2020年9月10日

「未来へ 見出す活路 レアアース産業の現在地と課題」中国以外の供給ソース開拓 リスク回避し新用途開発

 ネオジム、ジスプロシウム、ランタン、セリウム、イットリウムなど17元素の総称である希土類(レアアース)。自動車の電動化など次世代技術に必須の元素でありながら、資源の9割以上を中国に依存していた供給ソースの脆弱性が世間一般にまで知れ渡ったのが2010年9月だった。あれから10年。日本のレアアース産業の現在地と課題を探る。

 「会社設立から半年間は中国からいっさいレアアースが供給されず売り上げの全く立たない日々が続いた」。レアアース・レアメタル商社マテリアル・トレイディング・カンパニー(MTC)の小滝秀明社長は10年前の出来事を振り返る。

 9月7日。尖閣諸島沖で違法操業していた中国漁船が日本の海上保安庁の巡視船に体当たりして漁船の船長が逮捕される事件が発生した。日中関係を大きく揺るがした「尖閣事件」を機に、中国政府はレアアースの対日禁輸に踏み切る。日本の製造業の生命線とも言える最重要元素群。供給が途絶えた日本の製造業はパニックに陥り価格は一気に10倍以上に暴騰した。

 日本の需要家が混乱する様子を見ながら、商社や生産者などは「来るべきものが来た」と比較的冷静だった。彼らが2000年代初頭から警告していたサプライチェーンの中国一極集中リスクが現実になったからだ。

 レアアースの対日禁輸には日本の脇の甘さも指摘された。尖閣事件の2カ月前。中国政府はレアアースの輸出許可数量を前年比4割削減すると発表した。これに慌てた当時の政権幹部が訪中して中国政府に許可数量の見直しを要請。「レアアースが日本の生命線だということを中国に教えてしまった」と業界関係者は苦笑する。

 対日禁輸は年が明けると徐々に正常化する。欧米などがWTOに提訴していた中国の輸出規制が違反認定されたこともあり、暴騰していた価格も11年夏以降は下落基調に転換。それ以降は大きな変動もなくほぼ安定した推移を続けている。

 尖閣事件を契機として日本は資源の中国偏重を本格的に見直す。例えばネオジムなどのモーター用磁石に使う元素を含む希土類金属。財務省の輸入統計によると、中国のシェアが09年は93%あったが、19年は51%へと低下。その一方でベトナムが7%から41%へ伸びるなど、資源の中国リスクは大幅に低下した。

 だがリスクが消えたわけではない。酸化セリウムや酸化ランタン、酸化イットリウムなどは19年時点でも90%以上を中国から輸入する。磁石に添加するキー素材のジスプロシウムやテルビウムなども「中国に続くソースがないため半永久的な課題として残る」と、レアメタル商社サムウッドの川﨑豊副社長は指摘する。

 サプライチェーンの中流域も不安を抱える。分離精製したレアアースの生産量は現在も中国が90%近くを占める。日本が官民で開発を支援した豪ライナス・コーポレーションの工場があるマレーシアは10%程度にとどまる。磁石母合金も中国に依存する。このまま上流域の一部資源や中流域の中国依存が続けば、尖閣事件後のように、政治的な思惑で再び供給が止まる可能性がある。いつでも不測の事態に対応できる心構えが必要だ。

 供給リスクに対して日本の需要家は省レアアース化を進める。「磁石に添加するジスプロシウムはかつての3割程度まで減少した」と信越化学工業の浜本考司マグネット部長は説明する。その一方で「ネオジム磁石の需要は増加し続けており絶対的な必要量は変わっていない」(サムウッドの川﨑副社長)という。信越化学工業は「レアアースは何度でも使えてピュアな状態に戻せる資源だから、原料調達はリサイクルにも力を入れる」(浜本部長)と話す。

 だが日本の製造業が安心してレアアースを活用するにはライナスに次ぐ中国以外の供給ソースの開拓が欠かせない。ところが過去に新興メーカーがレアアース開発プロジェクトを立ち上げたが頓挫している事例は多い。この10年間で名前が残っているプロジェクトは豪アラフラ・リソーシズなど一部。日本としては「開発の可能性のあるパートナーをしっかり見極める必要がある」(MTCの小滝社長)。

 日本のレアアース業界が直面する課題は供給だけではない。世界第2位の消費国として新規需要の掘り起こしは重要な責務だ。

 レアアースは17元素ある。磁石に使うネオジムやジスプロシウムを生産すれば、それに伴って他の元素も生産される。「一番の問題が研磨剤に使うセリウムや蛍光体に使うイットリウム」と指摘するのは国際希土類工業協会の清水孝太郎副会長(三菱UFJリサーチ&コンサルティング上席主任研究員)。「技術の代替や革新が進み余剰感が最も強い。ネオジムを生産すればするほどセリウムやイットリウムが余る」と警告する。

 「レアアースは持続可能な社会に貢献できる優秀な材料。上手にリスクヘッジをしながら新しい用途を開発していきたい」(国際希土類工業協会の清水副会長)。レアアースを上手く使いこなす技術力。ここに磨きをかけることが、新しい時代の日本経済の成長エンジンとなる。

(増田正則、鈴木大詩)

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