2022年8月24日

総合商社 金属トップに聞く/双日/金属・資源・リサイクル本部長 松浦 修氏/リサイクルなどで新事業/供給網に寄与する案件参画

双日の金属・資源・リサイクル本部は循環型社会や脱炭素など新たな社会ニーズに対応した新事業の具体化を急ぐ。高収益が続く上流資源事業の安定経営を維持しつつ、次世代の収益源を育てる。年内にリサイクル分野などでの新事業を実現したいという松浦修本部長に方針を聞いた。

――2021年度の本部は最高益だった。

「本部当期利益は過去最高益の341億円だった。石炭価格、国内外の鋼材、鉄鋼原料価格、非鉄市況が順調だった。当社が40%保有するメタルワンが構造改革を推し進めながらも好業績を収めた。中計で掲げているサーキュラーエコノミー関連事業や社会ニーズにマッチした新規事業の構築は年度内に投資実績として目に見える結果としては表れていないものの、着実に進捗している。できる限り早期に事業参画し、中計最終年の23年度には少しでも成果を出したい。次期中計での本格的な収益貢献を期待している」

――ニッケル事業の売却など一過性要因も。

「コーラルベイ・ニッケル事業は住友金属鉱山と三井物産との協議を通じて円満な形で住友金属鉱山に株式売却を完了した。一般炭権益事業では座礁資産化回避に向けた打ち手を実施、減損処理を行った。一般炭権益を30年までに半減という目標を5年前倒しで『25年に半減、30年にゼロ』再発表したが、21年度末には7割減に達し、十分に達成可能な見通しだ。足下の一般炭価格はロシアのウクライナ侵攻による欧州からの需要が旺盛で高値水準にあるが、当社の脱炭素目標の確実な遂行のためにも撤退を進めていく」

――中国の景気はどう見ているか。

「足元、南部での豪雨による建設需要の停滞に加え、自動車の生産も悪い。鉄鋼メーカーはステンレス含めて減産基調が継続している。アジアでの鋼材需要減退が鋼材市況の軟調を招き、北米でも6月以降下落した。原料炭はじめ鉄鋼原料や非鉄価格も落ちている。中国上海のロックダウン解除以降も回復は足踏み気味だが、中国政府の景気刺激策を契機に鉄鋼生産も順調に回復に向かうのか注視している。また自動車の部品供給も正常化すれば日本の自動車生産量も上がるだろう」

――22年度は最高益を更新する。

「足元市況がこのまま継続すればその通りだが、ロシアのウクライナ侵攻の長期化、各国で進むインフレ・利上げ、半導体不足による自動車減産、それに伴う粗鋼減産など不透明要素が多く楽観視していない。様々なリスクに注意を払いながら、資産入替の継続も含めて、目標達成を強く意識しながら本部経営を行っていく。単純に資産の積み上げを行うのではなく、入れ替え前提で進める」

――資源投資はまだあるのか。

「上流資源分野への投資は常に考えており、石炭でも選択肢から排除していない。一般炭、原料炭権益からの撤退方針を打ち出しているが、時間軸や製鉄の脱炭素化の技術進展も併せて対応を考えていく。銅も排除していないが、銅や鉄鉱石は投資が巨額となり当社の間尺に合わないケースが多い。少数出資では当社のコントロール機能を発揮しづらいことから、大規模な上流権益へのマイノリティ出資は難しいと考えている」

――レアメタル系など得意な分野は

「いくつか検討を進める案件はあるが、本部方針の社会ニーズに対応し、サプライチェーン強化に寄与する案件を優先する。上流資源分野でもサプライチェーンに寄与する案件に参画したい。経済安全保障の観点からも、特定ソースに依存度の高い素材については日本政府と色々相談しながら検討していきたい。パラジウムはサプライヤーが限られているが上流は日本の商社が入れるところではない。ニッケルはコーラルベイを売却したばかりだが必要な分野だ。フェロクロムは偏在していて鉱山の競争力もよく見る必要があるが面白い素材だ。今扱っている素材は全て除外せずに見ているが、社会ニーズが変化する中で、これまで投資の対象としていなかった新しいものも検討してみようと考えている」

――今保有していないベースメタルは。

「ベースメタルや鉄鉱石になるとかなりの競争力が無ければ高値づかみになる可能性がある。鉱産関連の商材はニッチではあるが新規に取り組む機会と意義があると思う。上流と中流が複合する案件が多く、精製や製錬などの加工、焼成、焼結を要するものがこれにあたる」

――中国の電極事業はどうか。

「市況もなかなか回復せず苦労している。中国でも高炉操業が優先され、電力消費の大きな電炉は劣後し、電極棒市場の回復も弱い」

――リサイクル分野で今の収益規模は。

「次期中計に数十億円の収益を見込む。投資実行済みのTES―AMMジャパンとPRT(ペットリファインテクノロジー)の商売は順調に拡大している。前者はITADという中古IT機器や廃電子基板などのIT資産のデータ消去後の有効活用、特にリユース・リサイクルを司る機能を有している。後者はケミカルリサイクル技術によるペットボトルの『ボトル・トゥー・ボトル』リサイクルの商業生産実績がある世界で唯一の企業。商業生産を2万トン規模で推進している。現在主流のマテリアルリサイクルとかメカニカルリサイクルと言われるペットボトルのリサイクルは、使用済みのペットボトルを細断・粉砕して表面の汚れを洗浄し、一度溶解してペットボトルに戻す。表面の落ちない汚れ部分が使用できず、また同じ手法で何回か繰り返すと透明でなくなり、3―4回程度がリサイクルの限界となる。我々のケミカルリサイクルはモノマーレベルで対応しており、理論的には永久にペットボトルに戻せる。どちらが本流かと言われて数年が経ったが、今ではどちらも必要と言われており、当社もメカニカルリサイクルとの提携が必要だと考えている」

――東芝とのニオブの電池材開発は。

「バッテリー開発は進捗している。商業生産を前にパイロットプラントでの生産に着手し、製造セルの実証実験に計画通り8月に着手済みだ。CBMMがニオブを生産し、それを東芝が長寿命で高速充電が可能な負極材として使用する電池の製造を担っているが、当社は全体のコーディネートとCBMMの総代理店としてニオブの拡販も担う。しっかり3社で協議しながら推進している」

――社会的ニーズで事業化できるところは。

「色々あるが、まずは半導体分野で双日が強いのはフッ素チェーンだ。日本は原料でも製品でもほぼ海外からの輸入に依存しており、その一部を内製化したい。同じく特定ソースに大きく依存する商材はいくつもある。耐火物でもマグネシアやアルミナはほぼ特定ソースに依存している。鉄鉱石や銅精鉱、ニオブのようにプライマリーありきのサプライチェーンではない。耐火物やチタン等の原料は色々な鉱物資源に含有され複数存在する。チタン原料を例にとれば、イルメナイトの価格が上昇し過ぎるとルチルに需要が流れたりする。社会ニーズとサプライチェーン全体を俯瞰し、どの商材のどの部分を押さえるかが鍵で、その中でも顧客とタイアップすることが肝要だ」

――メタルワンとの協業は。

「メタルワンが推進中の構造改革ではデジタル化の効率改善取り組みもあれば、機能強化の取り組みもあり、株主として応援していきたい。当社が取り組んでいる案件やマンション建設等のプロジェクトでの鉄鋼需要や解体スクラップなどをエムエム建材に紹介したりするなど都度話をしている。出向者派遣を続けて20年、かなりの人数が往来しており、出向経験者は本部にも数多く、様々なレベルで良好なコミュニケーションを維持できている」

――電池とか廃電子基板類(Eスクラップ)のリサイクルは。

「電池のリサイクルは是非取り組みたい領域。パートナーと集荷回収からチェーンをしっかりと構築したい。シンガポールでバッテリーリサイクルに取り組むTES―AMMとの連携の可能性も追及する。ITADとEスクラップは切っても切れない。ワンストップで対応可能なサービス機能は不可欠なので、データ処理とEスクラップは事業として同じ領域になる」

――ITADは輸入でも取り組むか。

「まだ輸入は取り組んでいない。出資するTES―AMMジャパンが国内で集荷している。まずデータを処理し、まだ使用可能なものはリユースに回し、不可ならばシュレッディングしてリサイクルの製錬会社に回す」

――日本積層造形(JAMPT)はどうか

「ようやく自動車業界や半導体関連などで部品量産や金属3Dプリンターでのみ対応可能な複雑形状品量産の話が出始めている。今まで世界の部材製造産業を鋳物が担ってきた。自動車メーカーをはじめとして様々な産業が鋳物を前提に部品を企画、設計、製造してきた。ただ、今や軽量化や高度な放熱性能を達成するための設計が求められ、中には鋳物では構造上製造できないものも出始めていると感じる」

――金属3Dの素材は、アルミなどか。

「アルミ、ステンレス、銅、チタンなど。特にJAMPTに強みがあるのが銅造形、銅は優れた熱伝導率を持つ一方で熱拡散が生じ易く、設計通りの造形が非常に難しい素材だ。それでもヒートシンクとしての放熱部品の表面積を増やすべく、鋳物でできない複雑な網目状の細いパイプ内に水を流せるようにするなど、高度な技術での造形が求められている。世界的にも、電子ビーム方式の金属3Dプリンターで純銅の複雑な造形を請け負っている業者はごくわずかで、日本でもJAMPTのプロセスコントロールはナンバー1と自負する」

――航空宇宙や医療分野で一点物や試作がメインだったが量産部品に使われ出す。

「航空宇宙・防衛や医療などの分野に加えて、自動車や半導体分野などでも金属3Dニーズがようやく高まっており、2つの方向から話が来ている。まず自動車分野では新規部品の設計段階で形状の複雑化が要求され、そのまま造形製造されるニーズ、もう一つは過去製造された部品の補修用ニーズ。金型メーカーは過去の部品の金型を何万点と保有し続けることが負担になっているという。補修頻度の少ない部品は金型で再製造するよりも金属3Dプリンターで製造する方が効率的になる」

――水素や直接還元など製鉄の脱炭素化に貢献する案件は。

「環境省の委託事業として、豪州CSエナジーから水素供給を受け、パラオで燃料電池を用いて発電する実証実験に取り組み中。また九州大学と一緒にDAC(ダイレクト・エア・キャプチャー)という大気中からCO2を直接回収し、それをFT合成と言われる水素と反応させてエタノールなどの化学物質を作る技術の実用化にも取り組んでいる。CCSやCCUの可能性も研究しているが、コストに見合ったニーズがないと社会実装は難しいと感じている」

――直接還元鉄は。

「いい話なら取り組みたい。今後の電炉化進展に沿うものだが、原料と再生可能エネルギーの2つが揃って確保されないと競争力のある事業にはなり難いと考えている」(正清 俊夫、田島 義史)

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