2022年4月28日

鉄鋼新経営 新たな成長に向けて 東京製鉄社長 西本利一氏 鋼板シフト大きな成果 脱炭素ニーズ対応、田原増強も

――前期決算(2022年3月期)をどのように評価しているか。

「売上高は過去2番目となり、高い水準の利益を確保できたが、その内容が最も大事。販売数量で鋼板品種が条鋼品種を逆転したが、営業利益も圧倒的に鋼板品種が上回り、317億7300万円の半分近くは田原工場によるもので、戦略的に進めてきた鋼板品種へのシフトで成果が大きく出ている。例えば岡山工場は前期で酸洗設備のリフレッシュ工事を行い、また田原から母材・ホットコイルを供給しているものの、酸洗コイルや冷延コイル、溶融亜鉛めっきコイル、カットシートの利益率が形鋼や異形棒鋼を上回った。九州工場も同様。鋼板品種は販売数量が大きく伸びるとともに、国内外で販売価格を引き上げ、さらに田原の製造実力向上が生産数量の拡大と相まって奏功し、大幅収益増に繋がった。この傾向はますます強くなる。世界的に脱炭素、低炭素に向かう流れの中で、電炉鋼材に対する期待は大きい。鉄鋼業界の中心である鋼板品種はH形鋼の10倍以上のマーケットが存在する。鋼板品種は収益面で苦しい時代が長く、田原は長年赤字が続いていたものの、ようやく電炉鋼板を活かすことができる時代が訪れた」

――今期の方針を。

「売上高は過去最高を、営業利益は前期比で減益を予想している。ロシア・ウクライナ情勢などに伴う資源価格高騰などで電力料金をはじめ各種コストが増大する厳しい環境下にあるものの、電炉鋼材すなわち低炭素鋼材の普及を加速させて、社会に貢献することが最重要テーマ。当社製品に対する需要家ニーズが高まる中で鋼板品種、条鋼品種ともに販売数量拡大を優先することが、その先のメタルスプレッド回復、収益アップに繋がっていく。今期の販売数量は340万トンと前期比70万トン超のプラスを計画し、このうち3分の2を鋼板品種で、3分の1を条鋼品種で増やす」

――ロシア・ウクライナ情勢の影響は。

「ロシアとウクライナは鉄鋼の一大生産地であり、世界の鉄鋼貿易で相当な割合を占めている。とくに半製品、原料は影響を受けざるを得ず、『パニックバイイング』が欧州から起こり、原料及び製品市況が暴騰した。それは米国にも波及していたが、沈静化してきてきた。中国のゼロコロナ政策などで原料炭、鉄鉱石の価格は一時期に比べて下落している。今はノミナル化しているが、コスト近傍で一旦とどまり、中国がコロナ感染拡大から回復し、日本のサプライチェーンが正常化すれば原料及び製品の価格は再び上昇するだろう。日本は円安が進行しており、懸念される。中国は前年よりも鉄鋼生産を増やさない政府方針を打ち出しており、また破壊されたウクライナの製鉄所は生産できず、供給量減少は避けられず、先行きも一定レベルのタイト感は継続するとみている」

――田原をはじめ各工場の操業状況は。

「田原は4月から電力契約を見直して、製鋼工場で平日昼間の稼働日数を増やし、今期は年間100日を超える予定だ。岡山は12月をめどに熱延工場の再稼動を予定し、月産3万トンを目指して準備は順調に進捗している。宇都宮工場も生産数量が増加し、現行の電力契約の範囲内プラスアルファで対応することになる。九州は厚板、H形鋼ともに生産が伸長し、平日昼間の稼働が多い。ニーズを捕捉することで生産数量は増えているが、宇都宮、九州は生産能力に対して、まだ余力がある。田原の前期生産数量についてはホットコイルが130万トンを超えており、岡山からスラブを供給する中、粗鋼も100万トンを大きく超えた。今期は電力契約を見直したことで粗鋼、ホットコイルともに生産を大幅に増やす見通しだ。岡山は田原へのスラブ供給を止め、熱延再稼動後、田原は岡山に酸洗や冷延、カットシート向けのホットコイルを送る必要がなくなり、その分は外販に回すことが出来る」

「今期も生産数量アップが期待できるため、操業効率が改善し、エネルギー原単位の低減が期待できる。田原と岡山は排ガス分析装置導入によって、電気炉の熱効率がさらに改善するとみている」

――急激な環境変化を受けて全品種でオファー止めに踏み切り、鉄スクラップ価格や各種コストの上昇で製品値上げを実施している。

「環境が急変した場合にはマーケット状況を的確に判断することが重要であり、オファー止めを行い、情報を収集した上で販売価格を設定し、売り出しに臨んでいる」

――今期のコストアップ見通しはどうか。

「今期のコストアップはトン当たり9000円になる見通しで、このうち半分が電気料金。このほか副原料、燃料、物流費なども入る。当社は増産効果による固定費削減が1700円程度期待でき、実質は7000円前後。電気料金上昇は燃料調整分に加えて、電力契約見直しでコストが上がった分も含まれる。これまでの製品値上げでこのコスト分をすべて転嫁できておらず、鉄スクラップ価格上昇プラスアルファ分のみであり、マーケットの状況などを考慮しながら、さらなる販売価格の改定が必要になる」

――新商品、新技術の開発はどうか。

「独自商品・特寸H形鋼『Tuned―H (TH)』を含めてH形鋼のサイズバリエーション拡大を図ってきたが、ひと段落した。需要家ニーズが高まった場合、今後は住宅用軽量鉄骨向け『TH―Lシリーズ』の開発を進める。今後はレーザー切断性に優れている電炉鋼板について、これまでの板厚32㍉までから、40㍉以上に対応できるよう強化する。需要家によるレーザーの高出力化に対応し、切断性に優れる鋼板の板厚ニーズが拡大しており、これを捕捉する」

――東国製鋼との提携に進捗はあるか。

「当社から東国製鋼に対するスラブ、H形鋼の供給は継続している。ここにきて鋼板に対するニーズが高まっており、今期は共同開発に着手するのがテーマである。カラー鋼板など東国製鋼の製品に当社のホットコイルを母材として採用されるよう進めていきたい」

――鉄スクラップ価格の動向をどうみるか。

「『パニックバイイング』の流れとして、海外市況はドルベースで急激かつ大幅に上昇したが、行き過ぎたと思う。高炉原料価格をはじめ、海外鉄スクラップ市況は下落してきており、円安を加味しても日本国内の市況、当社の購入価格は割高になりつつある。一時的に調整されるだろう」

――名古屋市内に鉄スクラップ集荷拠点を置く。

「元々、田原工場を立地した理由は名古屋、衣浦、三河の三港から鉄スクラップが年間150万トン程度輸出されていたためで、あくまでも原料が集荷しやすいエリア、原料立地である。名古屋地区からの集荷が想定よりも少なく、内航船で多方面から調達する代替の一部として、名古屋港からの輸出分を取り込むため、集荷ヤードを開設することを決めた。田原で増産対応を進める中、安定して購入できる体制を構築する」

――脱炭素社会実現に向けた動きが加速する中、需要家からの引き合いなどは増えたか。

「自動車をはじめ需要家の問い合わせは増えており、工場見学を含めて、丁寧に対応している。条鋼類ではこれまでの『高炉指定』だけでなく、『電炉指定』が出てくる可能性がある。溶断業者向けの切板でも電炉鋼板を求める動きがみられる。長期環境ビジョンの実現を目指し、23年度以降で生産数量をさらに拡大するためには、田原の設備増強が必要になる。酸洗ラインの再稼動、冷延ライン及びめっきラインの新設や、リローラーやフォーミングメーカーに当社製品を供給するなど他の鉄鋼メーカーとの協業を含めて、幅広い選択肢で検討していきたい」(濱坂浩司)

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