2020年10月12日

「未来へ 見出す活路 薄板流通 崩れる“薄利多売”」適正マージン、再考の時期 新常態下ですみ分けを

薄板流通がかつてない苦境に立たされている。新型コロナウイルス感染拡大が引き起こした世界的な経済活動の停滞によって、従来の“薄利多売"のビジネスモデルが崩壊し、需要回復をひたすら待つだけの体力勝負を強いられている。薄板は各種鋼材の中で最も消費量が多く、これまでは少ないマージンを量でカバーできたが、コロナ禍がその前提を覆した。関係者の間では終息後も需要は以前の水準に戻らないとの見方が多く、適正マージンのあり方や収益構造そのものを見つめ直す時期に来ている。

薄板は商社やコイルセンターなどの大手流通で月に数千から数万トンを動かし、問屋や二次加工会社などの中堅企業でも数百から千数百トンを加工・販売する。そのボリュームを前提に加工賃や口銭が低く抑えられており、コイルセンターやシャーリング業者の加工賃はここ数年で多少の是正は進んだものの、40―50年前の水準と大きく変わっていない。

全国コイルセンター工業組合(理事長=小河通治・小河商店社長)によると、2020年のコイルセンター出荷量は前年比20・9%減の1288万4000トンに減少する見通し。たった1年で、国内から340万トンもの薄板需要が消失したことになる。10―12月も前年同期比2割前後の落ち込みが続く見込みで、先行きは依然として不透明だ。

しかし、コロナ終息の出口が見えないからこそ、現状を新常態として受け入れ、最善の道を模索する必要がある。阪和興業は10月1日受注分からの値上げを実施。客先からの風当たりが強まり、不利益を被る可能性があるにもかかわらず、社名を明らかにして値上げに臨む姿勢には、コロナ前から毀損していたマージンの改善に向けた覚悟がにじむ。

需要が急減した4月以降、市況は下降の一途をたどり、薄板流通は販売減とマージン悪化の二重苦を背負っている。コスト構造が同じである以上、収益立て直しには同様の販価是正が必須であり、関西地区の大手コイルセンターも今月からの値上げを表明。需要低迷下で値上げ機運が高まるのは異例だが、それだけ薄板流通が追い込まれている証拠でもある。こうした流れに追随し、大手流通を中心に今月から来月にかけての値上げを決めた企業が増えている。

ただ、マージン改善だけでは将来にわたり再生産可能な体制を維持することは難しい。設備の統廃合や業務の効率化、新たな収益源の確立などを通じて、さらなる体質強化を図ることが求められる。今後は商社系と独立系、大手と中小など、生い立ちの違いによって、戦略が細分化されていくだろう。

バブル崩壊以降のコイルセンター業界は再編の歴史と言える。全国コイルセンター工業組合の組合員数は最も多かった89年の156社に対し、現在は98社で3分の2以下となり、ピーク時の62%に減少した。一方の出荷量は過去最高を記録した90年度の2344万トンに対し、コロナ前の18年度は1670万トンとピーク比71%だったが、20年暦年見通しは同55%にとどまり、1社当たりの出荷量が大幅に低下している。

昨年の消費税増税までの景気回復局面で、出荷量は緩やかな回復が続き、近年は設備稼働率も高水準で安定していた。リーマン・ショック以降相次いだ商社系コイルセンターの大型再編も鳴りを潜めていたが、足元はコロナ禍で再び設備余剰感が高まっている。装置産業である以上、鉄鋼メーカー同様、集約・合理化による競争力強化は避けて通れない。特に複数のコイルセンターを傘下に持つ大手商社では、一時的に棚上げとなっていた統合再編についての議論が活発化しそうだ。

独立系の薄板流通はオーナー経営者にとって家業そのものであり、会社の永続を第一義として、単独での収益向上を目指すことになるが、そのプロセスはさまざまで、各社各様の道を歩む。

一つは川下分野への進出。関東地区では製造業の空洞化といった構造的な需要減が進む中、コイルセンターなどの二次流通がM&Aなどを通じて、板金加工やプレス加工などの二次加工を強化する動きが見られる。かつては在庫販売やシャーリング加工を主力としていた三次店の一部もレーザー加工機やベンダーなどを導入して、部品や部材の製作を自ら手掛けるようになり、薄板ユーザーへの変貌を遂げている。

必ずしも自社で設備を持たなくとも、コーディネート機能を磨くことによって、企業価値を高めることは可能だ。ある都内の三次店は加工品の受注にも力を入れ、顧客の加工会社に仕事を出すことで信頼を勝ち得ている。加工会社同士の仲介役となって、繁忙期や閑散期に仕事を融通し合う関係を築くなど、事業の中身まで顧客寄りにシフトしており、現在は加工品の売り上げが鋼材の倍以上に伸びている。

一方で、そうした川下への展開には脇目も振らず、愚直に小ロットや短納期などのサービスでの差別化に励み、あえて鋼材販売一本に集中する企業もある。北関東などに複数の拠点を置く独立系コイルセンターは近年、取引先件数の拡大に重点を置き、コロナ禍でも過去最高を更新した。

新常態下で生き残るための解は決して一つではない。それぞれが信念を持って選択した道を突き進んだ結果、“すみ分け"がなされれば、未来は今よりも間違いなく明るいものとなる。

(音成 泰文)



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