「日本政府が1956年の経済白書で『もはや戦後ではない』と宣言し、大企業は成長軌道を歩み始めたものの、産業基盤を支える中小企業が追随できず、勢いがつかなかった。そうした中、関西経済連合会が中小企業を育成する団体の設立を60年に政府に要望。63年6月に『中小企業投資育成株式会社法』が制定され、大阪、名古屋、東京にそれぞれ中小企業投資育成株式会社が設立された。発祥というと語弊があるかも知れないが、東大阪エリアなどに高い競争力を持つ中小企業が多く、大阪が端緒を開いたといえる。当初は製造業のみが対象だったが、86年には対象業種を撤廃し、製造業から卸売業、サービス業などすべての業種を網羅する現在の体制になった」
――事業内容は。
「中小企業投資育成株式会社法に『中小企業の自己資本の充実を促進し、その健全な成長発展を図るため、中小企業に対する投資等の事業を行うことを目的とする』と明記されている。投資を通じて、成長意欲がある企業の資金の支援や経営承継のお手伝いをしている」
――一般的な投資会社との違いは。
「ベンチャーキャピタルに代表される一般の投資会社は、例えば出資後5年内に上場することなどとの条件をつけ、M&Aなども勧めながらキャピタルゲインを求めるビジネスモデル。われわれは中小企業の成長が日本の産業界の発展につながるという趣旨で出資し、長期安定株主として配当をいただきながら、堅実な成長を支えていくビジネスモデル。上場を希望される場合はもちろん支援するが、上場やM&Aによる売却を求めることは一切ない」
――投資育成会社としての特徴を。「『長期安定株主』『経営干渉しない』『良き相談相手』の三つ」
――企業にとってのメリットは。
「円滑な経営承継、経営権の安定化、経営の非同族化、信用力の向上などを挙げることができる。例えば中小企業の場合、設立経緯などから、株式が分散していることが多く、株主が多いため安定した経営が難しくなることがある。そのような場合は、われわれがある程度の比率の増資新株を引き受けて安定株主となることで、経営陣による安定した経営体制を構築できる。また経営承継のタイミングを迎える企業で、創業者など先代社長の保有株式の継承がスムーズに進まない場合、われわれが後継者の意向を踏まえた安定株主となることで、円滑な新経営体制への移行を支援している。経営承継に関わらず、成長投資の資金が必要なケースであれば、増資をわれわれが引き受けることで事業拡大や新たな成長戦略の機会を提供することができる」
――出資の条件は。
「中小企業投資育成株式会社法に基づき、原則として資本金が3億円以下の企業が対象となる。ただし、長期保有が前提なので、出資の判断にあたっては、将来にわたる成長性や収益力、経営者の考え方を重視しており、相応の審査が必要となる」
――産業新聞社は2011年に出資を得たが、信用力も高まった。
「投資先企業には優良企業が多く、また公的機関である投資育成会社の出資を受け入れることで、より開かれた企業としてのイメージが高まり、対外的な信用力の向上につながったのであればうれしい」
――大阪中小企業投資育成は、西日本全域をカバーする。
「福井県と近畿、中国・四国、九州・沖縄の24府県で事業を展開している。設立時から社名が法律で決められていて、姉妹会社の東京中小企業投資育成が新潟、長野、静岡以東の18都道県、名古屋中小企業投資育成は愛知・岐阜・三重・石川・富山の5県をそれぞれカバーしている」
――投資先は拡大している。
「73年に200社を超え、93年に約500社となり、2018年に1000社を超え、現在は1253社となっている。大阪府が524社と最も多く、兵庫県が152社、福岡県が79社、岡山県が60社、京都府が58社、広島県が45社。その他の県は多くが10社から20社で、沖縄県も18社ある」
――業種も幅広い。
「製造業が663社と5割強を占め、卸売業が275社、建設業が106社、サービス業が78社で、小売・飲食、運輸、不動産、ソフトウェアなど多様な企業に出資している」
――鉄鋼業、非鉄業が多い。
「鉄鋼業を含む『非鉄金属及び金属製品』は製造業で169社、卸売業で34社。鉄鋼では安治川鉄工、ヰゲタ鋼管工業、協同シヤフト、山陽工業、三幸商事、草川鉄工、新興刃物、TOKO、非鉄では尼崎パイプ製作所、扇谷、大阪合金工業所、和伸工業、アルミネ、三和金属、メタルドゥ、ナカシマホールディングス、冨士発條などに出資している」
――企業規模も様々。
「直近5期の新規投資先企業では、売上規模でいうと5億円以上10億円未満が39社、10億円以上20億円未満が31社で、20億円以上が約60社あって、うち100億円以上が3社、200億円以上も3社ある」
――どのようなかたちで増やしているのか。
「金融機関や税理士、投資先企業からの紹介のほか、個別企業からの相談もあり、ケースは様々」
経営者集う交流の場提供 自主性尊重、経営干渉せず
――投資先企業の収益力は総じて高い。「2025年3月期の投資先企業の平均業績は、売上総利益率が21・8%、営業利益率が5・1%、経常利益率は6・2%、当期利益率が4・1%で、売上高を含めて前期比で増加・改善している。新型コロナウイルスの蔓延時は未曽有の危機といわれたが、投資先企業の多くが安定経営を続けていた。企業としての足腰が強く、うまく経営のかじ取りをされたのだろうと推察している」
――収益源は。
「投資先企業からの配当収入が収益源となっている」
――経営には口出しをしない。
「投資先企業の経営について自主性を尊重することが設立以来約60年にわたり一貫したわれわれの基本方針であり、経営干渉はしない」
――経営者交流会「年輪会」など投資先企業の交流の場も多く提供している。
「年2回の『年輪会総会』には、500社を超える投資先企業から社長をはじめとする経営陣が参加し、業種や地域を越えて親睦を深めている。交流会の場では、事業拡大を目指す企業向けに商品や技術をPRできる特設ブースの提供を新たに開始し、好評を得ている。年輪会総会以外にも、2カ月に一回程度のペースでテーマごとの講演会や交流会を開催しているほか、地域ごとのイベントでも活発な情報交換が行われており、ネットワークづくりやビジネスマッチングの場として広く活用されている。社長後継者の啓発・交流会『新輪会』でも、共通の悩みを持つ跡継ぎ同士、毎回熱心な意見交換が交わされている」
――セミナーや勉強会にとどまらず、幅広い成長支援メニューを提供している。「人材育成の面では、新入社員から経営層まで各階層に対応した階層別のビジネススクールを開講している。セミナーでは、労務や財務といった定番テーマに加え、急速に普及が進むAIの活用や、採用・定着(離職防止)といった人材関連など、投資先企業のリアルなニーズに即応したコンテンツ展開を心掛けている。また、個々の投資先企業が抱える課題解決にも注力しており、中小企業診断士などの外部専門家と連携し経営課題の整理を行う『経営の健康診断サービス』や、弁護士や税理士などによる『専門家無料相談』を実施している。近年、特に力を入れているのが産学連携で、大阪公立大学、立命館大学、関西大学、近畿大学、龍谷大学などと連携し、講義への投資先経営者の登壇などの企画を通じて企業と大学との接点を提供している。投資先企業への採用活動支援としては、投資先企業だけが掲載できる採用情報発信サイト『トーイク就活~優良中小企業発見サイト~』を運営し、中小企業ならではの魅力を発信している」
――改めて中小企業の存在、機能について。
「日本の産業構造は、企業数の99%、雇用者数の70%を占める中小企業で成り立っており、まさに中小企業ならではの機能が日本の国際競争力を維持・強化してきた。前職ではオマーンに駐在していたが、アラブの砂漠を走る車の8割が日本車。エンジン回りや足回りがしっかりしていて、米国車や欧州車では太刀打ちできない。日本の自動車業界は、数多くの優秀な部品産業や素材産業に支えられて競争力を高め、収益を拡大している」
――足下の課題は。
「日本という天然資源が限られた国において、イノベーションの情熱とスキルが中小企業ならではの強みであり、国際競争力のドライビングフォースとなっている。経済・社会情勢、事業環境が大きく変化しているが、日本の中小企業のパワーを減退させてはならない。中小企業が自立し、安定した経営基盤を維持できるよう、われわれとしては投資先の成長支援に軸足を移している」
――中小企業に寄せる期待を。
「中小企業が商品開発力や機動力などの機能や強みを発揮し、日本経済を牽引し続けることを期待している。そのためにも独創性がある高付加価値商品を開発・生産し、コスト積み上げ方式の価格設定方式から脱却し、商品価値に見合った価格を設定することで、経営の自律性と安定性を確保してほしい。欧州、とくにイタリアは自律的な値決め方針を徹底している中小企業が多い。日本の中小企業には力がある。自信とプライドをもって価値を提供し、その心意気を世に問うてほしい」(谷藤 真澄)
【プロフィル】
▽小林利典(こばやし・としのり)氏=1984年東大法卒、通商産業省(現・経済産業省)入省。通商政策局国際経済課長、産業技術環境局産業技術政策課長、内閣府行政刷新会議事務局総括参事官などを経て、近畿経済産業局長、中小企業庁次長、商工組合中央金庫執行役員、駐オマーン特命全権大使を歴任し、2022年6月から現職。


























