2025年7月23日

商社の経営戦略/10年先を見据えて/JFE商事 祖母井紀史社長/海外、薄板建材の拡大図る/国内、鉄スクラップ供給網強化

――JFEグループ中核商社の社長に就任した抱負から。

「トレードと事業、国内と海外、JFEグループとの共同展開とJFE商事独自で展開すること、これら3つの両輪、6輪すべてを経営環境の変化に応じて効果的、効率的に動かすことで中核商社としての機能を最大限に発揮できる。そこで最大の財産である人、社員が能力を発揮できる環境を整え、明るく元気な企業風土を醸成し、社員の成長を商社機能の拡充、事業領域や規模、収益の拡大に結びつけていく好循環を創出していきたい」

――JFEグループは長期ビジョン「JFE2035」を策定したが、JFE商事の将来のあり姿は。

「JFEグループが持つ技術力や信用力などのブランド力を活かし、伸びる海外を成長の柱に据えて成長を続ける、しなやかで強い商社を目指す。『挑戦』と『変革』をキーワードに新しい仕組みを考案し、実行する企業風土を定着させていく。JFEグループとして2035年の事業利益7000億円を目標に掲げている。JFE商事は事業利益1000億円を目指し、あり姿の実現に向けて10年間で4000億円の投資を行う」

――JFE商事のパーパス「世界をつなぐ。鉄でつなぐ。」を策定した。

「商社として、ヒト、モノ、機能をつなぐことでサプライチェーンを創出し、ソリューションや新しい価値を提供していく。ネットワークを世界中に広げ、取引先をはじめとするステークホルダーの未来を明るいものとし、より豊かな社会づくりに貢献していく。そうした商社としての存在意義を共有し、常に社員が挑戦を続け、変革を図り、成長の実現を目指す会社、企業風土づくりに取り組んでいく」

――長期ビジョン実現に向けて第1フェーズとなる第8次中期経営計画(25-27年度)の基本方針を。

「経営基盤の刷新、国内市場における存在感の向上、海外市場における事業拡大の三つを重要戦略として取り組む」

――まず経営基盤の刷新について。

「業務プロセスを見直し、基幹システムを刷新して効率化を徹底追求し、創出したリソースを成長戦略に振り向けていく。権限を委譲し、規程やガバナンス体制も見直すことで意思決定の迅速化を図る。挑戦を続ける企業風土を定着させるための組織改革や人材活用策も推し進める。その結果として、社員が時間や気持ちに余裕をもって仕事に取り組み、働き甲斐を感じながら、趣味や家庭生活も充実できる環境を整えてきたい」

――国内戦略は。

「JFEグループの中核商社として、数量にこだわり、機能や付加価値を高めていくことで、それぞれの市場・分野における絶対的な存在感の確立に取り組む。需要構造変化を見極めながら、加工・販売拠点の再編を含め効率的で筋肉質な運営体制を構築。需要が縮小を続ける中、自前主義から脱却し、JFE商事の枠を超えて是々非々で構造改革を進めていく。地域戦略としては各地域の需要開拓を推進する。JFEスチールが西日本製鉄所倉敷地区で稼働させる革新電気炉に対応する鉄スクラップなどのサプライチェーン強化とグリーン鋼材の販売力強化も重要なテーマとなる。鉄スクラップについては良質な原料を安定供給する仕組みを構築する必要がある」

――グループ会社の機能強化を進めている。

「JFE商事鋼管管材(JKK)が丸八鋼管の事業を継承した。同社は1952年創業の鋼管問屋で浦安と仙台に拠点を持ち、中大径サイズを中心に東日本ではトップクラスの在庫量と加工能力を持つ。JKKとしては、西日本のグループ会社である星金属とも連携し、国土強靭化案件、半導体関連施設やデータセンター向けの需要を広くカバーしてく態勢を整える。トーセンの子会社で、青森県の胴縁母屋専業ファブリケータ―の三輪鉄建が本社隣接地で新工場建設工事を開始した。最新鋭設備を導入して、鉄骨二次部材の加工機能を追加し、同社の秋田工場、トーセンの東北加工拠点との連携を強化することで東北エリアの需要を捕捉していく。JFE商事テールワンが、大阪府で土木商材を扱うエスティエンジニアリングを子会社化した。グループ化によって道路分野を得意とするテールアルメ工法にフィックスパイルやソイルネイルなどの工法をラインナップに加えることで地盤・斜面分野の事業を拡大していく」

――海外戦略について。

「北米、豪州、インド、欧州を重点地域と位置付けている。M&Aを絡め、加工・物流拠点を拡充するための投資を行いながら、インサイダー化による現地完結型のビジネスを拡充していく。強みを持つ電磁鋼板、自動車分野での加工・物流機能の拡充に加え、新たに薄板建材事業の拡大も図っていく」

――北米は事業拡大を続けている。

「CEMCO、Studcoの買収によって米国における薄板建材の事業基盤を確立した。電磁鋼板はメキシコ、カナダの加工・物流拠点の機能・能力増強を続けている。トランプ政権の関税政策など先行きが極めて不透明で慎重にならざるを得ないが、中長期の成長戦略として既存事業の延長線上でM&Aを絡めながら現地完結型のビジネスを拡大していきたい。」

――インドは原料分野の投資を実施した。

「電磁鋼板の加工・物流事業に加えて、現地のアルミ脱酸剤メーカーに出資した。JFEスチールが出資する現地大手高炉のJSWスチールとも連携しながら、インサイダーとして伸びる現地需要を捕捉していくビジネスモデルを構築していきたい」

――豪州、欧州も事業拠点を確保した。

「豪州はStudcoを起点とし、事業拡大のチャンスを窺っていく。セルビアに開設した電磁鋼板の加工・販売会社の機能を活用しながら欧州市場を開拓していく」

――JFEグループ以外の商品も取り扱いを増やしていく。

「国内ではJFEスチールの生産量が減り、品種構成も変化していく。JFEグループとしての供給責任を果たし続けるため、取引先の要望に合わせ、調達先を広げていく」

――JFEスチールが大和工業、淀川製鋼所と提携した。

「それぞれ取引はあるが、JFEスチールの戦略と同期し、新たなビジネスチャンスがあれば進めていく」

――前中計の事業利益は21年度559億円、22年度651億円、23年度489億円と推移した。

「24年度は479億円で、内訳は海外244億円、国内235億円だった。5月に買収した米豪Studcoからの収益取り込み、電磁鋼板市況上昇による海外コイルセンター事業のスプレッド改善などで海外グループ会社は増益。一方、国内グループ会社は建設分野の低迷が続いたため減益。JFE商事単体は円安効果があったもののアジア向け取引減などで減益となった。本年度は、地政学リスクなどによる不透明感の高まりに加え、国内建築分野の低迷、中国経済の停滞が続くと想定。米国の保護貿易政策による北米の鋼材市況上昇、国内グループ会社のスプレッド改善・合理化促進による収益回復を織り込み、500億円への一部回復を見込んでいる」

――実力ベースの稼ぐ力をどう分析しているのか。

「一過性要因を除いた実力は450―500億円。中計最終27年度の事業利益目標を国内事業250億円、海外事業350億円の600億円と設定している」

――前中計は4年間で1274億円の設備投資・事業投融資を実施した。

「今中計は3年間で1100億円の投融資を計画し、システムや設備の劣化更新に250億円、成長のための事業投融資に850億円を振り向ける」(谷藤 真澄)

【プロフィル】

▽祖母井紀史(うばがい・よしふみ)氏=1987年一橋大法卒、川崎製鉄(現・JFEスチール)入社。水島製鉄所(現・西日本製鉄所倉敷地区)に配属され、条鋼・厚板・製鋼・熱延工場の工程管理など製造現場を11年間にわたり幅広く経験。その後は営業に移り、2011年から営業総括室長、薄板営業部長、厚板営業部長、関連企業部長を歴任。18年に常務、22年に専務に昇格し、23年副社長に就任。「水島での寮生活時代、統合前後の営業総括時代に多くの人々と出会い、様々な経験を積み重ねることができた」と振り返る。本年4月、JFE商事社長に就任した。「仕事は厳しく、人には優しく」を心がけ、「現状維持は衰退の始まり。今をよしとせず、疑問を持ち、考え抜くことを習慣づけてほしい。工夫を重ね、仕事を楽しんでいればポジティブに見えるし、成果もついてくる」と社員に呼びかけている。家族は妻と一女。週末はゴルフや温泉巡りで心身をリフレッシュ。愛媛県出身、65年3月4日生まれ。







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