2023年7月13日

総合商社 金属トップに聞く/丸紅・金属本部長 土屋大介氏/収益拡大へ鉄鉱石・銅増強/北米の電池リサイクル事業着々と

丸紅の金属本部は鉄鉱石、銅の資源投資を軸に収益拡大を狙う。生産規模見合いで現状の1・5倍規模も視野に入れる。直接還元鉄(DRI)、グリーンアルミ、リサイクルなど脱炭素関連も具体化するという土屋大介本部長に方針を聞いた。

――2022年度は最高益だった。

「連結純利益で2000億円なので非常に好調だった。金属本部のポートフォリオはバランスが良く、かつ全ユニットで好結果だった。去年はロシア・ウクライナ問題があり混乱の一年だった。その中で燃料をはじめとしてサプライチェーンが大混乱したなかで、当社は生産者としても流通としても供給責任を十分に果たせた。数字以上に重要なことだと思う。去年集大成の年だと言ったロイヒル鉄鉱山とセンチネラ銅鉱山の拡張2案件は少しずつ遅れている。ロイヒル鉄鉱山は元々年産5500万トンの体制が今は巡航速度で6500万トンの生産を行っている。これをさらに強化していく。センチネラ銅鉱山は拡張の意思決定の今最終段階にある。昨年度はインフレにより燃料などが高騰していたが、今年に入り燃料費なども落ち着いてきたので結果として今年でよかった。初期開発費用は37億ドル(約53000億円)程度になる見込みだ。拡張案件ゆえ、新規案件のような不確定要素はほとんどないので最小リスクで拡張できる。拡張後も地下水を使わないで海水を使い、テーリングも濃縮尾鉱なので大きなダムを作ることなく環境にやさしい鉱山のままで拡張する。ロイヒル鉄鉱山を増強してセンチネラ銅鉱山を拡張した結果として、今年ほぼ2000億円だった連結純利益を2500億―3000億円への収益レベルの底上げを狙っている」

――22年度は一過性だけではない。

「全営業部が好調を維持すればそのくらいの収益規模になる。資源事業がフォーカスされがちだが、トレードでも伊藤忠丸紅鉄鋼の業績も絶好調だった。金属一丸となって叩き出した数字だ。昨年はエネルギーの大混乱もあり石炭価格の高騰が収益に大きな影響を与えたが、今年は同じような数字とはいかないだろう」

「直近のトピックスとしては、米サーバ・ソリューションズに出資し、電池リサイクル分野に参入した。使用済みリチウムイオン電池は通常だと破砕・精製してリサイクル原料となるブラックマスを生産し、製錬会社で溶かしてニッケル、コバルトなどを回収する。サーバ社が現在建設している工場は、酸を用いてブラックマスから硫酸ニッケルや硫酸コバルトを直接抽出し、徹底的に不純分を除去して電池グレードで出す。こうすると環境負荷が相当減る。鉱山由来の金属は環境負荷が大きく、自動車会社は再生材料を使った電池、車を造りたい。電池や電池材料は商社が入るには二の足を踏む世界だが、電池、EV産業に何らかの貢献をしたい。我々が機能を発揮できる場所はリサイクル再生分野だ。サーバ社の新工場は2年後めどに商業生産を始める計画。北米で商業化を進めながら日本への展開も検討する。スクラップについて言えば、丸紅テツゲンや丸紅メタルでは鉄・非鉄スクラップの回収、再生ビジネスを何十年もやっている」

――直接還元鉄(DRI)、冷鉄源なども。

「当社として知見のある分野、既存のビジネスの延長上のビジネスに集中する。還元鉄は90年代にベネズエラで神戸製鋼所と合弁事業、コムシグアを展開し、アメリカ向けにHBI(ホット・ブリケット・アイアン)の販売を行っていた。また、金属本部はアジア向け販売も得意としており、POSCOや中国鋼鉄に最初に販売したのも当社だ。日本の需要家のニーズに応えるべく、還元鉄の事業も検討している」

――冷鉄源は。

「鉄スクラップに関しては丸紅テツゲンでビジネス展開をしているが、ここはしっかりと伸ばしていく。丸紅テツゲンの二大看板、スクラップと電磁鋼板用のフェロシリコンを徹底的に伸ばしていく方針で、スクラップ集荷業者との関係をこれまで以上に強化して、スクラップ資源を確保して供給責任を果たす」

「丸紅には16本部あるが、その上に4グループある。金属本部は素材産業グループに属しており、幅広い産業とのインターフェイスを通じて脱炭素やカーボンフットプリント、再生材料の使用強化等、サステナビリティ社会の課題や、消費者のニーズを深掘りし、応えることで貢献していく。需要家の中には金属だけでなくプレスチックも必要とする需要家もいる。鉄、アルミ等という個別の商材ではなく、脱炭素に向けた課題解決なら丸紅に全部任せてくれ、というところまでやりたい。金属のサプライチェーンは、鉱山、製錬や製鉄があり、その後に材料の加工、部品があって、最後に需要家がくる。この需要家、消費者のニーズや課題が当社にとっては重要であり、そのニーズを把握、深掘りして応えていくために丸紅テツゲンや丸紅メタル、丸紅エコマテリアルズなどの事業会社や単体の営業部の産業とのインターフェースが必要になる。サプライチェーンの先にリサイクル、リユースと出てくるが、製鉄の場合はスラグ、電力だと石炭灰等が出てくる。それも再利用してビジネスとして取り扱っている。面でカバーしていかないといけない」

――金属以外の素材も扱う。

「素材産業グループには金属本部のほかに化学品本部、フォレストプロダクト本部が属している。素材産業グループの3本部が顧客のニーズをワンストップで解決するのが理想。まだそこまでできていないが、少なくとも金属本部では伊藤忠丸紅鉄鋼を含めてしっかりコミュニケーションを取って、金属分野でのワンストップ体制を作っていく」

「アルミはカーボンニュートラルアルミあるいは低炭素アルミの提案を進めている。当社が参画しているアルミ製錬所は電力の再エネ比率が高い。カナダのアロエッテアルミ製錬所は100%水力発電を利用しており、豪州の製錬所も再エネ比率を上げていて、現在の再エネ比率35%から2030年には65%程度になる見込み。当社は『ニュートラル』というブランドで、カーボンクレジットと合わせてネットゼロのアルミを提供している。また、去年リオティントと提携し、同社の『リニューアル』というブランドのグリーンアルミを販売している」

――リニューアルで大手輸送機器メーカー向けの後は。

「引き合いは多い。リオティントが我々をパートナーに選んでくれたのは大きい」

――グリーンアルミはプレミアムを付けて売れている。

「さすがに同値ではないが、まだこれからだ。反応は上々だ」

「他にはアジアでの缶のリサイクル事業を検討している。自国でリサイクルを完結できる国とそうでない国がある。丸紅の各国の拠点が連携して、丸紅のループの中でキャン・トゥー・キャンの実現を目指す。日本でもやろうとしているが、大規模に展開できそうなのはアジアだ」

「金属本部の対面業界の需要家が必要とする原料の供給責任は続ける。例えば良質な原料炭を供給する責任もあり、引き続き豪州でやっていく。レイクバーモント炭鉱等は、資源量の維持、増量のために現在の露天掘り操業に加えて坑内掘り操業も検討中。グリーンに必要なコアな原料は引き続き我々は責任もってやっていく。良質な原料炭を使用してもCO2は出てくるので、それに備えてCCS(炭素の回収・貯留)にも取り組んでいる。豪州で実証実験を行っており、北米でもFSを検討中」

――伊藤忠丸紅への期待や連携強化策は。

「去年は非常に良い年だった。全分野で好調だったので瞬間風速で1000億円をほぼ視野に入れた。ただし、この収益レベルを巡航速度にするにはもう一段の底上げが必要だ。流通機能を強化すると同時に、各地域でのプラットフォーム型のビジネスは特に伸び代が世界でまだまだあると考える。昨年イギリスで現地の建材加工・販売会社を買収した。北米で今好調な事業のモデルの英国版だ。地域密着型の独自のモデルも引き続き強化していく。金属本部の対面業界でも例えば自動車産業では鉄もアルミも必要であり、伊藤忠丸紅鉄鋼との連携を強化し、金属本部として鉄、非鉄一体となって需要家への提案をしていく。グリーンの時代になって鉄鋼製品分野における伊藤忠丸紅鉄鋼の存在や機能がますます重要になっている」(谷藤 真澄、正清 俊夫、田島 義史)

スポンサーリンク