2025年11月26日

非鉄業界で働く/女性営業職編 インタビュー/仕事とバスケを両立

大阪の老舗電線メーカー・KHD(本社=大阪府枚方市、阪口善雄社長)の東京支店で営業職に携わる若松優津さんは、幼い頃から聴覚障害がありながらもそれをハンディとせず、他の社員と同じように一人の営業マンとして活躍する。プライベートでは社会人バスケットボールチーム「AFBB」と、デフ(英語で耳が聞こえないの意)バスケチーム「東京scratch girl」に所属。今年11月には「東京2025デフリンピック」の女子バスケ日本代表としての出場も予定している。仕事、プライベートの両面で多忙な日々を送る若松さんに仕事への思いや苦労、バスケに関する話を聞いた。



――入社のいきさつ。

「幼少期からやっていたバスケットボールを社会人になっても続けたいと思っていたところ、バスケのつながりで当社のお客さまでもあるところに今の会社を紹介してもらったのがきっかけでした。仕事とバスケを両立できるというところで入社を決めました」

――入社時から営業職を務めている。

「東日本の地域が担当で、お客さまである問屋さんや商社をルート営業という形で回らせてもらっています。事務職での採用とばかり思っていたので、会社から営業職をやってみようかと言われた時はびっくりしました」

――聴覚障害について。

「感音性難聴であることは、小学生になる頃の健診で分かりました。障害者手帳は6級と一番軽くはありますが、それでも電車の『ガタンゴトン』という音が聞こえないくらいのレベルになります。聞き取れる音や会話の流れ、口の動きで会話はできますが、会話を聞き取れない、あるいは聞き取りにくいことも多く、商談で『もっと聞こえていればもっと情報を取れるのに』と悔しい思いをすることもあります。聞き返すこともできますが、この流れで遮っていいのかという時もあるので神経もかなり使いますね。新型コロナウイルス禍の時はマスクやパーテーションで相手が何を言っているのか分からなかったり、聞き取れなかったりということがあり、とても苦労しました」

――基本、営業は1人で回っている。

「会社には障害のことを理解してもらっており、お願いすれば快く同行してもらえるなど、助けられながら活動できています」

――仕事で印象に残っていること。

「入社2年目の頃だったと記憶していますが、1人で回れるようになってきた頃にあるお客さまから『その回り方ではだめだよ』とお叱りを受けたことがあったんです。シンプルかつずばっと言われたことがかなりショックでしたが、営業として一人前になるためにしっかり自分を見返そうと思うきっかけにもなりました。今も続けられているのはその経験があったからであり、営業で求められる心遣いや気配りといったことも意識してできるようになったと思っています」

――プライベートではバスケに力を入れている。

「小学校1年生の時に地元のミニバスケットボールチームの見学に行き、即決で始めてからずっと続けています。仲間と一緒に何かをする、一緒に過ごすということが楽しいと思えたんでしょうね。中学校、高校はバスケの強豪校に進学、大学もバスケに力を入れているところを選びました。現在は主にAFBBで週3―4日、1日3―4時間の練習に励んでいます」

――デフバスケを知ったきっかけ。

「大学時代に障害者スポーツに理解のあったトレーナーが勧めてくれたのが最初でした。『チャレンジしてみたらどうか』といった意味合いで話してくれたと思うのですが、普通にプレーできていたこともあり『このチームに要らないんですか』と反発するなど、当時は素直に受け入れられませんでした」

――社会人になってから気持ちに変化が生じていった。

「聴覚障害、補聴器、障害者手帳といったことが全部自分のプラスになると捉えられるようになっていた中で、大学時代のトレーナーにデフバスケにチャレンジしたいと再度相談し、勧められて行ったのが2022年のデフバスケ女子日本代表の選考会でした。ありがたいことに日本代表をやらないかという話をいただき、日本代表としても活動するようになりました」

――昨年には豪州で開かれた「DIBFアジア太平洋デフバスケ選手権大会」で初優勝を果たし、大会MVPにも選ばれた。

「いろいろな大会を経験してきましたが、日本代表のユニホームを着ての出場はこれまでにないくらいの緊張感がありました」

――今後の意気込み。

「営業職については結果を出すことはもちろんですが、それ以上にお客さまに寄り添い、信頼してもらえる一人前の営業マンを目指したいです。聴覚障害との相談になる中、直接訪問するだけでなく、メールなどさまざまなツールを使いながら自分らしい営業を確立できればと思っています」

――バスケはどうか。

「これまで応援してもらっている会社、支えてもらっている人たちに、チームで目標とする金メダルを獲得することで恩返しをしたいです。東京でデフリンピックが開かれる機会はめったにないので、ぜひたくさんの人に会場に足を運んでもらい、デフやデフスポーツの魅力を生で知ってもらいたいですね」

――絵を描くことが好き。

「実家で犬を飼っていることもあり、犬の絵を描くことが多いです。業務では展示会用のチラシなども作らせてもらっています」(松田 元樹)











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