2019年4月2日

新社長に聞く JFEスチール 北野嘉久氏 安定操業・生産・供給を徹底 19年度、粗鋼2900万トンに再挑戦

――新社長としての抱負から。

「鉄は強度、コスト、リサイクルなど多くの面での高い特性を持つ素材であり、建築・土木、自動車をはじめとする製造業など多岐にわたる分野のさまざまな用途で使われている。社長に就任するにあたって、鉄鋼製品を開発・生産するグローバル企業であることの誇りと責務をJFEスチールグループの全社員と共有し、持続的成長を実現していきたいと気を引き締めている」

――経営環境認識を。

「足元の市場環境は決して悪くない。国内は東京五輪やインバウンド需要への対応、国土強靭化対策などで土木・建築分野の需要が好調。自動車は18年度下期から19年度上期で見ると、年間1000万台を超える生産を見込んでおり、製造業分野も総じて堅調。海外では米中貿易摩擦、ブレグジットなど政治的な懸念材料が多く、予断を許さないが、東南アジアなど新興国、インドは一定の経済成長が見込まれており、世界の鉄鋼需要は確実に拡大を続ける」

――経営課題は。

「安定操業、安定生産、安定供給に努め、失いかけている信頼を取り戻すことが喫緊の経営課題となっている。自動車、インフラ建材、エネルギーの重点3分野をターゲットに第6次中期経営計画(18―20年度)で掲げた施策、テーマを確実に実行していく」

――第6次中計では製造実力の強靭化をテーマに掲げ、3年間8500億円の国内設備投資を計画する。

「操業トラブル対応を急ぐとともに設備投資計画を予定通り進めている。安定操業に向けて技術・技能の継承を確実に進めつつ、最新ITの導入により、事故の予見・防止をはじめ、技術・技能継承や老朽設備への対応を補完する。西日本製鉄所2150―2200万トン、東日本製鉄所800―850万トンのスケール感で競争力を強化していく。東日本は、主に名古屋より東の国内需要に応える機能を担っており、コスト競争力の強化が課題。西日本は輸出比率が高く、東南アジアを中心に伸びる海外需要を捕捉するための能力増強がテーマとなる」

――単独粗鋼3000万トンを目標に掲げる。

「18年度は2900万トンを目指したが、結果は2700万トンを下回る。設備・操業トラブルに自然災害の影響が加わって、計画比で大幅な減産となった。19年度は安定操業、防災対策を徹底し、2900万トンに再挑戦する。西日本製鉄所倉敷地区で建設中の連続鋳造機が20年度下期に稼働すれば出銑能力を最大限活用でき、粗鋼3000万トンの体制が整う」

――高炉は稼働する8基のうち3基で操業トラブルが続いた。

「3基とも通常レベルの操業に戻っている。新設した対策チームで不調となった原因の調査を追求し、対策も打っている。残る5基には問題はない」

――製銑原料のボトルネック対応は。

「コークスは東日本の老朽設備更新完了によって全量自給化が可能となった。西日本・福山地区の第3炉の更新工事を21年に終えると競争力をさらに強化できる。焼結鉱は、本年度内に福山の第3焼結の全面更新工事が完了し、20年には京浜の機長延長工事を進め、フィリピン・シンター・コーポレーションの能力も増強中で、ボトルネックの解消が進む」

――高炉プロセスの競争力を徹底的に強化する。

「世界の粗鋼生産量18億トンのうち7割強が高炉で、3割弱が電炉。鉄スクラップ備蓄量は中国はじめ世界中で増えているが、GDPが数%ずつ伸び、例えば、2050年では年間25億トンを超える粗鋼が必要と想定している。備蓄スクラップによる電炉プロセスだけでは賄えず、十数億トンの高炉プロセスによる生産が不可欠と試算している。加えて、今般ISOで規定したLCA計算方式によると高炉も電炉もCO2排出はLCAで見れば同じだということだ。従って、高炉でのCOURSE50などの革新的技術開発や、ゼロカーボン・スチールへの挑戦は大切な視点と考えている」

――電炉プロセスによるアプローチも進める。

「JFE条鋼の仙台製造所を現在はJFEスチールの棒線製造拠点として倉敷地区と一体運営している。JFE条鋼や環境調和型の電炉『エコアーク』プロセスを開発したグループ会社のスチールプランテックを含めて、冷鉄源の活用法としての電炉プロセスの技術革新をグループ一丸となって進めていく」

――京浜には年産能力50万トンのシャフト炉も持つ。

「リターン・スクラップに購入スクラップを加えてフル操業を続けている。フレキシビリティのある冷鉄源溶解法として生産効率アップ、コスト削減を追求していく」

――第6次中計では、海外成長戦略もテーマに掲げる。

「インドのJSW、中国、タイの自動車鋼板事業は全社収益に貢献している。インドネシアの自動車鋼板事業もフル操業に近づいている。UAEのアル・ガービアはAPI規格を取得、まもなく溶接大径管の商業生産を開始する。他にも中国の鉄粉事業が昨年立ち上がり、今年はメキシコの自動車用鋼板事業、来年にはミャンマーの建設用鋼板事業が立ち上がる。インドでは、15%出資するJSWが信頼できるパートナーとして着実に事業拡大を進めており、われわれもインサイダーとして拡大する需要を捕捉していく」

――また中計では最先端技術による成長戦略の推進を施策の一つに掲げる。重点3分野の成長戦略について。

「まず自動車分野は100年に一度のイノベーションを迎えている。伸びるEV、電動車関連需要をいかに捕捉するかが大きな課題。車体軽量化対応としてのハイテン鋼板と複合材料の提供、モーター用の電磁鋼板の高性能化などの商品開発を急ぐ」

――インフラ建材は。

「東南アジア市場がターゲットとなる。ベトナムではスパイラル鋼管、重仮設資材などJFEグループで建設分野へのアプローチを強化している。新興国では自国産化が進むため、先行する技術を供与しつつ、一部出資するベトナムのFHSの高炉鉄源も活用しながら、伸びる需要を捕捉していく」

――エネルギー分野は。

「知多製造所は、高級シームレスパイプの製造技術を磨き、設備増強の上品種構成を高度化していく。倉敷の新連鋳により、エネルギー分野向けの製品ラインアップも拡充することができる。アル・ガービア、米国のCSIの電縫管などグローバルネットワークを活用していく」

――IT戦略の一環として進める製鉄所の新・基幹システムの進捗状況は。

「第5次中計期間に着手し、第6次から第7次中計にかけて全面刷新する計画。AIやIoTなどの先進IT開発も含めて10年スパンで総額1000億円を超える規模の投資を実行する。システム化や自動化は製鉄業にとって重要なテーマとなる。生産・出荷に関わる情報を収集するセンサーの設置、収集したビッグデータの通信技術、解析技術を整備し、経験や勘に頼っていたノウハウをリアルタイムで『見える化』。世界の他の鉄鋼メーカーに先行し、技術継承、情報管理、トラブル予測、故障・事故防止などに活用し、安定生産、収益拡大、働き方改革に結び付けていく」

――具体的施策を。

「IT改革推進部、製鉄所業務プロセス改革班、データサイエンスプロジェクト部の3部体制で世界の最先端の開発動向をにらみながら活用方法を選択していく。研究所でも計測制御、機械、数値解析の3研究部を統合し、『サイバーフィジカルシステム研究開発部』を4月1日付で新設した。IT技術が急速に進歩する中、AI、ロボティクス、ハイパフォーマンスコンピューティングなどの先進技術を従来の枠組みを超えるかたちで活用し、一体的な要素研究活動を行う。データサイエンス関連技術を持つ他部門との連携も深めながら、シナジー効果を発揮し、サイバーフィジカルシステムを基軸に生産技術の革新を目指す」

――人材育成がテーマとなる。

「最新ITを使いこなすには幅広い人材が必要となる。データサイエンティストを先駆者、伝道者、活用者、利用者の4階層に分けて、採用と育成を急いでいる。トップクラスに当たる先駆者を50人規模にまで育成する。プログラミングのためのアルゴリズムを整理できる技術者をサイバーフィジカル研究開発部などで育成。開発した技術を現場で使いこなすための伝道者を200人規模にまで育成。さらに、その技術活用を広める活用者、確実に運用できる利用者を育てていく」

――商社機能について。

「商社とのサプライチェーンは日本の鉄鋼メーカーの強みの一つであり、期待するところは大きい。世界の潮流の変化を見据えながら、鉄鋼需要拡大につながる新しいビジネスを一緒に創出していきたい」

――中計では連結経常利益2200億円を目標に掲げる。前期決算(見込み)は1600億円で、一過性要因を除いた実力利益は1870億円だった。

「生産量をまず2900万トンレベルに引き上げ、副原料・物流などのコスト負担増も踏まえ、持続的な成長を可能とする収益水準の確保に向け販売価格への反映に取り組んでいく」

――20年度以降を見据えたJFEブランド5000の実現に向けて。

「日本の鉄鋼メーカーの技術は高く評価されている。伸びる海外市場で信頼できる現地パートナーとともにブランドを広げていく」

――世界最大の電炉メーカー、ニューコアとの連携強化は。

「信頼できるパートナーであり、Win・Winとなるビジネスチャンスを創出していきたい」

――JFE条鋼も海外事業を検討中。

「建設用鋼材は地産地消にシフトしていく。JFEグループ全体で海外需要を捕捉していく」

――最後に目指す企業像を。

「会社の諸課題を克服していく原動力は社員の活力。JFEグループの行動規範は『挑戦。柔軟。誠実。』。社員達は誠実で、柔軟性もあると思うが、挑戦する情熱をより持たせていきたい。社員が生き生きと新しいことに挑戦する活力ある会社にしていきたい」

(谷藤 真澄)