2023年10月24日

鉄鋼新経営/新たな成長に向けて/東京製鉄社長/奈良暢明氏/鋼板類拡大、諸施策で先手/採算重視の販売、増産体制は整備

――2023年4―9月期決算をどのように評価しているか。

「4―9月期決算は前年同期比で売上高が増収で過去最高となり、営業利益と経常利益は増益となった。国内建築工事が遅延するなどで荷動きが停滞し、7―9月期の鋼材出荷数量は想定していた水準を下回ったものの、回復する可能性が高い先行きのマーケット環境などを考慮し、販売価格の維持に努めた結果、営業利益は計画比で15億円上振れした」

「4―9月期は引き続き新規需要家の開拓に注力し、2022年度以降、鋼板類の新規需要家は年間ベースで数十件・数万トンの単位で増えている。円安下で輸入材からの置換が進むとともに、鉄スクラップコンバージョン(循環取引)関連も数件ある。長期環境ビジョン『Tokyo Steel EcoVision2050(エコビジョン)』の資源循環に向けた取り組みが需要家を増やすことに繋がっている」

――生産見通しを。

「上期の鋼材出荷数量165万トンに対して、厚板を含めた鋼板類が58%の96万トン、条鋼類は42%の69万トン。下期は169万トンを計画しているが、鋼板類と条鋼類の比率は上期とほぼ同水準を見込む。当初計画に対し、上期はやや未達。下期は徐々に戻すだろう。鋼板類の比率が高いのは評価できる傾向で、国内需要家向けが増えるとともに、海外市場は主体のアジアだけでなく、欧州などから問い合わせが増えている」

――鋼板類のマーケット環境と、岡山工場熱延工場の稼働状況は。

「採算重視の販売姿勢を堅持した結果、7―9月期の数量は国内向け出荷、輸出ともに4―6月期を下回った。岡山工場の熱延工場は22年12月の再稼動後、これまで順調に推移しており、酸洗用、めっき用の次工程向けを主体にホットコイルを生産している。市場環境の悪化で当初計画していた生産量には届いていないが、需要が回復した時には増産できる体制を整えている」

――条鋼類はどうか。

「足元の出荷数量は伸び悩んでいるものの、先行きの需要は堅調に推移するだろう。当社製品の中で『トウテツコラムTSC295』は市場認知度が徐々に上がってきており、競争力は高く、販売に注力したい。異形棒鋼は電炉メーカーを代表する品種であり、その需要をしっかりと注視していく」

――電気料金などエネルギー価格が高止まりしている。

「電気料金が高止まりするなどエネルギーコストが増えており、エネルギー使用原単位の引き下げや生産歩留まり向上に取り組んでいる。下期は燃料調整費の変動影響などで電気料金が下落し、生産数量が増えることで固定費低減効果も期待できるため、一見、トータルコストは下がるように見える。ただ今後、地政学的リスクによってエネルギーのベース価格が上昇する可能性は高く、24年は1―3月から来期前半にかけてこの影響を受けるとみており、楽観視できない。また物流の2024年問題もあり、物流コストは下がる余地がなく、引き続きコスト低減に取り組む必要がある」

――物流網の拡充、物流量の確保にも取り組んでいる。

「鋼板類の数量を拡大する方針の下、脱炭素及び資源循環を背景に新規需要家が増える中、納期管理を改善し、カスタマーサービスを強化する必要がある。また物流の2024年問題への対応も急がなければならず、先手を打つ。21年時点で24カ所となっていた国内中継地を北海道から九州までの38カ所に拡大した。また物流量確保の一環として、11月1日から陸上運賃体系を見直す。トラック運送業者に支払う全ての工場及び中継地を起点とする製品輸送に係る陸上運賃を『標準的な運賃』を参考に引き上げるとともに、往復の高速道路料金を負担する。今回の引き上げに伴う物流コスト上昇はトン当たり1000円程度で、年間ベースでは30億円を超える。エネルギー価格や物流費などのコスト上昇分はタイミングを見ながら、製品販価に転嫁しなければならず、需要家の理解を得ていきたい」

――設備投資計画を。

「今期の設備投資額は114億円を計画しており、将来的な省エネルギーや少人化などの実現を目指していく。田原工場の能力拡大投資は24年9月に酸洗工場を再稼動させるとともに、26年以降での冷延以降のプロセスも検討している。需要家ニーズ、技術先進性、採算性を両立させる仕様を考えていきたい」

――再生可能エネルギーの活用、省エネルギーの取り組みを。

「再生可能エネルギーの活用を推進して比率を高めるため、田原工場は太陽光発電設備を3期に分けて導入する。稼働時期は8月から第2期分が始まり、第3期分は24年8月からスタートする計画で、年間発電量は第2期分と第3期分の増設によって第1期分の約2・3倍になる。各電力会社とデマンドレスポンス契約を締結しており、柔軟に操業できる電気炉の特性を生かして、再エネ導入拡大に資する体制を全工場で構築する。このほか、操業改善や省電力・省エネ設備導入によって、電力使用原単位を引き下げる取り組みを続けており、この効果発揮が加速してきている」

――東国製鋼とのアライアンスはどうか。

「東国との提携は技術交流を主体に進展している。海外需要家から電炉鋼材をベースにした高付加価値化を求める声が高まっており、東国とタイアップして対応していきたい」

――鉄スクラップについての施策を。

「ヘビースクラップのアップサイクル(鉄スクラップの高度利用による高付加価値製品への再生)はイノベーションであり、この流れを推し進めていきたい。エコビジョンに基づいて鉄スクラップ購入量を増やす一環として、名古屋サテライトヤードを開設し、宇都宮工場でストック能力を拡充してきたが、さらなる集荷促進策を検討している。国内の直納店に対し、『不適正ヤードにかかる注意喚起』と題する文書を送付し、法令に反した不適正な保管・操業を行う不適正ヤードが代納店として機能しないよう直納店に要請した。不適正ヤードを定義している日本鉄リサイクル工業会と歩調を合わせ、協力していく」

――カーボンニュートラルに向けた流れが加速している。

「連携や協働に向けて話し合っている需要家は製造業、建設業ともに増えており、ありがたい。しっかり対応することで、ニーズを捕捉していきたいと考えている」(濱坂浩司)

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