2026年4月2日

創刊90周年記念対談 日本鉄鋼業の針路/(2)/日本鉄鋼連盟 今井正会長/産業新聞社 谷藤真澄社長/実効性ある通商措置 重要

谷藤「20世紀後半の約30年間、7億トン規模で停滞していた世界の粗鋼生産は21世紀に入って拡大し、19年に18億トンを超えた。約20年間で11億トン増えたが、生産規模を1億トンから10億トンに拡大した中国は経済が減速し、鉄鋼の大量生産と大量輸出を続け、国際需給に極めて大きな影響を与えている。中国鉄鋼業の振る舞いが変わる可能性は期待できるのか」

今井「近年の中国は、不動産不況を背景に国内需要が2020年の10億トン超から9億トンに縮小する一方、粗鋼生産は高止まりし続けている。需給ギャップの解消が減産ではなく輸出によって行われており、鋼材輸出は24年に1億トンを超え、25年は1億1900万トンと過去最高となった。不動産分野が厳しい中でも経済成長を目指しており、製造業に生産の維持という大きなプレッシャーがかかっているのは間違いなく、鉄鋼業界に対しても地方政府は雇用含め生産の維持を求めているようだ。この『内需低下×生産維持×大量輸出』という構造が、アジア市場を中心に鋼材価格を慢性的に押し下げ、24年以降の国際市況の弱含みと、世界各国の鉄鋼メーカーの収益悪化を招いている最大要因と認識している。鋼材価格は下がっているが、自動車や造船など鉄を使う産業にとってはコスト競争力を得られる面もあり、中国にとってはマイナスばかりではない。能力削減の明確な政策は見えていないが、日本の鉄鋼会社の集約再編の歴史から見て中国鋼鉄工業協会加盟社数が200社以上の中国で鉄鋼企業が適正な規模に集約されるプロセスには相当な時間がかかるとみられる。中国の過剰生産・過剰輸出問題は景気循環ではなく構造問題であり、汎用品分野における国際市況の低迷は今後も続く可能性が高い」

谷藤「非常に厳しい状況が続く中で日本は輸出競争力を維持し、一方で輸入鋼材の対策を講じる必要がある」

今井「この2年間だけでも中国の鋼材輸出に対し、各国・各地域から50件以上のアンチダンピングの動きがある。貿易立国である日本は自由貿易がベースであるが、それがゆえにアンチダンピング(AD)措置のような通商対策は控えてきた。しかしADやセーフガード(緊急輸入制限)、CVD(補助金相殺関税)はWTOのルールで認められている措置であり、国内のサプライチェーン(SC)を維持する観点から、必要な場合には政府が対策を講じていくことが重要だ。そうする中で初めて政府間交渉が成り立つと思う。既に日本政府は、打つべき通商対策は打つという方針に変わっている。鉄連としては昨年夏にAD調査に入ったニッケル系ステンレス冷延鋼板と溶融亜鉛めっき鋼板に限らず、必要な品種について必要なタイミングで通商対策を政府に求めていく。通商措置の実効性を高めるには迂回輸出の対策もセットで実施することが必要。迂回輸出対策についても既に政府に要望しており、国会審議が順調に進み、法制化され次第、活用していくことになるだろう」

谷藤「増加が見込まれる需要分野もある。国土強靭化・災害対策の必要性が急速に高まり、米国など海外のニーズに応えるために政府や造船業界は船舶の建造量を増やす方針であり、レアアース資源の開発にも取り組みつつある。データセンター、電気自動車、AIロボットなど電磁鋼板はじめ高級鋼を使用する需要産業は拡大する見通しだが、日本の産業力向上に向けて鉄鋼業が果たす役割をどのように考える」

今井「高市政権が成長戦略分野で挙げているように素材から製品に至る製造業のSCを確保しようという流れになっている。今後確実に拡大していく領域がいくつも立ち上がってきている。国土強靭化・防災投資、造船、海洋資源、データセンター、EV、AIロボットなど、いずれも鉄鋼が不可欠な産業。老朽インフラ更新や防災・減災の投資は、国として避けられないテーマであり、鉄鋼は橋梁やトンネル、護岸、公共建築物などあらゆる現場の基盤素材となる。世界で船舶需要が再び増え、日本の造船業界も建造量の増加方針を明確にしている。液化CO2や水素運搬船、レアアース開発船など、わが国の資源エネルギー・GX政策に関わる船舶には高強度厚板や高耐食鋼など日本の得意領域が不可欠であり、鉄鋼業が果たす役割は非常に大きい。データセンター、EV、AIロボットなどの次世代産業では高度な電力制御が必要であり、高性能電磁鋼板をはじめとした高級鋼の需要が高まる。この分野の日本の技術は世界トップクラス。これら成長産業の競争力を左右するのは、まさに鉄鋼の品質と供給力だ。造船業に限らず、鉄鋼業界と需要家産業との間での連携、シナジーは他国にあまり見られない日本の産業構造の強みであり、その強みを生かした日本の製造業の維持拡大は鉄鋼業においても重要な課題と思っている。脱炭素・GXについては、鉄鋼業界自身もGXスチールの供給に向けた取り組みを進めている。CO2排出量そのものが競争力になる時代であり、鉄鋼業は日本の製造業全体の国際競争力を左右する起点になる。これらの取り組みを通じて、日本の産業競争力の強化に引き続き貢献していく」











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