2023年8月31日

財務・経営戦略を聞く/日本製鉄副社長/森高弘氏/改革進み収益力大幅強化/品種構成の高度化も寄与

――単独粗鋼生産は上期1750万トンと低水準で下期も同程度。需要はさほど変わらない予想か。

「今年度の国内需要予想を5400万トン程度と前回5月時点の見通しから50万トン下方に修正した。土木建築、製造業ともに若干減少している。自動車生産は回復はしているもののその速度は緩やかであり、年度の国内生産台数は860万台程度の予想でコロナ禍前の水準には戻らない。下期も足元の需要が続く想定で生産量は変わらず、国内の減少を輸出でカバーする傾向が年度内は続くだろう。海外はインドの鋼材需要が堅調で市況も回復基調にあるが、中国は回復に時間を要する見込みで需要に見合った鉄鋼生産の調整は不十分であり、鋼材輸出が増えASEANの鋼材市場に影響している。国家発展改革委員会が減産の指導を始めているとの報道があるので動向をよく見極めたい」

――需要不振の中で23年度の連結事業利益予想を6900億円、一過性要因除く実力の利益予想は過去最高の8400億円とそれぞれ前回から400億円上方修正した。マージン拡大が主な要因に。

「マージン拡大にはいくつかの要因があるが、一つは紐付き価格先決め後の原料価格低下だ。鋼材販売価格の改善を進めた21年度の下期にひも付き分野のマージンは当時としておおむね適正と判断できる範囲に達した。商慣習も見直し、先決め方式に変えたことで販価を決めた後に原料価格が動くことになるが、22年度上期は販価を決めた後に原料価格が高騰したのでマージンが縮小した。その後にマージンを適正水準に戻そうとしたところ、22年度下期は原料価格が下がってマージンが広がり、22年度の年平均のマージンはほぼ適正水準となった。23年度上期にマージンを戻そうとしたが原料価格が想定より下がり、マージンが想定した水準より膨らんだ。第1四半期の実力の連結事業利益2500億円は少しできすぎと考えているのも、前回予想時からマージンが500億円ほど膨らんだのもこのためだ。下期に再度マージンを適正水準に戻そうとしており、その前提で計画を組んでいる。下期のマージンが上期より狭まるように見えるのは適正な水準に戻す過程であり、マージンが悪化しているわけではない」

――マージンの適正水準は品種構成の高度化が進んだことで21年度下期より上がっているのでは。

「その通りだ。能力を増強した電磁鋼板の設備が今年度上期末から順次立ち上がる。前回予想時は一旦、マージンは前年度横ばいとして含めていなかったが、今回の実績や予想には含めており、増益に効いている。マージンは製品の価格変動や輸出構成などいろいろな要素によって決まってくる。ひも付きの価格についても製品やサービスの価値は高まり、時間とともに変わる。21年度下期のマージンは当時としてはおおむね適正と考えていたが、注文構成も高度化していくので価値は上がっていく」

――数量が以前より大きく減る中で本体国内製鉄事業の利益は前回比500億円増、前年比1080億円増の3300億円を予想している。

「我々がこれまで行ってきた対策が正しかった証左だ。ただ、3300億円には上期の一時的なマージンの拡大も含まれるので少しできすぎと言える。今後は構造対策によるコスト削減効果が25年までにさらに500億円発揮される。設備投資の実施で減価償却費が増えるがそれをコスト削減で抑え込んで低水準の固定費を維持し、注文構成の高度化で限界利益単価を上げていく。3300億円から一時的なマージン拡大で膨らんだ分を除いても中長期計画で当初目標としていた2500億円を超えており、今後さらに上を狙う」

――鉄グループ会社の業績は。

「黒崎播磨は外部コストを着実に価格に転嫁しているのとインド事業が加わり、非鉄分野の拡販もあって業績は堅調だ。大阪製鉄など電炉関連は鉄スクラップ価格が下がり収益が改善している。ただ、グループ会社の収益はいずれも大きくは変わっておらず、通期の利益予想はすべて合わせてプラス50億円ほど上方修正している」

――海外はとりわけ中国経済の減速による影響が懸念される。

「中国は自動車産業が低調でBNAをはじめ事業会社の業績は伸び悩んでいる。中国経済の鉄鋼市場への影響は大きいが、回復は計画に織り込んでいない。ここから大きく悪化すれば別だが、今の状況が続くようであれば業績に影響することはあまりないだろう」

「インドは市場が回復している上に重要資産の買収による効果が発揮される。インドでの能力増強投資は計画通り進んでいる。タイはNS―SUSなど高級品の分野は一般鋼材市場が悪化しても直接の影響を受けにくいが、電炉のG/GJスチールは直接影響を受けている。設備トラブルを減らすノウハウや鉄スクラップから製品までのコスト管理によるマージンの確保など経営改善を進めており、年内には成果は出てくるだろう。米国はAM/NSカルバートが導入する電炉が24年上期に立ち上がる。外部購入していたスラブを内製化するので品質・コスト面で相当な効果が期待できる」

――さらに厚みを持った事業構造への取り組みについて。原料炭会社EVRへの出資がグレンコアによるEVRの親会社への買収提案で足踏みしている。

「今年2月にEVRへの出資を決めたが、グレンコアがEVRの親会社のテックの買収・統合を提案したことでテックと当社との間で協議を続けている」

――日鉄物産を4月に連結子会社化した後、新たに取り組んでいることは。

「商社機能のグループでの効率化・強化、営業ノウハウとインフラを一体活用した直接営業力の強化、サプライチェーンのさらなる高度化の3点についてシナジーを発揮しようと取り組んでいる。連結に組み入れる利益は第1四半期120億円強、通期は450億円強の見通し。持分が増えた分、組み入れる利益は当然増えるが日鉄物産自体の利益も前年より少し改善する見通しだ」

――特殊鋼棒線のグループ会社を統合する。内需が将来減少する見通しの中で他の品種でもグループ会社の再編による競争力の強化が必要なのでは。

「常に考えていることだが、どうすることで効果が得られるのか、どういう姿がよいのか、整理していく」

――「物流の2024問題」が迫る。

「荷下ろしの作業やデリバリー含め従来の慣行を見直すなど全てのステークホルダーと連携して取り組んでいかなければならない。サプライチェーン全体で起こっている問題であり、転嫁せざるを得ないコストについてもサプライチェーンの中で負担を考えていく必要がある」

――自動車会社が電気自動車の製造でアルミ鋳造一体成型の「ギガキャスト」を採用する動きがある。鉄鋼製品の需要に影響するのでは。

「自動車の全ての部品がアルミギガキャストに置き換わるわけではない。リアアンダーやフロントアンダーが対象であり、対象となる車1台に使われる鋼材の1割程度だと見ている。新規に建設するBEVの製造ラインのみに採用すると報じられているので、現時点では影響は限定的とみている。重量、コスト、開発工期、省力化、お客様での設備投資やCO2排出も含めた自動車生産トータルでの鉄素材活用のメリットを訴求すべく、お客様との協議を一層強化するとともに新たな技術開発にも一層力を入れていく。製造時のCO2排出の観点でみればアルミの方が鉄よりはるかに多く、急速に大きな変化が起こるとは考えていないが、状況はフォローしていく」

――本体海外事業の通期利益予想1200億円は来年度以降増益を期待できそうだが。将来ビジョンのグローバル粗鋼1億トンに向けた新たな買収の計画は。

「さらに上の利益水準を目指すが、インドの能力拡張の効果が出てくるのは26年と少し先であり、それまでは1000億円から1200億円の間で推移するとみている。AM/NSインディアは1500万トンへの能力拡張の投資を行っているが、インドの鉄鋼需要が現在の1億トンから2030年までに2億トンに増えると予想しているので3000万トンに増やし、最終的に5000万トンに増やしたいと考えている。そこまで能力が増えればグローバル粗鋼1億トンは見えてくる。優良な買収案件があれば検討するが、そうしなくても1億トンには届く。いつ頃に達成するのか、資金の状況をみながら投資のタイミングを計っていきたい」(植木 美知也)

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