2025年8月19日

安全衛生大会・大阪開催に向けて/竹越徹・中災防理事長に聞く/労災防止へ多彩な企画/ストレス診断テーマのシンポも

中央労働災害防止協会は第84回全国産業安全衛生大会大阪・近畿大会と緑十字展2025を9月10―12日にインテックス大阪で開催する。大会のテーマは「共に築こう 安全・健康 一人ひとりが輝く未来」。12年ぶりの大阪開催となる大会への意気込みやアピールポイントとともに12月に開くタイでの初の安全大会など新たな活動について竹越徹理事長に聞いた。

――テーマ・プログラム内容は。

「人間酷似型ロボット研究の第一人者、石黒浩・大阪大学基礎工学研究科教授が『多様な生き方を実現するアバターと未来社会』と題して特別講演を初日の総合集会で行う。2、3日目の分科会は有識者による専門的な講演の他、化学物質の自律的管理の取り組みや50人未満の事業場がストレスチェックを導入する際のポイントをテーマにしたシンポジウムなどを約40本、職場の労働災害防止や健康づくりなどに取り組む企業・団体・教育機関による研究発表を約210本予定している。フジテックの友岡賢二専務執行役員、近畿大学法学部の三柴丈典教授、関西大学社会安全学部の近藤誠司教授、大阪医科薬科大学看護学部の飛田伊都子教授の講演の他、人事・戦略コンサルタントHRストラテジー代表の松本利明氏、落語家の桂福丸氏など各分野で活躍の方々による講演、大林組執行役員大阪本店夢洲総合工事事務所総括所長の高木昌紀氏による大阪・関西万博で話題の大屋根リングの建設をテーマにした特別報告を行う」

「緑十字展は過去最多となる260社(980小間)を超える企業・団体が出展する。毎年好評の企画展『安全衛生保護具体験道場』を開く。特別企画展『防災・減災コーナー』は防災・減災に関する企業の商品・サービスなどを展示する。阪神・淡路大震災発生から30年の今年、東日本大震災の3D記録映像を上映し、企業の安全衛生担当者、人事労務担当者に震災・防災対策の重要性を再認識していただく。安全衛生保護具業界としてのPRブースも初登場する。法改正によって事業主に様々な安全衛生対策が義務付けられる中、大阪労働局による展示ブースを設置し、行政からの有用な情報も発信する」

――労災の発生状況・傾向と今大会で訴えるポイントは。

「24年の労働災害発生は死亡者数746人(前年比9人減)と過去最少となったが、休業4日以上の死傷災害は13万5718人(347人増)と4年連続増加した。依然として労働者の作業行動に起因する労働災害が多く、『転倒』『腰痛』が上位を占める。国や事業者、労働者などが重点的に取り組む事項を定めた第14次労働災害防止計画(23―27年度)では、中高年齢の女性労働者などによる作業行動に伴う転倒などの災害が約4割占める、労働人口の約3人に1人が何らかの病気を抱えながら働いている、仕事で強い不安やストレスを感じる労働者が約5割いる、化学物質に起因する災害は年間400件以上、そのうち8割を特化則などの個別規制対象外の物質が占める――などが課題として提起され、対策として中高年齢の女性中心に作業行動に起因する災害の防止や多様な働き方への対応、メンタルヘルスなど健康確保対策、事業場での自律的な化学物質管理の定着などが示されている。国の動向に合わせてメンタルヘスに関する講演の他、ストレスチェック義務化(50人未満事業場)への対応をテーマにしたパネルディスカッション、化学物質の自律的管理を推進する地元企業の取り組みを取り上げるシンポジウムを行う。女性活躍や治療と仕事の両立支援に取り組む企業による発表も多数予定している」

――AI・ロボットの労災防止への活用策・未来像は。

「VRやAIなどデジタル技術を駆使した様々な災害防止用の機器やシステム、ツールが市場に投入され、中でも『AI画像認識システム』を用いた安全衛生管理の仕組みは多くのメーカーが競って開発に取り組んでいる。AI搭載カメラが危険エリアへの人の侵入や作業場で転倒した人を検知する、作業員が保護具を正しく装着しているか判定する。VRによる安全教育は多くの職場で取り入れられ、当協会でも明電舎の協力でVRを活用した『危険体感教育(安全体感教育)実践セミナー』を実施している。AIの活用について試行錯誤は始まっているが、人命に係ることもあるため、盲目的な活用には警鐘を鳴らしておきたい」

――若手の来場者増加への方策は。

「大阪は大規模な事業場が多く、製造品出荷額は愛知に次ぎ全国2位。化学、金属製品、鉄鋼などの基礎素材型産業の占める割合が高く、特に化学は他の都市より大きい。化学・機械・金属などの製造業が集積することで医薬品関連産業や医療機器産業が発展し、医薬品生産高は全国3位だ。医療機器開発などライフサイエンス産業や新エネルギー産業、ヘルスケア、ロボット産業の発展が期待され、当協会が全国大会、緑十字展のテーマとして掲げるコンセプトと一致する。当協会では若い世代に安全衛生への関心を持ってもらい、学びの機会として役立ててもらうために安全管理士が寄附講座を行う大学など教育機関と連携している。前年に続き全国大会でオープンカンパニーを実施する。大阪はじめ近畿地方の大学生・大学院生などを全国大会と緑十字展に無料招待し、自由に聴講、見学してもらおうと考えている」

――必要性が増す熱中症対策について。

「働く人の熱中症対策が喫緊の課題となっている。労働安全衛生規則が改正され、職場における熱中症対策の内容が強化された(6月1日施行)。22―24年の3年間、職場における熱中症の死亡者数が毎年30人を超えていることや、20―23年に発生した熱中症による死亡災害103件のうち100件が初期症状の放置や対応の遅れによるもの。今回の改正では、熱中症による健康障害の早期発見や重篤化の防止のために、熱中症を生じるおそれのある作業の内容が明記されるとともに『早期発見の体制整備』、『重篤化防止措置の実施手順の作成』、『関係作業者への周知』が罰則付きで事業主に義務付けられることになった。法改正直後であるため、今年の全国大会では企業や団体による熱中症対策の取り組み事例の紹介は少ない状況だが、緑十字展では年々熱中症のコンテンツが充実しており、今年もファン付き作業服や冷却ウェアをはじめ、熱中症対策飲料、工場扇など熱中症関連の機器・用品が多数出展される予定。中でも、心拍数や体温など作業者の健康状態を監視するウェアラブルデバイスはあくまで補助的なものだが、リスク管理のための一つの手段としてその着用が勧められている。緑十字展に参加し、多くの最新情報や技術を自身の現場でどう活用するかヒントを得ていただき、職場の熱中症対策に活かしていただきたい」

――今後の安全衛生大会の構想は。

「全国大会は、日本の労働安全衛生の水準を向上させるという崇高な目的のために、年に一度、安全衛生に携わる人たちが一堂に会して安全衛生に関する情報・取り組みを共有する場であり、話し合うべきことがあると思う。これからの産業現場を支えていく学生や研究者など若い方々に多く参加していただけるよう、昨年始めたオープンカンパニーのような施策を継続していく。従前から付き合いのある台湾やタイの安全衛生団体の方々の参加も増えてきており、世代や国境を超え、さまざまな参加者が集う場にしたい。今後も全国大会と緑十字展の開催にあたっては共通のコンセプトを掲げ、一体的な運営を進めていく。秒進分歩で進化する技術革新や新しい働き方・多様性に着目した発表、講演を企画し、安全・安心な社会づくりをリードするイベントを目指す」

――人手不足や技能伝承など深刻化する課題への取り組みは。

「建設現場では、問題解決の方法として建設機械の遠隔操作システムの導入が進められている。人材不足やオペレータの高齢化が深刻化する建設業界で、オフィスや事務所に居ながらにして現場作業を可能にするこうした技術は、安全性の確保のみならず業務効率の飛躍的な向上や人件費、交通費などのコスト削減にも大きく貢献すると期待されている。物流業界では工場・倉庫で自動でものを運ぶ無人搬送車のAGVが導入され始めている。人手不足の解消や作業者の負担軽減、さらには転倒事故などのリスク回避につながり、ニーズはますます高まっていく」

――協会としてタイ・バンコクで第1回目の安全大会を開催する。

「タイの日系企業の安全衛生意識の向上や課題解決、担当者間のネットワーク構築への支援を目的に、タイ日系企業安全大会を12月18―19日にバンコクのSDアベニュー・ホテルでタイ労働安全衛生促進協会などの協力と在タイ日本大使館などの後援を得て開催する。日系企業で働くタイ人の安全衛生担当者や日本人管理者250人程度を対象に有識者の基調講演やパネルディスカッション、日系企業10社からの事例発表、参加者によるネットワーキング交流会を開催する。横浜国立大学の三宅淳巳先生、失敗学会の飯野謙次先生、産業医科大学の江口尚先生、スラナリー工科大学やタマサート大学の安全衛生の専門家による発表を予定し、オンラインで聴講できるようハイブリッドで行う。目玉の一つのネットワーキング交流会は企業の垣根を超えて、災害ゼロを目指す仲間の語らいの場とする。2年に1度、タイで開催し、労働安全衛生分野における両国のこれまでの経験や考え方を尊重しつつ、互いに良いものは取り入れ、改善すべきは互いの経験から学ぶといった広く「知恵の貸し借りの場」となることを目指している。将来的には、日系企業以外の現地ローカル企業の参加を募ることも検討すべき課題として捉えている。両国の労働災害が減るだけではなく、企業や大学間での交流が盛んになることを望んでいる。この7月から当協会で、泰日工業大学を卒業したタイの方が働き始めることになった。タイでの日系企業の安全衛生大会の企画をきっかけに、昨年夏に3カ月のインターンシップを経て卒業と同時に来日した。これから両国の安全衛生分野での架け橋役となるよう活躍を期待している」(植木 美知也)

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