2021年6月17日

日鉄物産の「中長期経営計画」/佐伯康光社長に聞く/社会に貢献する強靭な成長企業へ/事業基盤強化と成長戦略を推進

――前中期経営計画の最終20年度の連結経常利益は前年度比75億円減の256億円、純利益は48億円減の159億円だった。

「上期は構造的な環境変化に新型コロナウイルス影響が加わり、経常利益は前年同期比78億円減の95億円にとどまった。下期は中国をはじめとする景気回復によって需給が引き締まり、新中計施策の先行実施もあって4億円増の161億円と回復。通期経常利益は直近見通しを16億円上回り、純利益も159億円と29億円同じく上振れした。経常利益は鉄鋼が31億円減の190億円、産機・インフラは12億円減の25億円、繊維が30億円減の16億円、食糧は横ばいの23億円。鉄鋼は上期の販売数量減とグループ会社の損益悪化が響き、繊維は市場全体が縮小基調にある中でアパレル店舗の休業による販売減が加わった。産機・インフラは昨年の一過性利益の剥落などがあった」

――コロナ影響をどう分析する。

「鉄鋼や繊維の市場構造変化と合わせた環境変化として、経常損益ベースで150億円程度のインパクトがあったと分析している。緊急対策や新中計施策の先行実施などで71億円挽回し、75億円の減益にとどめた」

――前中計(18-20年度)の総括を。

「計画を策定した17年度当時は、長期的な市場構造変化こそ予想していたものの、事業拡大、数量拡大をテーマに掲げた。ところが鉄鋼の市場構造の変化が顕著となり、繊維も想定より早く市場縮小が本格化した。こうした事業環境の構造的変化にコロナ禍が加わり、売上高は2兆8000億円の目標に対して20年度は2兆732億円にとどまり、440億円を目指していた経常利益も大幅な未達に終わった」

――積み残した課題を整理すると。

「固定費の増加、低採算事業や組織の存在、成長シナリオと実行力の不足などが浮き彫りになった。一人当たりの利益は20年度までの3年間で1400万円に4割低下し、ROICは3・9%に2・1ポイント低下。事業基盤強化、成長戦略の加速が経営課題として残った」

――定性面は。

「成長戦略へのシフトをテーマに掲げ、三井物産鉄鋼事業の一部譲受、NST日本鉄板や月星商事のグループ化、米テキサス州のコイルセンター新設、海外メーカーと連携したアルミ高機能材の拡販などを実行し、将来への布石は打った。コンプライアンスも各方面で強化。総合職採用の女性比率が3分の1に上昇するなどダイバーシティも大きく進展した」

――新「中長期計画」について、全体戦略から。

「『社会に貢献する強靭な成長企業の実現』を目指す。20年度は異例の年だったので、19年度を起点とした成長戦略を描いた。とくに鉄鋼、繊維は内需縮小、海外での競合激化など厳しい環境を想定。事業基盤強化施策の実行、成長戦略の推進、ESG経営の進化の3本柱で企業価値向上を実現する」

――コロナ後も見据えた事業環境認識は。

「日本経済については、コロナ前の水準を回復するのは22年度以降で、その後も低成長時代が続く。世界経済は21年度にコロナ以前のレベルに戻り、その後もアジアや北米では成長が継続する。主力の鉄鋼については、国内需要や汎用材輸出の減少によって国内生産が減少する一方、海外需要は回復し、脱炭素社会などのニーズに対応した新規需要は増加する。繊維については、25年度の国内市場が19年度比で15%程度減少する。これらの環境変化による減益リスクが23年度までで、鉄鋼、産機・インフラで90億、繊維で30億、合計120億円程度発生し、25年度には合計150億円規模に拡大する厳しい経営環境を想定している」

――定量目標を。

「経常利益は3年後の23年度420億円、5年後の25年度450億円+αを目指す。23年度については、19年度の332億円から環境悪化による120億円を差し引いた210億円から420億円への倍増を目指すことになる。事業基盤強化策で100億円、成長戦略の推進で110億円を上積みする」

――新たに環境目標も設定した。

「18年度の実績である3万5000トンのCO2排出量を30年度までに30%削減し、50年のカーボンニュートラルを目指す」

――21年度経常利益予想は74億円増の330億円。

「世界経済のコロナ禍からの回復は、地域によって明暗が大きく分かれ、不透明感も強い。『中長期経営計画』の初年度として、まず19年度並みへの回復を目指す。内訳は鉄鋼が60億円増の250億円、産機・インフラは1億円増の26億円、繊維は10億円増の26億円、食糧が4億円増の28億円。鉄鋼が19年度の222億円を上回る計画とし、全体を牽引するシナリオを描いている」

――事業基盤強化策について。

「『付加価値生産性の向上』で50億円の効果を見込む。業務プロセスを徹底的に見直し、ICTツールを活用することで抜本的な人員効率化を図る。当社本体の人員効率化で30億円、一般管理費削減で20億円を計画。さらに『製造・販売拠点の再編・統合・撤退』によって50億円の効果を積み上げる。子会社の人員効率化で30億円、一般管理費削減で20億円を見込んでいる。100億円のうち70%の効果を21年度内に実現する方針」

――製造・販売拠点については、構造改革の動きが本格化している。

「19年度末に89社だった子会社を23年度末に68社に縮小する。鉄鋼はかなり先行しており、NSMコイルセンター、日鉄物産メカニカル鋼管、日鉄物産特殊鋼、日鉄物産ワイヤ&ウエルディングが発足。繊維では、メンズスーツを縫製していた瑞耕服装(大連)が撤退を決めている。支社や海外現地法人についても効率化の観点から統合・再編を推し進めていく」

――成長戦略の推進については。

「成長分野・地域に経営資源を重点的に投入し、次世代の収益の柱を造りこんでいく。SDGs関連など新規需要捕捉で40億円、海外でのインサイダー化によるグローバル戦略の推進で35億円、流通・加工強化とソリューション提供による拡販・収益性向上、M&A、アライアンス戦略の推進で35億円、合計110億円の効果を23年度までに実現。デジタルトランスフォーメーション(DX)戦略の推進で+αを追加していく」

――成長戦略を実現するための投資スタンスを。

「5年間750億円の事業投融資を計画している。投下資本利益率(ROIC)は6%程度を目指す。別途、システムに170億円を投入し、DXをフルに活用して、新たな時代のサプライチェーンを構築する」

 ――本部別の利益成長シナリオを。

「23年度の経常利益目標は、鉄鋼が19年度実績を90億円上回る310億円に設定し、食糧が11億円増の35億円。産機・インフラは横ばいの37億円で、繊維は6億円減の40億円をそれぞれ見込んでいる」

 ――鉄鋼の事業計画は。

「内需と一般材輸出の減少が続く厳しい環境変化によって75億円規模の減益要因を想定し、その上で90億円の増益を図る計画。事業基盤強化で75億円、成長戦略で90億円の損益改善を見込む」

――具体的な戦略を。

「新規需要を確実に捕捉していく。軽量化素材、EVやFCV用のモーター・電池素材など自動車分野、風力や太陽光などの再生可能エネルギー分野、情報通信、半導体や医療機器向けの高機能素材分野、ブラックペレットやHBIなど環境対応型原燃料分野をターゲットに設定している。グローバル戦略も加速する。ASEAN、北米、インドなど日本製鉄グループを中心とした現地の鉄鋼メーカーとの連携による仕入先の多様化、現地の加工・物流機能の活用などを推進して、地産地消ニーズを捕捉。超ハイテン、電磁鋼板、特殊鋼、高機能メッキ鋼板など高機能材の輸出も強化する。国内ではNST三鋼販、NST日本鉄板、月星商事との総合シナジー追求。国土強靭化や建設プロジェクト対応力を強化するためBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)なども導入。同時に流通効率化や事業創出につながるM&A、アライアンスも積極展開する方針で、750億円の多くをこのエリアに投入していく」

――スケール感は。

「2000万トン規模だった連結鋼材取扱量が20年度は1700万トン規模に縮小し、21年度も1860万トン程度にとどまる見通し。供給ソースの多様化、新規・海外需要捕捉を並行して進め、23年度に2100万トン以上に引き上げ、25年度以降を見据えてさらに拡大していく。日本製鉄グループの技術力、品質力、海外供給網をフルに活用し、三井物産グループのグローバルネットワークも活用させていただく」

――システム関連でも大規模投資を計画しているが、鉄鋼流通におけるDX戦略について。

「鋼材流通は、メーカー、ユーザーともに多種多様で、少量多品種化、納期や品質の管理厳格化も進行しており、生産性・業務効率の向上や的確性のさらなる追求が課題となっている。『日鉄物産DXプラットフォーム』を開発し、トレーディング業務のフルデジタル化を目指す。ユーザー、流通、メーカー一貫での効率化を図り、業務的確性と品質管理をレベルアップ。情報のリアルタイム化、可視化を図り、サプライチェーン上の半製品、製品などのあらゆる断面での在庫状況を把握できるようにする。在庫圧縮やトラブル時対応などを含め、取引先の生産計画、調達戦略を高度化するソリューションを提供していきたい。開発途上であるが、22年度から導入を開始し、24年度末のグループ導入完了を目指している。この効果を引き出して25年度の450億円にプラスアルファとして上積みしていく」

――産機・インフラの事業計画は。

「広い事業基盤を持つ鉄鋼との協同によるマルチマテリアル化ニーズの開拓、アルミ需要の捕捉、グローバル展開するヘッドレスト部品事業の拡張などを計画。脱炭素社会へのシフトによって国内外での需要拡大が想定される屋根置き太陽光発電事業の拡大にも取り組む」

――繊維、食糧については。

「繊維は、数十億円の経常利益を稼ぎ出してきた収益の柱のひとつであり、ライフスタイル市場や海外市場の開拓、エシカル消費に対応する社会ニーズ対応商品創出などの成長戦略を推し進める。三井物産グループとの繊維事業における提携を検討しており、更なる成長をはかりたい。互いの強みを持ち寄って、シナジー効果を追求していきたい。食糧は、コロナ後に確実に需要が回復する食肉需要を捕捉し、将来の供給不足を見据えた大豆ミートなどの植物由来肉の拡販、成長するアセアン市場の開拓などに注力する」(谷藤 真澄)

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