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2023.9.20
2022年4月20日
日本の特殊鋼/世界に誇る技術の粋/(1)/業界の将来展望を聞く(上)/特殊鋼倶楽部・藤岡高広会長/製販一体で強固な供給網/時代読み、技術・国際競争力を向上

国際的に社会・経済のあり方が大きく変わる中、世界最先端の技術を誇る日本の特殊鋼は自動車や建設機械など産業を支える素材としての重要度を増すばかりだ。自動車の電動化で需要が減少する一方、電動化で使用が増える特殊鋼部品があり、さらには再生可能エネルギーや航空宇宙など高度な特殊鋼を要する新たな市場が広がっていく。「大きな戦略を描き、果敢にチャレンジしていきたい」。カーボンニュートラル(CN)やデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みに力を注ぎ、業界全体の競争力向上を目指す特殊鋼倶楽部の藤岡高広会長(愛知製鋼社長)に特殊鋼業界の将来展望を聞いた。
――特殊鋼倶楽部では技術の粋(すい)を「粋(いき)」と称して業界の「計らい」を表している。日本の特殊鋼が持つ強みとは何か。
「特殊鋼は日本の鉄鋼業の最先端技術の『粋(いき)』であり、『最後の砦』とも言われる。自動車や産機など各需要家の非常に高い要求レベルに応えるためにすり合わせ技術などを培い、新技術、新商品を開発してきた。日本の製造業の高いグローバル競争力を支えている。高度で精密な技術の開発を絶え間なく行っており、特に自動車や部品メーカーなど顧客と一体になったすり合わせ技術は顧客の製品開発の初期から製造方法と要求する品質を聞きながら、完成まで一貫して造り上げている。削りやすさなどわずかな違いが生じるため、同じ品種の鋼材であっても他の特殊鋼メーカーには容易に切り替えることはできない。多品種小ロット、熱処理、高度な生産プロセスを通じて良品廉価なものづくりができる。2つめの強みは特殊鋼メーカーとして生産対応を行っている点だ。自動車メーカーなどから、ある製品の製造依頼や急な増産要請にあうんの呼吸で対応している。長年にわたって築き上げてきたすり合わせ技術と生産対応、商社・流通とともに製販一体で構築してきた強固なサプライチェーンは日本の産業界になくてはならないもの。特殊鋼業界の連携力、改善提案力は非常に素晴らしく、海外の特殊鋼製品は簡単に入ってこられない」
――第4次産業革命や新型コロナウイルス禍で市場が大きく変化している。特殊鋼の需要構造はどう変わっていくのか。
「CNやコロナ禍による資源インフレで市場の潮目が変わっている。コスト、技術面ともに大きな経営リスクとなっている。国内市場は縮小の懸念があるが、CNやDX、IоT、電動車、CASEなどこれから伸びていく新規分野への取り組みがますます重要になってくる。技術の強みをしっかりと生かし、新しい社会やシステム、商品を自分のものとして取り込み、特殊鋼の新しいマーケットを切り拓いていく。海外の特殊鋼メーカーの技術レベルが上がり、競争環境は厳しくなっている。課題の解決に向けて商品開発力や生産技術開発力、コスト競争力を高めていかなければならない。グローバルな競争に立ち向かうために政府や各省、顧客と連携する必要があり、特殊鋼業界や産業界全体の競争力と価値を高めながら生き残りを図っていきたい」
――競争力の向上に必要なこととは。
「時代の変化をよく読まなければならない、いわゆる先読みの大切さである。競争力とはお客さまが望む高品質で良品廉価な製品をタイムリーに納めることだが、時代が変わり、造る製品が変わっていく。自動車のエンジン部品が減っていく中で自社として何をどう獲得していくか。例を挙げると電動車に使われる電動アクスルの需要がこれから大きく増えていく。増える需要を捉えるために、いち早く自社のビジネスモデルに結びつけなければならない。ビジネスモデルを確立し、現場力と合わせて製品を造っていく明確なビジョンを持たないといけない。風力発電など再生エネ向けに特殊鋼がどう使われるか。水素社会や国土強靭化に向けて耐水素性ステンレスをどこにどう使うのか。時代にマッチした特殊鋼の使い方と自社のDNAを合わせて考え、目標を定めて投資を進めていく。電動化によって自動車に使用される特殊鋼の原単位は約30%ほど減る可能性があるが、減った分をどう補足するか。『両利きの経営』と言うが、メイン製品の販売は減るが、増える製品を合わせて常に右肩上がりを目指す。これからの市場の大きな変化は単独では乗り切れない可能性が高い。他社と協力するなど知恵を出し合い、特殊鋼業界として取り組まないといけないことが増えてくるだろう」
――CNの動きが加速している。
「CNについては特殊鋼業界としての課題とユーザー業界の変化の2つの面がある。特殊鋼業界は電力多消費産業であり、高炉メーカーに比べると少ないがそれでも多くのCO2を排出している。省エネなど技術開発をベースにCNに対して考えていく。ユーザー業界の変化については、自動車メーカーから新たな特殊鋼の製品や部品が求められている。例えば、愛知製鋼でモーター用の材料が造れないかなどいろいろな問い合わせが寄せられる。今まで何十年と取り組んできた事業の先にわれわれの未来はないかもしれない。アンテナを高くして他の産業がどう変わっていくか、変化をキャッチしながら顧客と一体となった技術開発が重要になる。ただ、自社のDNAを持つ分野を考える必要がある。われわれが紙や木材など他の素材で勝負するわけにはいかない。製鋼や圧延、鍛造、めっき、溶接、プレスなどDNAに基づいた技術で時代や環境の変化に応じて新たにチャレンジしていくことが大事だ」(編集局長=植木 美知也)
――特殊鋼倶楽部では技術の粋(すい)を「粋(いき)」と称して業界の「計らい」を表している。日本の特殊鋼が持つ強みとは何か。
「特殊鋼は日本の鉄鋼業の最先端技術の『粋(いき)』であり、『最後の砦』とも言われる。自動車や産機など各需要家の非常に高い要求レベルに応えるためにすり合わせ技術などを培い、新技術、新商品を開発してきた。日本の製造業の高いグローバル競争力を支えている。高度で精密な技術の開発を絶え間なく行っており、特に自動車や部品メーカーなど顧客と一体になったすり合わせ技術は顧客の製品開発の初期から製造方法と要求する品質を聞きながら、完成まで一貫して造り上げている。削りやすさなどわずかな違いが生じるため、同じ品種の鋼材であっても他の特殊鋼メーカーには容易に切り替えることはできない。多品種小ロット、熱処理、高度な生産プロセスを通じて良品廉価なものづくりができる。2つめの強みは特殊鋼メーカーとして生産対応を行っている点だ。自動車メーカーなどから、ある製品の製造依頼や急な増産要請にあうんの呼吸で対応している。長年にわたって築き上げてきたすり合わせ技術と生産対応、商社・流通とともに製販一体で構築してきた強固なサプライチェーンは日本の産業界になくてはならないもの。特殊鋼業界の連携力、改善提案力は非常に素晴らしく、海外の特殊鋼製品は簡単に入ってこられない」

「CNやコロナ禍による資源インフレで市場の潮目が変わっている。コスト、技術面ともに大きな経営リスクとなっている。国内市場は縮小の懸念があるが、CNやDX、IоT、電動車、CASEなどこれから伸びていく新規分野への取り組みがますます重要になってくる。技術の強みをしっかりと生かし、新しい社会やシステム、商品を自分のものとして取り込み、特殊鋼の新しいマーケットを切り拓いていく。海外の特殊鋼メーカーの技術レベルが上がり、競争環境は厳しくなっている。課題の解決に向けて商品開発力や生産技術開発力、コスト競争力を高めていかなければならない。グローバルな競争に立ち向かうために政府や各省、顧客と連携する必要があり、特殊鋼業界や産業界全体の競争力と価値を高めながら生き残りを図っていきたい」
――競争力の向上に必要なこととは。
「時代の変化をよく読まなければならない、いわゆる先読みの大切さである。競争力とはお客さまが望む高品質で良品廉価な製品をタイムリーに納めることだが、時代が変わり、造る製品が変わっていく。自動車のエンジン部品が減っていく中で自社として何をどう獲得していくか。例を挙げると電動車に使われる電動アクスルの需要がこれから大きく増えていく。増える需要を捉えるために、いち早く自社のビジネスモデルに結びつけなければならない。ビジネスモデルを確立し、現場力と合わせて製品を造っていく明確なビジョンを持たないといけない。風力発電など再生エネ向けに特殊鋼がどう使われるか。水素社会や国土強靭化に向けて耐水素性ステンレスをどこにどう使うのか。時代にマッチした特殊鋼の使い方と自社のDNAを合わせて考え、目標を定めて投資を進めていく。電動化によって自動車に使用される特殊鋼の原単位は約30%ほど減る可能性があるが、減った分をどう補足するか。『両利きの経営』と言うが、メイン製品の販売は減るが、増える製品を合わせて常に右肩上がりを目指す。これからの市場の大きな変化は単独では乗り切れない可能性が高い。他社と協力するなど知恵を出し合い、特殊鋼業界として取り組まないといけないことが増えてくるだろう」
――CNの動きが加速している。
「CNについては特殊鋼業界としての課題とユーザー業界の変化の2つの面がある。特殊鋼業界は電力多消費産業であり、高炉メーカーに比べると少ないがそれでも多くのCO2を排出している。省エネなど技術開発をベースにCNに対して考えていく。ユーザー業界の変化については、自動車メーカーから新たな特殊鋼の製品や部品が求められている。例えば、愛知製鋼でモーター用の材料が造れないかなどいろいろな問い合わせが寄せられる。今まで何十年と取り組んできた事業の先にわれわれの未来はないかもしれない。アンテナを高くして他の産業がどう変わっていくか、変化をキャッチしながら顧客と一体となった技術開発が重要になる。ただ、自社のDNAを持つ分野を考える必要がある。われわれが紙や木材など他の素材で勝負するわけにはいかない。製鋼や圧延、鍛造、めっき、溶接、プレスなどDNAに基づいた技術で時代や環境の変化に応じて新たにチャレンジしていくことが大事だ」(編集局長=植木 美知也)

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