2022年4月21日

日本の特殊鋼/世界に誇る技術の粋/(2)/業界の将来展望を聞く(下)/特殊鋼倶楽部・藤岡高広会長/CN・電子化活動を加速



――特殊鋼倶楽部は昨年にカーボンニュートラルワーキンググループ(CNWG)を立ち上げた。

「特殊鋼倶楽部の会長は2度目だが、1度目は教育に力を入れ、交流会や工場見学会などを充実させた。2度目の今回は何かを業界のために残しておきたいと考え、時代の脚光を浴びているCNとミルシートの電子化に取り組んでいる。CNWGは特殊鋼メーカー3社と流通1社で取り組みを始め、議論した情報をホームページで公開している。物事を行うには『意識と知識と技術』が必要となる。共通理解が重要であり、まずは知識を特殊鋼倶楽部のメンバー、それから特に流通への理解の浸透を図っていきたい。勉強会も行い、経済産業省製造産業局金属課の大竹真貴・金属技術室長に『グリーン成長戦略と鉄鋼分野における脱炭素化の取り組み』と題して講演していただき、非常に好評だった。これから全日本特殊鋼流通協会に協力を仰ぎ、流通の方々への理解を広げていく。特殊鋼業界全体でCO2を減らしていければと思っている」

――DXの活用で事業を効率化するミルシート電子化拡大ワーキンググループも動き出した。

「特殊鋼メーカー3社と流通6社でWGを組み、ミルシートの電子化を検討している。一部電子化している企業はあるが、内容が統一されていない。問屋から問屋にミルシートを送る際に1日に数万単位でコピーしている。トレーサビリティーとして使用されているが、非常に手間がかかっている。日本鉄鋼連盟に相談し、高炉メーカーと商社の間で実施しているシステムを参考にさせていただいている。特殊鋼メーカーから使用し、徐々に展開していこうと考えている。まだ試行錯誤で勉強の段階だがなんとか実現し、数年後には大幅に電子化を拡大したいと考えている」

――商慣習の見直しも重要に。

「経産省が16年に発表した『未来志向型の取引慣行』に価格決定方式やコスト負担の適正化、支払い条件の改善が示され、われわれも調達などで展開している。企業産業取引適正ガイドラインもしっかりと守ることが大事だ」

――鉄スクラップや合金など原料・資材価格が高騰し、取引や企業経営に大きく影響している。

「原料価格の変動を販売価格にタイムリーに反映していくシステムを持たなければならない。今も反映はしているが、先に原価が上がり、販価への転嫁が遅れる状態にある。よりタイムリーにするために原料価格のサーチャージを6カ月から3カ月に短縮するなど対策が要る。販価に反映する原料・資材の対象を増やす必要もある。今、コストに大きく影響しているのは、鉄スクラップだけでなく、電力、ガス、合金など全ての原材料、エネルギー価格高騰であり、サーチャージに加え、ベース価格へ反映することが重要な課題だ。商社や問屋にとっても価格転嫁は深刻な課題であり、経産省と一緒になって需要家に理解してもらうよう働きかけていく」

――人材育成に力を入れている。

「セミナーや講演会を継続していく。特殊鋼教養講座を開き、特殊鋼販売技士の資格取得制度を広めている。大学での講演会も行っている。技術や知識だけでなく、問題解決力やコミュニケーション力の高い人材を育てたい。『鉄は国家なり』と言われたが、今は『素材は国家なり』。iPadを見ても材料の5―7割は日本製だ。日本が先端技術で勝ち残っていくために素材を造るメーカーが持つ役割を需要家や国にしっかり認知してほしいと思う。素材メーカーの力が衰えれば、すり合わせや生産対応が難しくなり、自社の努力と周りの理解が十分でなければわれわれの競争力は低下していき、産業全体の競争力の低下につながることになる」

――課題が多様化する中、鉄連や日本鉄鋼協会との連携がさらに重要になる。

「CNやミルシート電子化の拡大、通商問題など鉄鋼業界全体の政策と調整する必要がある課題が多くなっており、鉄連との連携をさらに深くしていく。鉄鋼協会は産学8000人以上の研究者・技術者からなる世界的な著名な学術団体であり、技術開発のみならず人材育成などいろいろな活動を行っている。情報交換をさらに密にし、多面的に連携していきたい」

――海外の特殊鋼メーカーの技術が向上している。国際競争に打ち勝つには。

「中国など海外メーカーの技術力はかなり接近している。日本は需要家と一体となって初期から開発していくスタイルを大事にする。日本の産業でしかできないことだが、海外展開を考えた時に受動的ではなく、能動的に変えていく必要がある。自動車メーカーは海外で基本的に特殊鋼の現地調達を行っている。愛知製鋼は中国や米国に鍛造品の工場を持つが、顧客から材料の特殊鋼を現地で調達するよう求められている。特殊な製品を開発しても海外で造れるスペックに調整する必要がある。日本の技術の優位性を発揮する環境は海外と日本国内とで少し異なり、グローバルな競争力を維持する技術の優位性は低くなっているのは事実だ。海外の提携先の特殊鋼メーカーから鋼材を供給する、あるいは需要家と一緒に海外メーカーと協力し製造を委託するなど、技術力が向上している海外メーカーと協力する場面が増えるだろう」

――特殊鋼業界の将来のビジョンを。

「市場はCNやロボット、航空宇宙など大きく広がっている。豊田佐吉の言葉に『障子を開けてみよ、外は広いぞ』とある。先にある一点の明かりに向けて果敢に進んでいく力が大事だ。そのために重要なことは特殊鋼の競争力であり、顧客や材質、グローバルや時代への適応、流通との連携などさまざまな側面から競争力を高める。特殊鋼倶楽部としていろいろと助けになる情報を発信しながら、特殊鋼業界をサポートしていきたい」

(編集局長=植木 美知也)

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