった」と話す。複数の黄銅棒問屋の自社便トラックが1日2便乗り入れている現状に対して、その不効率性を一番感じているのはユーザーなのである。

 新型コロナ禍で市場が縮小する今日、問屋の統合・集約論はまだ性急だとしても、負担を減らすために連携して共同配送・共同在庫などを行う構想は机上論ではなくなってきた。世代交代も進み旧習の縛りも薄まってきた中で、現実的に始められることは何かと考えると、自ずとこの配送関係に目が向くだろう。そして共同化を通じて各問屋が本来持っている個性が再認識されれば、可能性が広がるかもしれない。

 ■流通のアイデンティティを

 「精神論になるが、昔に比べて楽しそうに仕事をしている問屋の営業マンが今とても少ない」――こう話すのは前出の業界古参。その言葉を聞いた30代の若手社員も「入社してから減る時代しか知らないし、頑張って量を増やしても他社のシェアを獲っているだけで虚しさはある」と語る。そうした声から気付かされるのは、伸銅品流通のアイデンティティが失われていることだ。

 需給の橋渡し役の伸銅品流通は日本独自の業態ともいわれるが、明治時代に近代伸銅業が誕生して長らく業界を主導する立場にあり、旧財閥系をのぞくメーカーは問屋の専属工場として成り立っていた。高度経済成長期にはメーカーが独立色を強めたが、それでも問屋側がメーカー直売の自制を求めたり、市中の余剰在庫をメーカーに買い戻すよう要求したこともあった。そうした強気の背景には、メーカーに供給する地金類からスクラップ、さらに器物など二次加工品までの流通を掌握していた業務の幅広さがあったが、時代とともに効率化が優先され、今日の伸銅品問屋の姿となったのである。

 問屋は書いて字のごとく生産者・消費者両方から「問われる」店である。本来は専門外のこともカバーすべきだが、市場における存在意義が忘れられて久しい。この本領を今一度取り戻すことが求められている。

(桐山 太志)

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