2022年7月8日

日本の特殊鋼 世界に誇る技術の粋/(12)/技術の源泉・現場力を探る/日本製鉄北日本・室蘭地区/高付加価値品の製造強化

 日本製鉄北日本製鉄所室蘭地区(北海道室蘭市、岸本将・執行役員所長)は2022年4月1日付で室蘭製鉄所と東日本製鉄所釜石地区が統合し、発足した。新発足で「棒線事業全体の鉄源活用効率化が目的であり、25年をめどに釜石地区への線材用鋼片(ビレット)の主要拠点を、東日本製鉄所君津地区から室蘭地区に変更する。この鋼片供給体制の変更を踏まえて統合したもので、必要な設備対策を講じ、工程変更に伴う品質確性を実行する」(岸本所長)方針だ。

 特殊鋼棒線の中核ミルである室蘭地区は、鋼材の生産から二次加工(酸洗・ボンデ処理、熱処理)までの一貫体制を構築しており、需要家への製品提案力が高いのが特長。造り込み過程で鋼材の材質をコントロールすることで、自動車部品をはじめ需要家の製造工程でCO2を排出する伸線・熱処理工程などを省略する工程省略鋼を開発・提供することが可能だ。

 グループ会社の松菱金属工業やムロランスズキ、また第一熱処理室蘭などが構内に拠点を設置。工程省略鋼を用い、二次加工や熱処理の専業メーカーと連携を深めることで、国内外でカーボンニュートラル(CN)に向けた動きが加速する中、需要家による製造工程一貫でのCO2排出量削減への貢献と、CN実現に向けて取り組んでいる。

 【高炉を改修、圧延で独自プロセス】

 室蘭地区で製銑設備を保有する北海製鉄の第2高炉を20年度に改修。数学モデルを用いた炉内状況予測システムを導入し、原料投入量や炉内への熱風吹込み量についてAIで最適な操業条件を自動で調整することが可能となり、高炉の操業安定化を図るとともに、高炉作業オペレーターの負荷軽減にもつなげる。

 圧延以降の特長として、棒鋼工場は冷却床に徐冷カバーを取り付けている。圧延後の棒鋼を空冷する際、徐冷カバーで冷却床を覆うことによって、冷却による組織変態時間を調整でき、規格鋼と同じ成分ながら硬さを低減して冷間加工前の焼鈍処理工程を省略できる「マイルドアロイ」の生産を可能にしている。

 線材工場には線材調整冷却設備(EDC)を設けている。圧延後の線材を温水や冷水に漬けたり、衝風を吹き付けることなどで材質を制御する。焼き入れプロセスなど需要家の製造工程の一部を省略できるようになるため、コスト低減やCO2排出量削減に結び付く。

 【釜石地区との連携】

 北日本製鉄所は、25年に室蘭地区から釜石地区への鉄源分譲を行い、「自動車向けを中心とした特殊鋼および豊富な棒線商品の提供基地」と位置付けられ、室蘭・釜石の統合シナジーを追求し、持続的な発展・成長を目指す。

 室蘭・釜石の製造シナジーとして、室蘭地区で製造している軸受鋼やCH鋼などに用いる高品質ビレットを釜石地区に分譲。釜石地区がそのビレットを活用し、得意の細い線径・サイズへの圧延や特殊な制御冷却を施すことで、高付加価値商品の製造が可能になり、今後、需要家の品質認証を取得しながら、室蘭地区からの鉄源分譲に備える。

 その他シナジーとして、製鉄所で使用するエネルギーの調達、ノウハウの共有、また造り込みが得意な地区への一部製造品種の集約・最適化などを通じ、両地区の長所や得意分野を生かしながらシナジー、さらなる高付加価値商品の提供を追求する。

 【CNへの対応】

 室蘭地区はCNの実現に向け、需要家・営業部門・技術開発部門が連携し、従来からの取り組みを発展・拡充させる形で、サプライチェーン一貫でのCO2削減にプロダクト(製品)面で、また一貫製造プロセスでの省CO2の面で貢献。EVをはじめ電動車は重量の大きいバッテリーや燃料電池が搭載され、自動車全体の軽量化を指向する観点から、部品などのさらなる軽量化が求められる。このニーズに資する高強度・高耐久性を有する製品を開発・提供する。(濱坂 浩司)

 ▽沿革・主要設備=1909年、北海道炭礦汽船輪西製鉄場として操業を開始。50年富士製鉄(現日本製鉄)設立で同社の輪西製鉄所となり、51年に室蘭製鉄所へ改称。昭和40年代には高炉4基体制、年間粗鋼生産量400万トン超と生産量としてピークを迎え、条鋼だけでなく鋼板の製造も担う総合製鉄所となっていた。昭和60年代から現在にかけて特殊鋼棒線に特化した製鉄所として、製造ラインの強化や需要家の構内誘致などの取り組みを推進してきた。

 敷地面積は約433万平方メートル、従業員数は直協約6000人(社員約1000人、協力会社約5000人)。高炉1基(北海製鉄第2高炉、炉容積3014立方メートル)、270トン転炉2基、100トン電気炉1基、連続鋳造設備1基、分塊・サイジングミル1ライン、棒鋼工場、線材工場。21年度の粗鋼生産量は約145万トン。生産品種は特殊鋼棒鋼・線材、バーインコイル。
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