2021年4月27日

東京製鉄 経営戦略を聞く 西本利一社長 田原HC生産120万トンへ 製品開発面でトップ走り続ける

――前期決算(2021年3月期)を振り返って。

「新型コロナウイルス感染症影響が出ていなかった20年4―6月期は一定の利益を確保できていた。コロナ禍で7―9月期、10―12月期、1―3月期は薄氷を踏む思いで、輸出数量が増えたものの、国内向け鋼材出荷数量が前期比47万トン減少する中で利益を上積みし、黒字を維持することができた。大きな要因はコストダウンで、各工場スタッフの努力に感謝している。1―3月期業績のみを捉えた場合、米国・ニューコアをはじめ海外メーカーは空前の利益を計上している。日本メーカーは低迷を脱し切れておらず、収益構造を変える必要があるのではないか」

――今期は前期比大幅増収増益を予想する。

「世界的な薄板需給のタイト化を受けて、薄板販売数量の増加を見込んでいる。前期の田原工場の生産数量は製鋼、ホットコイルともに100万トンに届かなかったが、岡山工場からのスラブ供給を増やし、今期はホットコイルで120万トンを計画する。トン当たり約1300円のコストアップ要因があるものの、生産回復に伴う固定費低減や、メタルスプレッドの拡大などで増収増益を予想する。鋼材出荷数量は年間260万トンで前期比50万トン増。増分50万トンのうち鋼板品種は6―7割、条鋼品種は3―4割を占める。今期の販売数量比率は鋼板類が52%、条鋼類は48%を見込む。田原は4月から、平日昼間に操業できる電力契約に見直した。薄板だけでなく、九州工場の厚板生産も増やす。生産回復などに伴い、4月20日までで全社で一時帰休を解消している」

――コロナ感染症の市場影響をどう見るか。

「近年、世界の消費構造が"モノ"から"コト"にシフトしていたが、コロナ影響で"モノ"に回帰しているようだ。その結果、モノの消費が増え、各国政府による景気刺激策もあり、鉄鋼需要が増加している。中でも自動車や家電などに使われる薄板のニーズが旺盛で、今の情勢を裏付けている。コロナ禍でこのような状況が続くだろうし、車通勤の奨励などコロナが今後の消費行動に影響を与えている。コロナ禍が続く限り、この傾向は継続するとみている」

――薄板を主体に国内外で価格差がある。

「世界的な薄板需給のタイト化で、当社への引き合いは増えている。ただ、足元のマーケット環境に甘んじることなく、鋼板品種に比べて低調に推移する条鋼品種も収益力を高めなければならない。ようやく薄板マーケットの活況が厚板にも波及してきており、必ずH形鋼など条鋼品種にも影響を及ぼし、市況が上昇するだろう。輸出価格はFOBでホットコイル10万円、厚板9万円、条鋼8万円で、国内価格は見劣りする。コストアップで適正採算水準を下回っているH形鋼は先行き、値上げ必至の情勢にある。当社の5月契約分の販売価格において、ベースサイズでホットコイル価格がH形鋼価格を16年ぶりに上回った。製造コストなどを考慮した場合、ホットコイルより厚板、厚板よりH形鋼の販売価格が高くなるのが、本来の姿。需要構造が変化しているとはいえ、矛盾している。しかも厚板とH形鋼は適正利益水準を下回っており、採算の改善が求められる局面で、いずれあるべき姿に戻るはずだ」

――岡山のホットコイル生産再開予定は。

「前向きに検討しており、再開時期を探っていく。設備を見直さなければならず、今期中は難しい。生産を再開するには岡山で月間3―5万トンを手掛ける必要がある。輸出は価格変動が大きく、リスクが高いことから、安定数量を確保するためには、国内向けホットコイルの販売数量を現行80万トン程度から150万トン前後に引き上げなければならない」

――設備投資計画を。

「今期の設備投資は前期比40億円プラスの118億円を計画する。岡山は酸洗設備をリプレースし、岸壁を補修する。九州工場は電気炉と炉外精錬炉のトランス、大形形鋼工場の中間圧延機のドライブ装置、連続鋳造設備のモールドとセグメントをそれぞれ更新する。この圧延モーターを直流式から交流式に切り替える。新しいモールドは二次冷却を水からミストに変え、品質アップと歩留まり向上を実現する。宇都宮も圧延ドライブ装置を更新する。今期中にほぼ実行し、一部設備は複数年にわたって行う。将来の需要回復時に増産できる体制を整えるよう、老朽設備の見直し・更新を着実に行う」

――九州電力と組み、太陽光発電出力伸長の供給過剰時に電力を多く使う「上げのデマンドレスポンス(上げDR)」を活用している。

「九電の上げDR要請を受けての平日昼間操業について、足元の需要が増えていることから、4月は4日実施しており、5月は6日を予定している。他の電力会社も九電と同様の動きが出てくるとみており、注視している」

――特寸H形鋼「Tuned―H (TH)」をはじめ、H形鋼の展開はどうか。

「鉄骨小梁向けタイプ『TH―Bシリーズ』で、SM規格のJIS認証を追加で取得した。住宅用軽量鉄骨向け『TH―Lシリーズ』を含めて、サイズ拡大を検討している。H形鋼は受け身でなく、需要家ニーズに対応するため、ユーザーインした形の開発を推進する。宇都宮は購入した隣接地のインフラ整備を実施中で、7月から運用を開始。工場内の動線見直しや整備に加えて、屋外製品保管ヤードとして活用することで、物流効率化を図る。H形鋼もバリエーション拡大、内部コスト低減など競争力強化に向けた取り組みを続ける」

――韓国・東国製鋼との提携に関しては。

「コロナ禍で交流が難しく、技術的な摺り合わせは頓挫しているが当社のH形鋼やスラブの供給は継続している。ただ、メーンの薄板で進展が無いことから、21年内で連携を深化させるべく、先日、東国CEOとWEB会議を行ったところだ」

――環境製品宣言(EPD)取得状況を。

「1月に角形鋼管とカットシートで追加取得した。今期は溶融亜鉛めっきコイルと酸洗コイルで取得を目指す」

――中国が輸入を再開したが、鉄スクラップの状況をどう見るか。

「中国の輸入影響は微々たるもの。現時点で日本からの輸入数量は少なく、指標になっていない。足元の活況は東南アジアのビレットマーケットによるところが大きい。当社もスラブを輸出しているが、半製品、製品を含めた全体マーケットによって、鉄スクラップ価格が形成されている。今期の鉄スクラップ購入価格をトン当たり4万4500円に設定したが、4万円を切ることも、5万円を超えることも無いだろう」

――カーボンニュートラル実現への流れが加速している。電炉業界最大手としての役割をどのように発揮するか。

「政府の方針に沿った形で、長期環境ビジョン『Tokyo Steel EcoVision2050』を見直しており、今夏をめどにリニューアルする。既知の技術を盛り込みながら30年時点のCO2削減率を高め、50年のカーボンニュートラル実現を掲げる。脱炭素社会実現に向けた流れの中で、電炉鋼材に対する関心が高まっている。このニーズを捕捉することで、薄板を主体に国内向け販売数量を安定させていく。詳細をお話しすることができないが、自動車や家電をはじめ多数の需要家から引き合いが来ており、仕様をすり合わせるなど、すでに共同開発に着手したものもあり、収益を確保できる形で進めていきたい。当社は10年以上も前から先進的に取り組んできたが、ようやく日本の鉄鋼業界もこの方向に舵を切り始めた。当社の主張は何も変えていないが、周りが主張を変えている。それでよしとせず、製品開発面などでトップを走り続けなければならない」(濱坂浩司)

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