2023年7月3日

商社の経営戦略/2030年以降を見据えて/三井物産 藤田浩一執行役員・鉄鋼製品本部長/電磁鋼板、投資は不可欠/海外網拡充、EV生産増に対応

――2023年3月期の連結純利益は225億円だった。

「一過性の損失計上や海外の鋼材価格下落に伴う在庫評価減の影響はあったが、ほぼ期初の見込み通り利益を積み上げられた」

――「中期経営計画2023」(20-22年度)における純利益目標は140―160億円。鋼材価格上昇、円安など前提条件が好転したこともあるが、2年間の実力はほぼ2倍の水準となった。

「総資産増や、前提条件の改善もあったので目標自体を200億円以上に修正する必要はあった。決算数値が250億円規模に達し、300億円が視野に入ってきた手応えは感じている」

――主要関係会社の連結・持分利益を。

「三井物産スチールは傘下の製造業関係会社の好調もあり前期比10億円増の75億円、エムエム建材は前期並高水準を維持し25億円。自動車部品プレス事業のゲスタンプが11億円の赤字から24億円の黒字に浮上。一方、米国のスチールテクノロジーズへの投資会社、ニューミットは、前期の鋼材価格急騰の反動で112億円から66億円へと減少した」

――「中期経営計画2026」(23-26年度)をスタートし、鉄鋼製品本部は今期予想が200億円で、最終27年3月期目標を400億円に設定した。

「前中経はコロナ禍に翻弄されながらも、リスクを抑えながら一定の利益を確保できた。今中経では、前中経の経験則を活かしつつ、事業構造をリファイニング、リチューニングし、新たな投資を厳選しながら実行していく。負の遺産等の整理もあり、今期はやや低めの設定となっているが、新規投資の成果も一部引き出しながら中経最終年度には400億円を達成したいと考えている」

――3年間の投資計画について。昨年12月の時点では「数百億円規模の投資を複数検討中」としていた。

「前中経期間はコロナ禍の影響もあり、ほとんど実行できなかった。世界は大きく変化しており、ビジネスチャンスが広がっている。自らがゲームチェンジャーとなる大胆な発想で投資の検討を進めている」

――ターゲットは。

「自動車、エネルギー、インフラの大きく3分野を引き続きターゲットに設定している。いずれの分野も脱炭素の流れを受け、事業構造が大きく変化しながら規模が拡大していく市場となるが、得意分野でもあるので、足場を固める積りでしっかり投資を行っていく」

――自動車分野の戦略から。

「中国は宝武集団との合弁事業、米国はニューコアとの合弁事業であるスチールテックがそれぞれ現地で幅広いネットワークを張っているので、市場構造変化に応じてコイルセンター機能をブラッシュアップしていく。スチールテックは21年末に同業のカルストリップ・インダストリーズを買収し、米国20拠点、メキシコ9拠点、カナダ2拠点にネットワークを拡張したが、米国南部は手薄で、依然課題となっており、引き続きM&Aのチャンスを窺っている。欧州では、英国マイキング、マイキング・チェコ、オランダEMSなどコイルセンター機能も活用し、加速するEV化により生まれるビジネスチャンスを捕捉していく」

――自動車、エネルギー分野にまたがる電磁鋼板について。

「オランダのEMS、カナダのTMSは変電所トランス用の方向性電磁鋼板をメインに対応しているが、北米のEV生産拡大に対応するためTMSはモーターコア用の無方向性電磁鋼板の加工・物流体制を整えつつある。洋上風力発電など再生可能エネルギー向けのトランス用の需要も伸びていく。自動車、エネルギーの両分野における成長戦略の実行の手段として投資は不可欠。既存の蘭・加2拠点の設備増強、グリーンフィールドでの投資、M&Aを含めた川下展開なども視野に検討を急いでいる」

――エネルギー分野については。

「ロシアのウクライナ侵攻によって世界のエネルギー事情が変化し、中東、米国、豪州などにおける化石燃料採掘が増えており、改めて新旧エネルギーをターゲットにビジネスチャンスを捉えていく。スペインのGRIは、米国、ブラジル、インド、トルコなど8カ国に風力発電用フランジ・タワーの製作拠点を展開し、収益を拡大している。中国勢との価格競争に巻き込まれ事業環境が厳しくなりつつあるため、得意とする地上やオンショアに加えて、オフショア・マーケットへの本格参入を急ぐ。英国のGEGが広大なヤードを活用して洋上風力発電設備の組み立てやメンテナンスのビジネスを拡大しており、まずはスコットランド沖合、北海エリア向けを先行させ、次に米国政府が優遇税制を導入している米国東海岸の可能性も視野に入れてグローバル展開していきたい。日本国内では風力発電関連のインフラ・メンテナンス大手、北拓との合弁事業、ホライズン・オーシャン・マネージメントを設立。ケッペルとの共同出資会社で、海洋構造物を手掛けるリージェンシー・スチール・ジャパンは、オイル・ガスに加えて洋上風力分野にも注力している」

――インフラ分野について。

「インフラ関連市場においてもグリーン鋼材のニーズが広がってくる。パートナーであるニューコア、大和工業などの電炉メーカーとも協力しながら、新たなサプライチェーンを創出していきたい。また道路、橋梁、鉄道などインフラの老朽化が深刻化するアジア、米州でIMR(インスペクション、メンテナンス、リペア)事業を展開していく。前中経期間に構造物の総合メンテナンス企業であるショーボンド・ホールディングスと合弁会社を設立し、タイでサイアム・セメント・グループとの3社合弁を設立した。日本が得意とする予防保全の概念を浸透させ、政府のインフラ関連投資が広がる米国を含め、現地パートナーとともに事業開発を推進していきたい」

――中国は投資を続けるのか。

「世界の鉄鋼生産の半分を占め、国際市場への影響は極めて大きい。不動産問題、経済成長鈍化など不安材料はあるが、EVでは世界の先頭を走り、テスラや民族系がシェアを伸ばす一方、日系は存在感が低下しているように映る。現地コイルセンターの宝井事業については、パートナーの宝武集団と将来を見据えた対応を協議している」

――成長期待エリアとしては、インドに続き、アフリカの可能性が高まる。

「インドは山陽特殊製鋼とともに現地の特殊鋼事業に出資している。電力・原料の安定調達などの課題があり事業環境は厳しいが、伸びる鉄鋼需要を幅広い視点でしっかり捕捉していきたい。アフリカはインフラ整備、天然資源の採掘が発展しており、電力、建設資材などの需要が急速に伸びている。三井物産としては幅広い分野で経営資源を投入しているが、先行して農業系、食糧系が事業基盤を広げており、鉄鋼人材がアフリカ各国に4-5人配置されている。各々の持ち場でビジネスチャンスを探っている。インド、アフリカともに信頼できる現地パートナー、優秀なローカルスタッフの確保が必須であるが一定の成果を見ている」

――50%を直接出資するエムエム建材との連携は。

「直接出資に切り替えたのは鉄スクラップ関連ビジネスを強化するのが狙い。高炉メーカー向けの需要が拡大する直接還元鉄を含めた冷鉄源ビジネスを金属資源本部とともに幅広く展開していく。建材ビジネスはこれまで通り国内を中心に事業を拡大していく」

――100%子会社の三井物産スチール(MBS)、日本製鉄の子会社となった日鉄物産の機能分担を。

「引き続き20%を出資する日鉄物産との機能分担については、日本製鉄と相談しながら、双方にとって効率的な経営を追求していく。MBSとしては、中間流通的なところから川下へ視点を移し、さらなる機能強化を図り、新たなビジネス創出に尽力していく」

――2030年以降を見据えた課題と展望を。

「世界各国が2030年、50年の脱炭素計画を進めており、30年以降はEV比率、再生エネルギー比率が大幅に上昇し、鉄鋼業界においてはグリーンスチール、電炉、冷鉄源、CCUS(二酸化炭素の回収・分離・貯蔵)などの重要性がさらに高まっているであろうことは想像に難くない。従来の延長線上でのEV、エネルギー、インフラ分野への対応を進めつつ、三井物産グループとして新たに取り組むべきテーマを定めていく必要がある。バリューチェーン上で、どこの立ち位置がプロフィットプールとなるか、物流を通じて、より川下、需要産業側へのアプローチを模索している。30年以降の社会ニーズを想定し、伸びる分野への投資を見極めていく必要がある。広い視野、新しいセンスを持った人材を増やしていかなければならないし、見極め力をまさに極めることが総合商社の機能と存在感の維持につながるはずだ」(谷藤 真澄)

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