2025年7月2日
商社の経営戦略/10年先を見据えて/三井物産 高杉亮執行役員鉄鋼製品 本部長/既存事業強化へ足場固め/4ドメイン制で海外成長市場捕捉
――鉄鋼製品本部の2024年度の純利益は132億円。前年より2割近く改善したがゲスタンプの一過性損失の反動影響が大きく、総じて厳しい1年だった。
「中国の鋼材輸出の攻勢が続き、足元は米国の関税政策の影響もあって国際市場は全体的に弱含んでいる。中国は政府が景気対策を講じ自動車はじめ製造業を下支えたが、不動産不況が続く一方で鉄鋼各社が高水準の粗鋼生産を維持し、供給過多の状態にある。シンガポールのリージェンシースチールアジアやタイのサイアムヤマトスチールなど当社のアジアの事業会社は中国材の影響を受け、苦戦を強いられた」
――自動車関連の米ニューミット、風力発電向けのGRIリニューアルインダストリーズとも減益に。
「ニューミットは、数量は安定したが上半期に市況が大きく下落した。米国はインフラや高金利で個人消費や住宅販売が振るわず、自動車など需要家は新規投資について様子見だが、関税のネガティブな影響はインサイダーなので直接的には小さい。細かなコスト管理やマージン、ROICの改善活動を進めている。GRIは欧米や中国は堅調だがブラジルは不振など地域ごとに異なる。欧州の中でも好不調があり、各地の状況を注視していく」
「ゲスタンプは欧米系自動車のシェアが高く、特にドイツ系の販売動向の影響を受けており、コスト管理や新規投資のコントロールにも注意しつつ運営している」
――エムエム建材の24年度の利益は16億円と減少したが、三井物産スチールは59億円と増益だった。
「人手不足や資材全般の価格高騰から建設需要が低水準にとどまり、エムエム建材は厳しい事業環境に置かれた。三井物産スチールは中東や東南アジア、中南米向けの輸出やエネルギー資材関連が堅調だった。ただ、全社的にはゲスタンプが前年度の一過性損失の反動で増益となったが、アジアの鋼材市況の低迷がやはり大きく響き、計画の200億円に未達となった」
――厳しい状況が続くとみて25年度は純利益150億円を目標にしている。
「世界全体の需要はインド含め増えるだろうが、中国の減少分を補うほどではなく、米国の関税政策による国際的な鋼材貿易への影響など不透明な状況が続く見通しから、足場をしっかりと固めていく。持続的かつ安定的に収益を上げるために既存のビジネスをしっかり成長させる。コア事業のトレーディングは各地域で状況が異なるが一つ一つ積み上げて着実に収益化していく。既存事業は個社毎に課題をクリアしつつ収益と競争力を維持・強化する。ポートフォリオの良質化も重要であり、新しい事業機会を捉えて収益力を高めていく」
――4月に鉄鋼製品本部の機構改革を行った意図は。
「グローバルなバリューチェーンの観点で価値を創出し拡大することを目的として、需要の分野別に流通・インフラソリューション、建設バリューチェーン、モビリティバリューチェーン、エネルギーバリューチェーンの4つのドメイン(事業部)を設定した。三井物産スチールの各バリューチェーンと対応してビジネス展開を加速する。海外の地域本部とブロック、関係会社がこれまで以上に連携しながら既存の事業を良質化して収益力を上げ、さらに新たな事業の機会を創出して具体化し、実を挙げることができる体制にしていく」
――各ドメインの重点施策は。展望をどう描いているか。
「流通・インフラソリューションは、国内の既存事業の強化と海外の成長領域での需要捕捉がテーマであり、国内は総合商社の鉄鋼部隊として他本部含めた総合力を活用しながら既存事業を強化していく。顧客基盤を活用して新しいビジネスを提案しながら果実化していく。海外は各地の関係先、顧客との関係強化を通じて新しい物流機会を捉える。伸びる地域にリソースを投じ、市場の開拓と収益の基盤化を進める。リユース・リサイクル・メンテナンスのニーズが広がる中、インフラの長寿命化に対応する機能を拡充する」
「建設は建材やグリーン鋼材の事業を強化する。国内におけるエム建材を通じたプレゼンスの強化や、特にASEANで建材の需要が伸長する中でのグリーン建材の需要捕捉、リージェンシーを通じたバリューチェーンの強化を図る。欧州は減速気味ではあるもののグリーン鋼材の市場が徐々に組成される中で市場を開拓していく」
「モビリティは米国中心に保護主義が広がる中で既存のパートナーとの関係を生かしながら事業強化を図っていく。車体部品事業についてゲスタンプは自動車産業分野におけるプレゼンスのさらなる向上を目指す。電磁鋼板は電力需要の拡大やEV化の中で顧客のニーズを満たしつつ需要を取り込む。地産地消が進み、各サービスセンターがインサイダーとしての機能を磨き、地場におけるプレゼンスを高める」
――電磁鋼板の海外拠点を増設している。次の投資の候補地は。
「オランダのEMS、カナダのTMSは方向性、無方向性とも需要は堅調で安定的に稼働している。電力関連向けの比率が高い中、EV化にも対応しつつ顧客ニーズを満たしていく。ポーランドのPMSは26年4月の稼働開始を予定している。さらなる投資先は需要や生産能力の動向をみて決めていく」
――エネルギーは石油・天然ガスのニーズはなお高い。
「エネルギーバリューチェーンは、オイル&ガスの重要性が継続する想定の中で新たなプロジェクトを追求していく。再生可能エネルギーとバランスをとりながら需要を捕捉する。再エネは風力発電含め保有するアセットを一つずつ強化し、CCUSの分野の取り組みも進める。海外メンテンナスは安定的な需要が見込まれる中、パイプラインの補修・技術サービスを手掛ける英国のスタッツを100%子会社化し、オイル&ガスから派生する関連情報を新たなマーケティング活動につなげていく。パイプラインのメンテナンスは特に中東や米国・欧州でのニーズが高く、サービスの範囲を拡大していく。異なるユニットや地域の社員が機能軸、商品軸、地域軸の情報を共有してバリューアップを目指す」
「森林J―クレジットを国内のメーカーに販売しており、3月には山口県で初めて認証された森林J―クレジットを東洋鋼板に購入いただいた。エネルギーソリューション本部が対応しており、鉄鋼業のカーボンニュートラルの実現に貢献していく」
――中国で展開するSC網の状況は。
「中国国内の自動車産業の状況と他のマーケットへの影響などを注視している。中国はEV化が進展し、過去最高の生産台数となっているが、いろいろなメーカーが競合しており、どういう形になるか、よく見定めていく必要がある」(植木 美知也)
「中国の鋼材輸出の攻勢が続き、足元は米国の関税政策の影響もあって国際市場は全体的に弱含んでいる。中国は政府が景気対策を講じ自動車はじめ製造業を下支えたが、不動産不況が続く一方で鉄鋼各社が高水準の粗鋼生産を維持し、供給過多の状態にある。シンガポールのリージェンシースチールアジアやタイのサイアムヤマトスチールなど当社のアジアの事業会社は中国材の影響を受け、苦戦を強いられた」
――自動車関連の米ニューミット、風力発電向けのGRIリニューアルインダストリーズとも減益に。
「ニューミットは、数量は安定したが上半期に市況が大きく下落した。米国はインフラや高金利で個人消費や住宅販売が振るわず、自動車など需要家は新規投資について様子見だが、関税のネガティブな影響はインサイダーなので直接的には小さい。細かなコスト管理やマージン、ROICの改善活動を進めている。GRIは欧米や中国は堅調だがブラジルは不振など地域ごとに異なる。欧州の中でも好不調があり、各地の状況を注視していく」
「ゲスタンプは欧米系自動車のシェアが高く、特にドイツ系の販売動向の影響を受けており、コスト管理や新規投資のコントロールにも注意しつつ運営している」
――エムエム建材の24年度の利益は16億円と減少したが、三井物産スチールは59億円と増益だった。
「人手不足や資材全般の価格高騰から建設需要が低水準にとどまり、エムエム建材は厳しい事業環境に置かれた。三井物産スチールは中東や東南アジア、中南米向けの輸出やエネルギー資材関連が堅調だった。ただ、全社的にはゲスタンプが前年度の一過性損失の反動で増益となったが、アジアの鋼材市況の低迷がやはり大きく響き、計画の200億円に未達となった」

「世界全体の需要はインド含め増えるだろうが、中国の減少分を補うほどではなく、米国の関税政策による国際的な鋼材貿易への影響など不透明な状況が続く見通しから、足場をしっかりと固めていく。持続的かつ安定的に収益を上げるために既存のビジネスをしっかり成長させる。コア事業のトレーディングは各地域で状況が異なるが一つ一つ積み上げて着実に収益化していく。既存事業は個社毎に課題をクリアしつつ収益と競争力を維持・強化する。ポートフォリオの良質化も重要であり、新しい事業機会を捉えて収益力を高めていく」
――4月に鉄鋼製品本部の機構改革を行った意図は。
「グローバルなバリューチェーンの観点で価値を創出し拡大することを目的として、需要の分野別に流通・インフラソリューション、建設バリューチェーン、モビリティバリューチェーン、エネルギーバリューチェーンの4つのドメイン(事業部)を設定した。三井物産スチールの各バリューチェーンと対応してビジネス展開を加速する。海外の地域本部とブロック、関係会社がこれまで以上に連携しながら既存の事業を良質化して収益力を上げ、さらに新たな事業の機会を創出して具体化し、実を挙げることができる体制にしていく」
――各ドメインの重点施策は。展望をどう描いているか。
「流通・インフラソリューションは、国内の既存事業の強化と海外の成長領域での需要捕捉がテーマであり、国内は総合商社の鉄鋼部隊として他本部含めた総合力を活用しながら既存事業を強化していく。顧客基盤を活用して新しいビジネスを提案しながら果実化していく。海外は各地の関係先、顧客との関係強化を通じて新しい物流機会を捉える。伸びる地域にリソースを投じ、市場の開拓と収益の基盤化を進める。リユース・リサイクル・メンテナンスのニーズが広がる中、インフラの長寿命化に対応する機能を拡充する」
「建設は建材やグリーン鋼材の事業を強化する。国内におけるエム建材を通じたプレゼンスの強化や、特にASEANで建材の需要が伸長する中でのグリーン建材の需要捕捉、リージェンシーを通じたバリューチェーンの強化を図る。欧州は減速気味ではあるもののグリーン鋼材の市場が徐々に組成される中で市場を開拓していく」
「モビリティは米国中心に保護主義が広がる中で既存のパートナーとの関係を生かしながら事業強化を図っていく。車体部品事業についてゲスタンプは自動車産業分野におけるプレゼンスのさらなる向上を目指す。電磁鋼板は電力需要の拡大やEV化の中で顧客のニーズを満たしつつ需要を取り込む。地産地消が進み、各サービスセンターがインサイダーとしての機能を磨き、地場におけるプレゼンスを高める」

「オランダのEMS、カナダのTMSは方向性、無方向性とも需要は堅調で安定的に稼働している。電力関連向けの比率が高い中、EV化にも対応しつつ顧客ニーズを満たしていく。ポーランドのPMSは26年4月の稼働開始を予定している。さらなる投資先は需要や生産能力の動向をみて決めていく」
――エネルギーは石油・天然ガスのニーズはなお高い。
「エネルギーバリューチェーンは、オイル&ガスの重要性が継続する想定の中で新たなプロジェクトを追求していく。再生可能エネルギーとバランスをとりながら需要を捕捉する。再エネは風力発電含め保有するアセットを一つずつ強化し、CCUSの分野の取り組みも進める。海外メンテンナスは安定的な需要が見込まれる中、パイプラインの補修・技術サービスを手掛ける英国のスタッツを100%子会社化し、オイル&ガスから派生する関連情報を新たなマーケティング活動につなげていく。パイプラインのメンテナンスは特に中東や米国・欧州でのニーズが高く、サービスの範囲を拡大していく。異なるユニットや地域の社員が機能軸、商品軸、地域軸の情報を共有してバリューアップを目指す」
「森林J―クレジットを国内のメーカーに販売しており、3月には山口県で初めて認証された森林J―クレジットを東洋鋼板に購入いただいた。エネルギーソリューション本部が対応しており、鉄鋼業のカーボンニュートラルの実現に貢献していく」
――中国で展開するSC網の状況は。
「中国国内の自動車産業の状況と他のマーケットへの影響などを注視している。中国はEV化が進展し、過去最高の生産台数となっているが、いろいろなメーカーが競合しており、どういう形になるか、よく見定めていく必要がある」(植木 美知也)

