2025年12月2日

財務・経営戦略を聞く/(上)/日本製鉄副会長兼副社長/森高弘氏/USS投資効果30億ドルへ/国内外改革で収益力さらに強化

――取り巻く環境が厳しく、2025年度予想の単独の粗鋼生産は3450万トン、鋼材出荷は3150万トンと前回並みで、低位にとどまる見通しだ。

「国内の鉄鋼需要は5000万トンを割り込むレベルにあり、大きな回復は見通せない。むしろ米国など各国の通商措置の影響から鉄鋼の直接輸出、間接輸出ともに減少する見込みだ。米国に向かっていた海外の鋼材が他のさまざまな地域に向かう影響もあり、国内外の需給状況について注視していく。経済産業省による第3四半期(10―12月)の鋼材需要の見通しは前年同期比3・5%減少の1850万トン弱だが、市場は非常に厳しく、さらに減りかねない情勢が継続する見通しだ」

――通期の連結事業利益予想は4500億円と海外事業の悪化から前回比300億円下方修正したが、在庫評価差等とUSスチールを除いた実力ベースは6800億円と300億円上方修正した。

「USSを除いた実力の利益予想を上方修正したのは、環境悪化で200億円のマイナスをコスト削減のプラス200億円で打ち返し、関税によるマイナス影響を前回の500億円から200億円に変更したことが残った形。関税影響の200億円の減少は、自動車の間接輸出や鋼材の直接輸出が若干減少する見込みを反映したもの。厳しい事業環境の中でこれだけの利益を出せるのは、実施してきた合理化や中長期経営計画の間に打ってきた手が正しかった証左だ。どのような市場の状況でも6000億円以上の利益を確保する方針を実行できている」

――粗鋼トン当たりの収益は昨年まで世界トップだったが。

「4―6月期はニューコアとアルセロール・ミッタル(AM)に抜かれたが、トップクラスを維持している。いろいろと要因があり、米事業会社のAM/NSカルバートをAMに譲渡したことでAMの利益は大きくプラスとなり、当社は逆に2300億円のマイナスとなった。7―9月期はAMを抜き返している。ニューコアは米関税発表で4月に鋼材市況が上がったことで増益となり、その後熱延市況は下落したが、今の熱延市況の水準であれば収益を高く保てている」

――25年度に800億円を予想したUSSの利益をゼロに修正した。

「米国の需要は足踏み状態。需要家が様子見に入っていることが原因。関税や利下げの影響が本格的に発現してくれば需要は戻ってくるだろう。USSの利益予想をゼロに修正したのは、USSの収益体質がいまだぜい弱なため。ニューコアは市況が下落した中でも高い利益を得ている。USSは製鉄所単位の収益力が異なり、電炉拠点のビッグリバースチールの収益力はニューコアとほぼ同等である。問題は高炉を持つ製鉄所だ。過少投資が続いてきたので歩留まりが低く、力を発揮できていない。今後当社による投資とシナジーで確実に変わっていく」

――USSが発表した中長期計画の実現に向け、これからUSSに多くの新鋭設備を導入し、操業ノウハウを本格的に投入していく。

「品質や歩留まりなど製造する実力、オペレーショナル・エクセレンスを充実させ、利益を上げられる体制に変える。国内で製造できず、輸入に頼っている高付加価値品を製造する新規設備を導入する。米国で伸びているのはデータセンターやAIを中心とした電力であり、変電設備を支える高効率の方向性電磁鋼板をビッグリバーで製造できるようにする。ゲーリー製鉄所に新熱延ミルを導入し、自動車用鋼板や厚手ラインパイプ用鋼板を製造可能とする。モンバレー製鉄所には新熱延ミルを導入し、競争力を引き上げる。米国には9000万トンの鉄鋼需要があり、鋼材の間接輸入品が6000万トンと合計で1億5000万トンになる。グリーンフィールドの製鉄所建設を検討し、必要に応じ供給力も上げていく。アメリカは世界最大の高付加価値品の市場であり、当社の強みを発揮する大きな機会に恵まれた有望な市場だ」

――中国の大量輸出が続く。来年も米国の鋼材市況は中国材を遮断しているとはいえ、上がりにくく、収益に響くのでは。

「USSは今の市況が続いたとしても利益を出せる体制に改善する。現在の熱延市況は810―820ドル。メトリックトンなら900ドルで、アジアの450ドルの倍となる。それでもUSSが利益を出せないのはコストが高いため。過少投資を続けてきたことで設備が古く、歩留まりが低い。投資を行い、新しい設備に切り替えれば必ず改善する。当社の操業ノウハウも投入する。例えば、自動車向けはハイテンの比率が当社よりも高い。ハイテンの価格は高いが、USSの現状設備での製造は容易ではない。一方で製造が容易で収益性が高い自動車用鋼板はニューコアやSDIが受注している。受注構成も含めた戦略的な価格交渉を進めていけば、設備投資の効果を待たずとも利益を改善でき方法はある」

――サプライチェーンの中で日系商社の支援が期待できる。

「ビッグリバー2の設備を生かすには鋼板をスリットする設備が必要になる。日鉄物産はもちろん、他の日系商社も対応を検討してくれている。米国の鉄鋼流通の中で日系商社は大きな力を持っており、非常に頼もしい」

――USSの30年の投資効果と収益目標は。日系自動車が米国投資を増やす方針を示している。USSの投資にどう織り込み、利益にプラスになっていくのか。

「投資効果と技術移転のシナジー効果で、30年構造ベースで30億ドルを見込んでいる。減価償却の変動など他の要素もあるため収益目標は示していないが、収益改善へのインパクトの大きさは理解いただけると思う」

「日本同様、米国も自動車、エネルギー、インフラが主要なターゲット分野となる。電磁鋼板や自動車用鋼板、エネルギー用鋼管は当社の強みであり、収益の源泉となっていく。USSの中長期計画に日系自動車の米国での新規投資は織り込んではいないが、日系自動車の生産が増え、需要を取り込めれば、利益をさらに引き上げることができる」

(植木 美知也)









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