2024年7月4日

三菱製鋼室蘭特殊鋼 創業30周年/柴田淳也社長に聞く/太丸強み、日鉄と連携深化/分塊圧延機の全自動化目指す

三菱製鋼が日本製鉄と共同で出資する特殊鋼鋼材製造子会社、三菱製鋼室蘭特殊鋼(MSR、本社=東京都中央区)は2024年4月で創業30周年を迎えた。きょう室蘭市内で記念祝賀会を開催する。室蘭製作所(北海道室蘭市)は太丸サイズを得意とし、直径170㍉以上の太丸は国内トップシェアを誇り、建設機械や産業機械、自動車などの需要家に高品質製品を提供し、国内外の産業を支えている。柴田淳也社長(三菱製鋼上席執行役員鋼材事業部長)に節目を迎えた想い、方針などを聞いた。

――創業30周年を迎えた想いから。

「89年に三菱製鋼東京製作所の特殊鋼鋼材事業部門を新日本製鉄室蘭製鉄所(現日本製鉄北日本製鉄所室蘭地区)内に移転することを決定し、室蘭製作所の建設を進め、MSRの営業運転を開始した94年から数えて、本年で創業30周年を迎えた。私自身、入社してすぐに創業開始直後のMSRに配属され、長年にわたって一緒に歩んできたこともあり、節目を迎えて感慨深い。この30年間、順風満帆な道のりではなく、厳しい事業環境下で度重なる苦難を乗り越え、今日まで着実に成長を続けることができたのは当社の製品を信頼して使い続けている顧客、特殊鋼の製造技術に磨きをかけてきた先人達をはじめ、努力し献身的に支えてくれた社員のお陰である。また日本製鉄をはじめ当社事業に携わっている企業、室蘭市などの支援の賜物。感謝の気持ちを忘れることなく、これからも飛躍するために歩みを進めていきたい」

――30年間で節目となった出来事は。

「創業からの10年が苦しく、02年に電気炉を休止し、当時の新日本製鉄から溶鋼の供給を受け、MSRが二次精錬以降を手掛ける現行体制に切り替えたのが大きな節目。工場移転に伴う大規模投資の償却負担が圧し掛かり、バブル崩壊後の景気悪化で特殊鋼鋼材需要が長期低迷して価格も下落した。事業の存続自体が危ぶまれる危機的状況に陥ったものの、新日本製鉄の協力を得ながら大規模な生産構造改革、合理化に踏み切ったことで乗り切ることができた」

――室蘭コンビナートを構成する日本製鉄・室蘭との連携については。

「溶鋼の供給を受けている北海製鉄や発電設備を保有する室蘭共同発電には、三菱製鋼も一部出資している。電力や蒸気などのユーティリティー供給、出荷ヤードなどインフラ設備の共同利用、半製品や特殊鋼鋼材の相互受委託生産で互いの設備を有効活用するなど、企業の枠を超えるような連携を行っている。カーボンニュートラル(CN)、労働人口減少など困難な経営課題を抱える中、今後も事業を継続・発展させるためには日本製鉄との連携は欠かすことができず、さらなる深化を図りたい」

――MSRが手掛ける特殊鋼鋼材の特長は。

「鋼種は炭素鋼や合金鋼、ばね鋼や非調質鋼など。一貫メーカーである三菱製鋼がMSRのばね鋼を加工し、ばねを販売している。サイズは日本製鉄が直径5・5㍉の線材から120㍉までの棒鋼を、MSRは同60―350㍉までの棒鋼をそれぞれ圧延する。室蘭コンビナート全体としてサイズレンジは広く、中でも太丸の競争力が高い。この立地優位性を生かし、日本製鉄との受委託生産による品質最適化や、製造品目の多様化を実現している」

――生産状況を。

「国内外マーケットの低迷を背景に、主力の建設機械分野、産業機械・工作機械分野で顧客が生産調整を進めており、厳しい受注環境が続くとみている。24年度における三菱製鋼の鋼材販売数量は月間ベースで上期が2万8000トン、下期は3万トンを計画し、年度トータルでは前年度を下回る見通し。MSRの生産数量はこれに受託分が入るものの、厳しい状況に変わりはない。ただ、ここにきて一部分野で持ち直す兆しが出ており、下期に向けて市場が回復するのか、動向を注視したい。国内の需要低迷が著しく、海外への拡販に取り組んでいるところだ」

――三菱製鋼の「2023中期経営計画」で掲げる目標を達成するため、MSRの果たす役割は大きい。

「現中計で掲げる『稼ぐ力の強化』の製造コスト削減と製品力の強化、『戦略事業の育成』の洋上風力やEV(電気自動車)向け高清浄度軸受鋼の開発などで役割を果たす。三菱製鋼は収益安定化に向けたポートフォリオ改革を推進しており、販売分野の拡大に取り組んでいる。これを実現するには高品質で特長のある製品を提供する必要があり、MSRとしては高付加価値製品、洋上風力やEVなど今後需要が拡大する見通しの成長分野で使用する鋼種のレパートリーを増やし、拡販に繋げる」

――DX化への取り組み、CNへの対応はどうか。

「室蘭製作所の生産性と競争力を高めるためにDX化を推進する。分塊圧延機はオペレーターのワンマン化を実現しており、26年度以降での全自動化を目指す。品質検査ラインではロボット活用による鋼材端部手入れの自動化を進め、次期中計内での実現に向けて試験研究を続けている。CNは30年度の全社CO2排出量目標を見直し、13年度比の総量で30%削減を目標に拡大した。特に鋼材部門での削減目標を引き上げている。MSRでは連続鋳造されたブルームを切断する燃焼ガスとして用いるLPG(液化石油ガス)を水素ガスに転換するなど、自社で着手できる取り組みに加え、室蘭コンビナートにおけるCO2削減も協議していく」

――福利厚生の充実にも取り組んでいる。

「現中計では全社で『人材への投資』を掲げ、人的資本経営を推進している。MSRも福利厚生の充実を図っており、23年度は製鋼工場の控室を更新するとともに、室蘭市内に独身寮を新設した。24年度は精整工場と圧延工場の控室も更新する。引き続き従業員のエンゲージメント向上や、人材確保に向けた取り組みを強化する」

――三菱製鋼、インドネシア特殊鋼子会社・ジャティムとの連携は。

「労務費や購入資材、輸送費などコストが上昇しており、これを特殊鋼鋼材の販売価格に反映せざるを得ない状況で、三菱製鋼営業本部と連携を取り、顧客に理解を求めていきたい。ジャティムとは人材交流を活発化させる。外国人の育成就労制度スタートを視野に入れ、インドネシアからMSRのスタッフを採用することも検討する。技術レベルが上がっているジャティムのスタッフをMSRに派遣することで、互いを理解し合い、言語などの壁を取り除けるよう受け入れ体制を構築したい」

――次の10年に向けての抱負を。

「人口減少・少子高齢化によって、これから日本国内の特殊鋼需要は縮小することが予想される。この中でMSRが事業を継続・発展するためには品質やコストの競争力をはじめ、新規需要やCNなどの社会課題に対応する必要がある。課題山積だが、30年間を乗り越えてきた経験を糧にチャレンジし、社会に一層貢献できる製品開発、技術革新に取り組み、顧客や地域住民に愛される企業であり続けたい」(濱坂浩司)

三菱製鋼室蘭特殊鋼
株主構成:三菱製鋼(70%)、日本製鉄(30%)
従業員:308人(2024年6月末現在)

【沿 革】
1992年 三菱製鋼と新日本製鉄(現日本製鉄)の出資により設立。室蘭製作所の建設に着工
1994年 三菱製鋼東京製作所の鋼材事業を三菱製鋼室蘭特殊鋼に移管
2002年 直流電気炉を休止し、新日本製鉄の転炉からの溶鋼輸送調達に切り替える
2005年 新日本製鉄に直流電気炉を売却
2017年 新日鉄住金(現日本製鉄)の出資比率を変更

【室蘭製作所の主要設備】
製鋼設備=取鍋精錬設備2基、環流式脱ガス設備1基、連続鋳造設備1基(370×515 2ストランド)
圧延設備=2500トンインラインプレス、リバース式分塊圧延機、全自動中間圧延機、仕上圧延機(6スタンド全自動連続無張力V―H圧延方式)
精整設備=太丸検査ライン、中丸検査ライン、細丸検査ライン、鋼片検査ライン

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