2024年1月15日

日本製鉄トップ人事 社長兼COOに今井氏、橋本氏は会長兼CEO 成長戦略と脱炭素加速

 日本製鉄は12日、今井正副社長(60)が4月1日付で代表取締役社長兼COOに昇格し、橋本英二社長(68)が代表取締役会長兼CEOに就任するトップ人事を決めたと発表した。今井次期社長は長期ビジョン「グローバル粗鋼1億トン、連結事業利益1兆円」達成と総合力世界ナンバーワンの鉄鋼メーカーへの復権に向け、米USスチール買収やインドでの高炉一貫製鉄事業拡大に挑み、海外鉱山投資や日鉄物産の連結子会社化の効果発揮で高収益の確保に臨む。技術や経営企画で培った幅広い知見・経験を生かし、成長戦略とカーボンニュートラルの対策を大きく前に進める。

 都内の本社で同日に開いた会見で今井次期社長は「国内外のより拡大された一貫生産構造の中で安定した収益を出せるかがタテ軸。海外の成長マーケットで一貫生産でインサイダーとなるグローバル展開のヨコ軸とかみ合えば総合力世界ナンバーワンを実現できる。タテ軸とヨコ軸の交差点は国内製鉄事業だが脱炭素含め相当重い課題を背負っている。この5年間作り上げてきた収益力をいかに継続していくか、自分で解いていかなければならない」と目標への道筋と決意を示した。

 橋本社長は会見で「生産設備体制の具体的な対策を常務時代に描き、副社長としてGX推進本部長を務め、脱炭素を乗り越える力は世界のエンジニアを集めても今井の上をいく人はいない」と今井次期社長を評価した。

 新日鉄住金発足時に宗岡正二会長兼CEO、友野宏社長兼COOの両輪で統合会社を軌道に乗せた。「今回の体制は当時と異なる。新たな課題に対しさまざまな手を打っているが、この数年が勝負であり当社の将来が決まる。原料炭鉱山やUSスチール買収の実行に入るのが2024年度であり、大きなチャレンジをする時に連続性もあり、CEOとして経営責任を負うのが良いと考えた」(橋本社長)。海外投資や脱炭素の取り組みなど将来を左右する課題が多い上に地政学的リスクが高まる中で総力を尽くす。

 橋本社長は19年4月に社名を新日鉄住金から変更した日本製鉄の初代社長として同4月に就任。「鉄鋼メーカーとして総合力、企業価値で世界トップの地位を回復し、いかなる経営環境においてもその地位を維持できるよう確実な競争優位性を早期に確立する」との考えでスタートしたが低調な国内需要による粗鋼生産の減少とコスト負担で19年度は大幅な赤字に陥った。

 「ここ数年の実力不足の累計と反省せざるを得ない。製鉄所の減損や国内外事業の減損も同様。なぜ、うみがたまったのか把握し、二度とうみをためない」(橋本社長)と改革に乗り出す。20年に製鉄所の再編を打ち出し、「つくる力」の再強化に取りかかった。

 コロナ禍による需要減少に見舞われ、粗鋼生産の大幅な削減を余儀なくされたが国内外で設備休止などコスト削減を進め、全社・全グループをけん引して20年度に黒字転換とV字回復を果たす。「1億トンなければ名実ともにトップに立てない」と21年4月開始の中長期経営計画(21―25年度)で「国内製鉄事業の再構築」「グローバル粗鋼1億トン体制」「2050年カーボンニュートラル」を柱に、収益構造の強化をけん引した。

 高炉休止を伴う抜本的な生産設備構造対策を推し進め、高炉15基を24年度末までに5基休止して10基に減らす計画。生産能力を絞った上で、ひも付き鋼材販売価格の是正に取り組み、契約期間短縮・価格決定時期の前倒し、注文構成の高度化を進め、収益構造を大きく変えた。21年度は連結事業利益9381億円と統合後14年度以降の最高を記録。22年度は部品供給制約による自動車減産などで粗鋼生産は落ち込むが販価是正などスプレッドを大幅に改善し、連結事業利益9164億円、実力ベースの同利益は7340億円と高収益を持続した。

 23年度は厚みを持った事業構造への進化に取り組み、日鉄物産を連結子会社化し、グループ事業の効率化や成長投資を一体で推進。未曽有の厳しい経営環境による低生産の中でも改革の成果を得て実力の連結事業利益は8400億円と過去最高を見込む。脱炭素に向けて高品質の原料炭を確保する必要からカナダの資源会社への出資を決定。タイの電炉を22年に買収し、ASEAN市場を捕捉する体制を強化し、インドではAM/NSインディアの既存製鉄所の拡張を進め、新製鉄所の建設も計画している。

 昨年12月にUSS買収を決め、約2兆円を投じて成長する米国市場に足掛かりを築く。粗鋼は近い将来1億トンを超える見通しだが、「成長と世の中の役に立つ観点で考えるのが経営であり、(買収は)これで終わりというわけではない」と橋本社長は先を見据え、今井次期社長とともに挑戦を続ける。

 脱炭素は長期にわたって膨大な資金を要する。経済安全保障も考慮し国際競争力と収益を持続する施策の具体化を急ぐ。橋本社長を長年支え、意見も戦わせ、ビジョンを深く共有する今井次期社長。脱炭素で先頭を走り、海外の新事業を軌道に乗せて成長のステージを上げ、総合力世界ナンバーワンに向かう、手腕に期待がかかる。

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