2023年7月31日

神戸製鋼所の中期経営計画を聞く 山口貢社長 改革継続、安定基盤なお強く グリーン製品・機械系の成長期待

――中期経営計画(2021―23年度)の取り組みが進展し、収益力が増している。

「22年度は連結経常利益1068億円と14年度以来、8年ぶりに1000億円を超えた。鋼材のメタルスプレッドの改善が最も大きな要素だが、他にも神戸発電所の3号機がフルに稼働し、機械事業は受注が好調で増益となった。23年度は素材系中心に数量面について大幅に増えるとは想定していない。自動車生産は国内中心に徐々に回復し、今年の後半にかけて動向を注視していくが、海外生産は中国や東南アジアなどが振るわない。半導体関連は前半鈍く、後半に回復するとみている。23年度は22年度の鋼材のメタルスプレッドの改善効果が通年で効いてくる。また、神戸発電所の4号機が今年2月に稼働を始め、これも23年度通年で効く見込みだ。機械は受注が引き続き堅調だ。22年度にエネルギーや副原料のコストアップが転嫁できなかったアルミの価格改善の積み残しをいかに獲得していくかが重要な課題であり、建機も同様に販価を改善していく。原料価格や為替は前年並みを想定し、連結経常利益1300億円を計画している」

――23年度の粗鋼生産は前年並みの620万トンとさほど増えない予想だが。

「国内自動車メーカーの海外での苦戦や半導体不足など状況はよいわけではない。下工程(厚板ライン)の設備更新があり、販売数量は22年度並みを見込む。主原料価格はフォーミュラで販価に反映していくが、工場の保全費などその他のコストは上がっており、マージンの改善は引き続き重要だ。コスト削減の努力を当然継続するが、追いつかない部分については価格への転嫁をお客様に対してお願いしていく。アルミのパネルやサスペンション、押出し品は自動車の減産とロシア・ウクライナ問題を契機としたエネルギー・副原料価格の高騰を吸収するためにロールマージンの改善を進め、今年度下期に黒字化を図りたいと考えている。価格やコスト、生産性など収益構造の改善を仕上げていきたい」

――海外の事業拠点の現状と強化策は。

「北米はプロテックが新CGLを建設した。23年度は一時的な北米鋼材市況の反落影響を受けるが、一過性の要素が大きいとみている。苦戦していたアルミの製造拠点は人手の確保など課題の解消が進み、軌道に乗せていく。中国は自動車向けの冷延ハイテン工場について合弁相手と連携しながら市場を開拓する。天津のアルミパネル拠点はEV向けが増え、徐々に伸びていくだろう。タイの特殊鋼線材製造のコベルコ・ミルコン・スチールは自動車生産が伸び悩む中で健闘している。インドは機械と建機、溶接の拠点があるが、市場の成長速度はかつての中国に比べて遅い。今後の動向を注視していく」

――ROIC(投下資本利益率)は23年度に中期計画目標の5%を上回る6%を見込んでいる。

「一過性ではなく、継続することが大事であり、安心はできない。5%を安定化させ、次は8%以上を目指す。ハードルは高いが、既存ビジネスの収益力を高め、新規分野を広げて収益を上げる。機械についてはエネルギー転換によって既存の化石燃料向けが減り、アンモニアや水素の分野で新規の受注を増やしていく計画である。一方、足元はLNG中心に既存の分野が堅調であり、23年度の売上高は22年度に続いて2000億円を超える見込みである。30年度には事業規模3000億円への拡大を目指しており、今中期計画から引き続き、次の中期計画で事業基盤を確かなものにしていく」

――23年度は中期経営計画の最終年、仕上げの年となる。

「重要テーマとして2つ掲げたうちの『安定収益基盤の確立』は鋼材のメタルスプレッドの改善などでおおむね順調と言える。『カーボンニュートラル(CN)への挑戦』は時間を要するものだが、昨年に低CO2高炉鋼材のコベナブル・スチールを上市し、直接還元鉄の事業はミドレックスの受注が堅調で、オマーンでは低炭素鉄源の製造・販売の事業化検討を始めるなど着実に進めている。素材系中心にボラティリティをいかに抑え、財務体質をどう改善し、CNに向けて当社が排出するCO2をいかに減らすか、それらの懸念を払拭していくことが次の中期計画で必要であり、社内で議論している。高炉を加古川製鉄所に集約するなど改革を進めてきたが、今が到達点ではない。安定基盤を盤石にするために取り組むべき課題は多い」

――24年度開始の新中期計画で機械系事業を成長の大きな柱に据える考えだ。

「機械事業は人手不足やエネルギー転換といった社会課題の解決に適したアイテムを有しており、マーケットが将来的に伸びていく。エンジニアリング事業も直接還元鉄製造のミドレックス中心に脱炭素向けにニーズが増える。水処理と廃棄物処理が主な事業の神鋼環境ソリューションは下水汚泥の燃料化、消化ガス発電の案件が増えている。建機事業は中国・杭州の工場を閉じて成都に集約し合理化効果を得たが中国市場が縮小しており、今後はインドなどの市場を開拓していく。コトビジネスとしては、重機の遠隔操作システムと稼働データを用いた現場改善ソリューションであるK―DIVEが22年度に国内でサービスインしたが、将来的な海外展開も視野に入れている」

「高砂製作所でハイブリッド型水素ガス供給システムの実証試験を始めた。液化水素気化プロセスと再生可能エネルギーを活用した水電解式水素発生装置で最適な運転システムを構築する。水素の供給は『つくる・はこぶ・ためる・つかう』といろいろなステージがあり、他社とコンソーシアムを組むなどトータルで対応する必要がある。様々な事業所の工業炉の燃料が水素に置き換わった場合などを想定し、一つのパッケージとしてソリューションを提供する。当社の圧縮機や熱交換器、気化器はいわゆる『機能』を提供しており、ガスから水素に媒体が変わっても既存の技術を応用でき、エネルギー転換による市場の変化にも対応できることが強みだ」

――電力のテーマは。

「電力は神戸で1―4号機がフル稼働し、安定して400億円の利益が見込め、脱炭素に向けてバイオマス混焼やアンモニア混焼・専焼にも取り組む」

――素材系のポイントは。

「自動車用のハイテン鋼や特殊鋼など付加価値の高い製品の比率を引き上げて限界利益を上げることや、海外事業の収益を上げ、ROICの向上を図る。主原料価格が上がり運転資本が増えているので投下資本をどう減らすかは課題だ。今年度に先ずは黒字化を目指すアルミは収益をどう上積みしていくかの検討も必要だ」

――鉄鋼事業をどう成長させていく。

「内需が減少していく見通しから、成長には得意分野、競争力のある分野で事業を強くする必要がある。アルミも同様だ。世の中が変化する中で新しい製品・技術を獲得し、提供していく。素材系と機械、電力で各400億円の利益を確保できる体制ができつつあり、これを維持していくことが重要だ。そのための対策については、CN対応と並行して取り組んでいかなければならない」

――コベナブル・スチールの採用が増えている。

「グリーン鋼材に対するお客様の関心は高い。今は少量の採用だが、これから大量に使用される際にどう対応し、上昇するコストにどう対処するかがポイントになる。高炉各社がグリーン鋼材を販売し、市場が形成されていく過程でお客様との連携が重要になる。アルミは地金のグリーン化と製品のリサイクルがカギだが鉄鋼と違い、従来の製法の中で考えられるので対応しやすい。」

――トヨタ自動車がアルミ鋳造の一体成形「ギガキャスト」をEV製造に採用するが自社への影響は。

「自動車の部品がどうなっていくのか、当社にとってプラスかマイナスなのかなど精査しているところだ。車の造り方が変わる中でいかに対応していくか。EV化の中で増える製品はあるがトータルとしては減るとみている。軽量化のニーズが高まるので鉄鋼とアルミ、機械など技術やビジネス資産を広く持つ強みをどう発揮するか、特長をいかに生かし武器としていくかを考えていく」

――オマーンで低炭素鉄源の事業化調査を進めている。

「欧米やアジアで高炉から電炉への切り替えの動きが広がり、ピュアな鉄源の需要が増えていく。三井物産と共同で年産能力500万トンの低炭素鉄源の製造販売の事業化を検討しており、これは加古川製鉄所での使用や他の鉄鋼メーカーへの販売を想定している。オマーンは天然ガスを産出し、水素の供給システム構築も国を挙げて計画している。条件は良く、27年建設をめどとしているが、鉄鉱石価格の変動のヘッジや直接還元鉄の安定的な引き取り先など慎重に検討する」

――CN対策として高炉から電炉に切り替える可能性は。

「高炉へのHBI装入などで30年のCO2排出30―40%削減の目標は達成できると考えているが、高炉を使う限り今の延長線上でのCN実現は難しい。電炉に切り替える選択肢はあるが、高炉と同等の生産性や高級鋼の製造が可能なのか、電力料金やグリーン電力の調達など課題は多く、引き続き複線的に検討を進めていく」(植木 美知也)

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