2025年12月10日

商社の経営戦略―事業・人財ポートフォリオ―/JFE商事 祖母井紀史社長/北米需要増へ 商機捉える/国内「売る力」強化、グループ一丸

――上期は市場が厳しさを増し、減収減益だった。

「国内は需要が低迷し、鋼材市況も低調だった。海外も米国はじめ各国の通商措置の影響を受け、苦しい状況が続いた。数量、単価ともに低下し、上期の売上高は6475億円と前年同期から680億円減少したが、セグメント利益は5億円減の219億円とそれほど大きくは落ちていない。昨年に買収した米国と豪州のSTUDCOが利益に加わるなど、トレード以外での収益力も高まっている。苦しい状況の中でも国内外で利益を維持できているのは社員全員が頑張ってくれたおかげと思っている」

――下期のセグメント利益は231億円と上期より増える予想だが、事業環境は厳しい状況が続く。収益の大きな柱である米国事業の状況は。

「セグメント利益は下期に少し増えるが、大きくは変わらない。米国は例年1ー3月に市場が上向くので悲観的にはみていないが、前提としては今の状態が続くとみている。米国の熱延市況は春に一時1000ドルを超えたがその後に軟化し、秋に800ドル強に下落した。市場は様子見が続き、関税を上げているが鋼材市況が上がってきていない。通期予想は450億円と前回予想から50億円下方修正した。トレーディングは外部要因による影響が大きく、投資による事業収益でも利益を確保していかなければならない。足元も大事だが、長期的な視点で戦略を進めていく」

――米国の薄板建材事業会社2社の今後の成長戦略は。

「建材市場が低調なため、CEMCOの販売数量は昨年と比べて減少している。昨年に買収したSTUDCOはいろいろな品種の製品を持っており、市況の影響を受けづらい。2社の強みを掛け合わせてシナジーを追求し、さらに付加価値を提供していきたいと考えている」

――鋼管事業のケリーパイプとVESTはやや苦戦しているが、改善の見通しは。

「鋼管を在庫販売するケリーはエネルギー市場がやや低調で業績が低下しており、在庫の適正管理などコストを抑えている。溶接鋼管製造のVESTも市場環境はよくないが、原板の調達先のCSIが近くにあり、競争優位性を確保している」

――カナダとメキシコで電磁鋼板を加工し、モーターコアを米国に供給している。関税影響など北米ビジネスについては。

「米国の関税影響については、メキシコとカナダの加工拠点から米国向けに電磁鋼板を加工したモーターコアにも50%の関税がかかっている。現時点では大きな影響は出ていないが、米国内材の使用増や、USMCAの動向、海外からの製品での輸入等、サプライチェーンが変化していく可能性があるので、今後も状況を注視していく。米国内での電磁鋼板の投資は関税や市場の状況を見極める必要がある。ただ米国が有望なマーケットであることは間違いない。現在はカナダとメキシコが加工拠点だが、米国内も含めて需要増への対応を検討していく。また、米国では資機材関連など鉄以外の商売も可能性がある」

――JFE商事鋼管管材が丸八鋼管の事業を買収するなど流通の再編・強化を推し進めている。

「国内を筋肉質にするためには流通の強化も重要だ。加工能力は十分足りているので強化するのは『売る力』だ。大型サイズのパイプを調達し在庫販売できる流通は限られ、丸八鋼管がグループに加わったことで販売力が強化された。流通の効率化は買収だけでなく、事業の分担も進めていく。需要の減少や人手の問題もあり、商社系、オーナー系含め互いに機能を生かしながら効率化し、課題を解決していきたい」

――JFEスチールによる大和工業やヨドコウとの協業に関連して協力することは。

「それぞれの協業について直接関わることはないが、チャンスがあればいろいろと連携していきたい。メーカーの戦略に応えていくためにも売る力を鍛えていく」

――JFEグループとして洋上風力発電の事業に力を入れ、JFE商事も新たな事業に乗り出している。

「洋上風力はJFEグループ全体で取り組んでおり、当社は洋上風力発電産業における『国産化・地域経済に貢献するサプライチェーンの構築』を課題として掲げ、事業検討を進めてきた。7月に秋田県男鹿市に地場の企業と共同で設立したJFE商事秋田オフショアマテリアルズは洋上風力向けの洗掘防止材を製造し、ジャストインタイムで供給する。鉄鋼スラグの活用を通じて海域環境の再生やカーボンニュートラルに貢献するだけでなく、地域活性化にもつなげていく。来年4月に立ち上げ予定だ。東北でいえば、青森県のグループ会社の鉄骨ファブリケーターである三輪鉄建が11月に新工場を竣工し、最新の設備も導入した。事業の成長を図りながら、地域の発展にも寄与していきたい」

――JFEスチールの倉敷地区の革新電炉の立ち上げに向けて、鉄スクラップの調達量を増やす体制を強化している。

「鉄スクラップの発生は東日本が多く、西日本に供給するための体制を整備する。鉄スクラップの事業は当社単独ではなくJFEグループの事業として取り組み、グループのネットワークを通じて集めていく。各地域のリサイクル業者との関係も大事にしながら調達・納入の体制を強くする。ニーズに合ったスクラップを安定的に調達することが重要であり、グループ全体で対応していく」

――基幹システム刷新の進捗は。

「今年1月に発足した業務プロセス刷新班が中心となり、業務の棚卸しを進めている段階。重複している業務の解消など、まずは業務改善を優先して進めていく」

――重点地域のインドの事業強化策は。

「通商政策で海外材を遮断しているが、それでも安価な海外材の影響を受けている。経済成長に伴って市場の拡大が続くので、JFE材だけでなくインド国内で製造された鋼材をいかに加工し、サプライチェーンを組んでいくか。方向性電磁鋼板については加工拠点のJSIの加工能力を強化している。鉄鋼製品だけではなく、鉄鋼用再生アルミ脱酸剤メーカーのARFINに出資したように、インドの市場拡大に応じ、必要なサービスを提供していく」

――加工拠点を展開するASEANは米国と中国の影響を大きく受け、鉄鋼市場が浮上してこない。中国の加工拠点も厳しい状況が続いている。

「米国の関税、中国からの鋼材流入により、ASEANの事業環境は厳しい。中国も国内の加工センターとの競争が厳しい。この地域は日本からの輸出が厳しくなってきており、インサイダー化をより一層進めていく必要がある。域内のミルを活用することでトレードを増やしていくと同時に、鋼材以外(原材料・資機材)でのビジネスも広げたい」

――セルビアに建設した電磁鋼板の新加工拠点は年度内に稼働を始める。

「セルビアは人の質が高く、政府も協力してくれている。設備は全て取り付けが完了している。最終的な製造テスト、作業員の訓練などを行い、需要家からの承認取得も進めており、今年度中には本格生産に入る予定だ」

――人財戦略について。人事制度、育成制度に変更は。

「人事制度の見直しを進めている。特に評価について誰がどう評価しているか、何が評価されるのかを明確にし、互いに納得しながら取り組むことが大事だ。異動して幅広く経験を積むことは重要であり、部門を越えた異動を柔軟にし、組織の壁を低くしていく。コミュニケーションについても上司と部下、役員と社員の距離を縮めていく。新しいことを始めたり挑戦したりするためには組織間の壁を低くすることが大事。企業文化や企業風土の変革の肝であり、すでに会話を増やす取り組みを始め、仕組みや機会も増やしていく」

――新卒採用とキャリア採用の状況は。

「JFE商事単体で新卒を毎年40―50人採用している。キャリア採用も年々増やしており、事業に必要なキャリアを持つ方を採用し、働きやすい環境を整え、活躍の場を広げていく」

――グローバルで活躍する人材がより求められる。

「社員それぞれに合ったキャリアプランを組み立て、国内外で幅広く活躍できる場を整えていく。海外拠点が増え、海外赴任のチャンスは増えている。社員数は単体1000人、グループ会社3000人、海外5000人の合計9000人。グループ会社社員や海外のナショナルスタッフに活躍してもらうことが重要であり、取り組みを進めている」(植木 美知也)







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