2022年12月9日

商社のグローバル展開 海外戦略/JFE商事 小林俊文社長/米建材・鋼管拡充進む/4極体制強化、今期最高益見通し

――持続的成長の鍵を握る海外戦略について、基本方針から。

「米国、ASEAN、中国、その他地域で分類している。JFE商事グループとして、海外現地法人は13カ国24社32拠点、海外の事業会社は14カ国30社30拠点ある。第7次中期経営計画(2021-24年度)では、電磁鋼板、自動車用鋼材、海外建材事業、国内鉄鋼需要の徹底捕捉を重点分野に位置付けており、前中期計画に引続き、グローバル4極(日本、北米、中国、アセアン)における体制強化を目指す」

――海外建材事業について「米国とASEANがターゲットになる」と述べていたが、まず米国で大型投資を実施した。

「建築構造用や内装用の鋼製フレームなどを製造販売するカリフォルニア・エクスパンデットメタル・プロダクツ(CEMCO、セムコ)を買収した。カリフォルニア州北部のピッツバーグ、ロサンゼルス、コロラド州デンバー、テキサス州ダラスに製造拠点を持ち、鋼製フレームでは米国3位のポジションにある。人口増加を背景に需要は堅調に推移すると見られている。セムコの買収は、海外建材需要の捕捉、仕入れ・販売力の強化、米国事業の拡充をまとめて手繰り寄せ、既存の米国事業との連携効果も引き出していく。POSCOとUSスチールの合弁薄板ミル(ピッツバーグ・CA)が操業を停止することから、セムコはJFEスチールとニューコアの合弁薄板ミル、カリフォルニア・スチール・インダストリーズからの仕入れを増やすことになり、JFEグループとしてのビジネス拡大にも寄与する」

――米州の体制について。

「JFE商事アメリカ・ホールディングスが北米事業を統括している。米国には鋼材トレードを行う米国JFE商事、構造用鋼管メーカーのVEST、鋼管問屋のケリー・パイプがある。メキシコにJFE商事スチール・メキシコ(JSM)、JFE商事スチールサービスセンター・バヒオ(JSSB)、カナダにJFE商事・パワー・カナダ(JSC)がある。米国J商はロサンゼルス本店、ヒューストン支店、メキシコシティ支店、南米のブラジルJFE商事はサンパウロ本店とリオデジャネイロ支店の2拠点体制」

――鋼管問屋の営業権を取得した。

「ケリーは市場環境の変動が激しいOCTG分野から撤退し、建設・土木分野に注力している。鋼材市況の上昇、在庫・物流拠点の集約、仕入れソースの拡大など構造改革の成果もあって高収益を維持している。土木分野に関しては、西海岸における中径管の販売を得意としており、他のエリアや大径管のマーケットの対応が課題だった。そこで本年7月、ジョージア州アトランタ郊外に本社を構え、東海岸や南部市場における鋼管杭など大径管の販売に強みを持つ鋼管問屋のマンダル・パイプの営業権を取得した。全米を広くカバーするとともに商品ラインアップを拡充でき、新規の仕入れルートも獲得した」

――北米では電磁鋼板、自動車用鋼材分野の投資も続けている。

「メキシコのJSMは、方向性・無方向性電磁鋼板の加工・物流拠点として機能の拡張を続けている。カナダのJSCは、重電向けの方向性電磁鋼板を得意としており、現在、変圧器用コアの設備増強工事を進めている。加えてEV向けの無方向性電磁鋼板の需要拡大を睨み、電動パワートレインを開発する現地企業に出資し市場開拓を進めている。JSM、JSC双方ともフル稼働の状況が続いている。メキシコのJFEスチールとニューコアの自動車用鋼板合弁事業に対応するJSSBは昨年10月に本格的な稼働を開始したところで、ニューコアの力も借りながら、まずは汎用品を含めた切断・品質管理・デリバリーの一貫体制確立に取り組んでおり、早期の戦力化を目指している」

――中国について。

「中国は上海、北京、広州、香港に現地法人を置き、コイルセンターは東莞川電、浙江川電、江蘇川電による電磁鋼板の物流・加工ネットワークを形成している。広州川電は、JFEスチールと宝鋼グループとの自動車用鋼板合弁事業に対応し、能力増強投資によるサプライチェーンマネジメントの高度化に取り組んでいる」

――ASEANの体制は。

「タイJFE商事はバンコク本店、レムチャバン支店、ヤンゴン支店(ミャンマー)、ベトナムJFE商事はホーチミン本店、ハノイ支店、ハティン支店、インドネシアJFE商事がジャカルタ本店、スラバヤ出張所の体制で、フィリピンJFE商事はマニラ、マレーシアJFE商事がクアラルンプールにそれぞれ本店を置き、シンガポールはJFE商事の支店。コイルセンターは、タイがセントラルメタル(CMT)、スチールアライアンス・サービスセンター(SASC)の2社、ベトナムはJFE商事スチール・ベトナム(JSSV)、JFE商事スチール・ハイフォン(JSHP)の2社、JFE商事スチール・マレーシア(JSSM)、JFE商事スチール・インドネシア(JSSI)、JFE商事スチール・フィリピン(JSSP)、シンガポールのカワリン・エンタープライズを展開し、現地の自動車、電機、建設など薄板需要に対応している。加えてタイには製缶・金属加工を行うニューバンプ―・マニュファクチャリングがある。海上輸送用コンテナのシャシーやタンクの製造拠点として1989年に川崎汽船が設立した会社で、96年から当社の100%子会社となっている」

――インド、台湾、韓国については。

「インドJFE商事がムンバイ本店、グルグラム支店、チェンナイ支店、ビジャナガール出張所、コイルセンターはJFE商事スチール・インディア(JSI)がプネにある。台湾は台北支店、高雄出張所がある。韓国の現地法人はソウルが本店、プサン支店の体制。韓国には半製品を輸出するほか、同国製品の三国間取引を行っている」

――東アジア、ASEANではブリキの製品・半製品トレードが続いている。

「JFEスチールやJFE商事の出資・アライアンス先であるペルスティマは、マレーシア、ベトナムにおいてブリキ、ティンフリーを製造しており、更に今期よりフィリピンの新工場が稼働を開始している。台湾の統一実業のブリキ原板を含めて各拠点の製品販売や輸出を手掛けている」

――新設した環境資源本部は海外が舞台となる。

「環境や脱炭素関連ビジネスの拡大が目的で、金属リサイクル部、化学品部、バイオマス燃料部で構成する。鉄スクラップ、木質ペレットやパーム椰子殻(PKS)などの仕入力と販売力を強化し、事業拡大とともにJFEグループの一員として、2050年のカーボンニュートラルに貢献していく」

――海外展開の全体像を。

「当社グループの連結ベースでの従業員数は約9,200名、海外における事業会社を含めた連結ベースの従業員数は約5,200人、140人が駐在している」

――グループ会社も海外に進出している。

「JFE商事鉄鋼建材はJY・スチール・プロセシング・ベトナムを設立し、鉄筋加工販売事業を行っている。JFE商事鋼管管材は上海支店を持つ。川商フーズが米国、中国、タイ、ベトナム、UAE、ガーナに現地法人、マレーシアに製造・販売拠点を持つ。JFE商事エレクトロニクスは、上海、香港、台北、タイ、ベトナム、マレーシア、シンガポール、インドに営業拠点を展開しており、設備制御・操業管理の汎用システムに映像を融合させて開発した独自技術が製鉄所、加工・物流プロセスの品質・安全管理分野での採用が広がっている。JFE商事グループとして、JFEスチールやJFEエンジニアリングとも連携し、ともに歩みたい」

――4年間で1200億円の投資計画は海外がメーンとなる。

「21年度は、中国での加工設備増強を実施、ベトナムの薄板リローラー、トン・ドン・アの増資を一部引き受けた。本年度は、米国のセムコの買収やケリー・パイプによるマンダル・パイプの営業権取得に加え、グローバル4極の各事業拠点で設備増強などを実施。結果、21-22年度の2年間で約600億円の投融資を行う見込み。10-20年後も見据えた成長戦略の一環として、23年度以降も積極的に投資を検討、実施していく」

――2022年4-9月期は連結セグメント利益が前年同期比1・6倍の406億円となった。

「北米事業を中心に国内外の鉄鋼需要、鋼材市況が想定より好調に推移し、8月時点の見通しの350億円を上回って、半期としての最高益を記録した。上期が約50億円上振れたことから、通期予想を550億円から600億円に上方修正した。前期の559億円を上回り、最高益を更新する見通しだ。ただ、景気、鉄鋼需要、海外の鋼材市況など不安材料は増えており、予断は許さない」

――一過性要因を除いた実力について、前期は実績の559億円に対して350億円程度としていた。

「1ドル110円と想定した為替が140-150円で推移しており、ドル建てのトレードや海外事業の取り込み利益などはプラスに作用し、米国での借り入れは金利上昇も加わってマイナスに働くが、トータルではプラスに効いてくる。前期は国内外の鋼材価格上昇が続いたが、今期は海外市況の軟化が続いている。一方、例えばCEMCOの買収、国内外事業会社への設備投資などの効果の発現を含めた場合には、実力は400億円に近づいていると分析している」(谷藤 真澄)

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