――2024年3月期決算をどのように評価しているか。
「24年3月期決算は前期比で売上高が増収と2期連続で過去最高となり、営業利益と経常利益は増益となった。鋼材販売数量は3・7%のプラス。条鋼類は建設現場における工期遅れなどで伸び悩んだものの、鋼板類は資源循環やカーボンニュートラル(CN)の動きを受けて電炉鋼板への期待が高まり、順調に増えた。田原工場のホットコイル生産も堅調に推移した。製品別の内訳は鋼板類の比率が上昇し、6割を占めた。鋼板類は輸入材価格を意識して販売価格を改定した結果、通期で前期比トン3000円超を引き下げるに至った。また各種コストが高止まりする環境下で、電力使用原単位の低減などが奏功した」
――25年3月期業績は前期比増収ながら、減益を予想している。
「販売数量は上期が170万トン、下期は175万トンの合計345万トンを見込む。24年9月をめどに田原の酸洗ラインを再稼動する計画で、下期の数量増に寄与する。需要環境は国内が総じて緩やかな回復局面を想定しており、条鋼類は物流倉庫やデータセンター、工場などで先行きの需要は見えているが、人手不足の影響で足元は工事の進行遅れを懸念している。鋼板類は自動車をはじめ底堅い。電炉鋼材に対するニーズの高まりをしっかり捕捉していきたい。日本国内で資源循環を推進するためにも、輸入材については当社製品への置換を進めたい。輸送コストを踏まえた場合、海外高炉メーカーよりも当社のコスト優位性は高く、電炉鋼材のメリットも大きいが、この状況から先に何ができるかがテーマ。販売価格はタイミングが来れば引き上げていきたいが、鋼板類の輸出数量が増えている中国の動向、国際マーケットの状況を注視する」
――各種コストが高止まりしている。
「今期の電力料金は前期に比べて下がるものの、協力会社を含めた人件費、労務関連コストが上昇する見通しだ。物流費の改定は昨年秋の陸上運賃体系の見直しに加えて、24年4月から海上運賃を5%引き上げており、トータルでみれば当社コストは引き続き高水準で推移するだろう」
――設備投資は。
「輸入材からの置換を進めるためには、製造や物流などを含めたトータルコストを引き下げなければならない。構内物流の自動化、電気炉の排ガス有効活用を検討していきたい。CNや資源循環関連の研究開発費や設備投資は競争力に直結するものの、コストダウンと二兎追う形で投資を考える。今期は田原の酸洗再稼動、構内クレーン自動化、田原への太陽光パネル増設などで合計230億円と高水準を計画している」
――鋼板下工程強化策についてはどうか。
「田原で冷延以降のライン新設を計画していたが、ここにきて製鉄機械や建屋新築に係るコストが増大しており、投資回収を考慮した結果、田原における冷延・めっきライン新設プランを一旦凍結することを決めた。ただ、需要家の電炉鋼板に対するニーズが強いことから、生産余力がある岡山の連続溶融亜鉛めっきラインを改造し、冷延コイルを生産する。既存建屋を活用できるほか、稼働している製造ラインを改造することで設備投資額を抑えることができる」
――千代田鋼鉄工業(本社=東京都足立区、坂田基歩社長)との協働によって、電炉鋼材を母材に使ったカラー鋼板を開発した。
「千代田鋼鉄工業に電炉鋼材を採用したカラー鋼板の供給依頼があり、検討を開始。岡山で製造した溶融亜鉛めっきコイルを母材に、千代田鋼鉄市川工場で塗装した『CO2低減カラー鋼板』を開発し、断熱パネルメーカーへの供給をスタートした。電炉メーカー同士のコラボレーションで、世の中に無いものを作ることに成功したのは大きな意義がある。今後もこのような取り組みを拡げていきたい」
――サーキュラーエコノミー関連で、他社との協働が進んでいる。
「竹中工務店と共英製鋼、岸和田製鋼、巖本金属との協働によって、電炉鋼材を活用した鉄スクラップのリサイクルの全体最適化に取り組む。この協働はスケールが大きく、企業の連合体は社会を動かす力になる。協議している案件も多く、資源循環社会の実現に貢献するためにも引き続き話し合いを進める」
――鉄スクラップ施策についてはどうか。
「名古屋サテライトヤード(SY)が定着し、24年6月から関西SYの運用が始まる。鉄スクラップの輸出は減ってきているが、日本で発生する貴重な資源が海外に流出している。輸出を水際で食い止め、国内で資源循環を図るためにもSYの存在は重要。スクラップ輸出を防いで資源循環を進め、鋼材は標準品をベースに輸入品に対抗するスタイルになる。関西に続くSYは検討しているが、具体化していない」
――角形鋼管「トウテツコラムTSC295」、厚板の状況を。
「電炉鋼材に対するニーズの高まりを受けて、トウテツコラムは設計段階から取り込む動きが目立つ。在庫する鋼材流通も増えた。対応力が上がるとともに認知度が高まり、ありがたい。厚板はレーザー切断性に優れている特長が認められて建設業、製造業ともに扱い数量が伸びている」
――電気炉でアップサイクルしたグリーンEV鋼板を、25年までに自動車向けで量産・供給する目標を掲げる。
「4月1日付でグリーンEV鋼板事業準備室を推進室に名称を変更した。自動車鋼板の知見が積み上がっている。ベンチャーEVメーカーのFOMMと共同で、当社製電炉鋼材を72%使ったコンセプトカーを完成させた。自動車メーカーなどと当社製鋼板の採用に向けて検討を進めている。スタッフも増やしており、田原、岡山両工場の力を結集し、全社横断的に進めている」
――4月1日付で田原と岡山、九州の工場長を交代させた狙いを。
「前期はメタルスプレッドが縮小する中、各工場の操業成績が良く、力を発揮してくれている。一方で現状を追認するだけでは変化への対応力が高まることなく、さらに発展するにはあえて交代する人事が必要だと感じた。1カ月が経過したが、各工場長の個性が現場に伝わり始め、良い面が引き出されている」
――東国製鋼とのアライアンスの進捗は。
「技術交流を続けている。海外需要家から電炉鋼材をベースにした高付加価値化を求める声が高まっている。鋼板類の下工程を得意とする東国とタイアップして、ニーズに対応していきたい」(濱坂浩司)