2022年5月27日

跡継ぎ情報交換サイト「家業エイド」(下)/鉄鋼業人材不足解消に/対面での交流も模索

運営事務局の梅田氏 「海外の方には私の名前の『ユウスケ』は発音しにくいそうで、もっぱらYASUと呼んでもらっています」
中小企業の経営者や個人事業主を親族に持つ人が参加できるオンラインコミュニティー「家業エイド」には、現在6000人の参加者がいる。参加者らはサイトのチャット機能で気軽に会話したり、交流会で情報交換したりしている。「相談する」のページを開くと「相続・事業承継」「法律・税金など」といったカテゴリーがあり、相互に悩みを相談したり解決に導いたりできる。「家族・人間関係」のカテゴリがあるのも家業持ち同士ならではだ。多くの参加者は交流を円滑に進めるために氏名、業種、地区などを公表している。もちろん強制ではない。運営事務局は当初、既存のSNSを使うことも検討していた。しかし仕事と個人のSNSを分けたいというニーズや個人情報の公開レベルなどを考慮して、新たなオンラインコミュニティーを立ち上げるに至ったのだという。

以前は登録者の有志でオフラインでの交流会を30回ほど開いていた。新型コロナウイルス禍以降はオンライン交流会の件数が急増。交流会には参加条件を設けないケースが多いが、業種ごと、年代ごと、悩みごとに開催することもある。今後はオフラインとオンラインを併用した交流のあり方を模索しているという。5月には建設業の交流会、製造業の交流会、家業に戻る準備のための相談会などを開催した。

経営者の親族が会社を継がない場合、優秀な社員が後継者となることもあるものの、社の株式を買い取る潤沢な資金が必要で、実現は難しい。そこで選択肢として浮上するのがM&Aだが、創業者や創業者の子は「自分が(自分の親が)大事に育ててきた企業」という思い入れがあるだけに、「できれば買収や統合ではなく子に継がせたいし、それが無理なら長年働いてくれた社員に継いでほしい」と考えてM&Aに慎重になるケースが多いという。

ある総合商社の社員は、「鉄鋼業界の方々は、家族関係や同業他社との横のつながりを他業種よりも重要視する印象がある」と話す。個人と仕事を分けている人もいるし他の業界がドライというわけではないと付け加えつつも、「鉄鋼業界全体がやや保守的なことも関係しているのでは」と分析する。

鉄鋼に関係するあらゆる企業は、日本のものづくり産業を支え続けるという重要な役割を担う。一方で、いわゆる3Kの労働環境が歓迎されず慢性的な人手不足が問題になっていることも事実だ。大手鉄スクラップ業者の家に生まれたある20代の若者は、「祖父が戦後に立ち上げ、おやじが守ってきた会社を、自分が継ぐのは当たり前」と語った。鉄鋼商社での数年の就労経験を経て、本人は今、実家に戻って一社員として働いているが、次期経営者候補の全員が「自分が継ぐのは当たり前」と思っているわけではない。

継ぐ。継がない。どちらにせよ、多くの情報を集めて、自身、家族、社員が納得する選択をするのが重要で、その情報を集める手段の一つとして「家業エイド」を活用することができそうだ。

(松井 健人)