2016年4月18日

【中】中国鉄鋼業1949-2016 躍進から調整へ 原料安でも膨らむ赤字

■予測不能の市場

「未来を予測しようとすると罠にはまる」(米経営学者ピーター・ドラッカー)。

中国の粗鋼生産量が近い将来9億トン以上に増えると多くの鉄鋼識者が予測していた。15年4月の中国鋼鉄工業協会(CISA)主催の会議。政府系調査機関の冶金工業規画研究院の李新創院長が「粗鋼生産は15年以降減少を続ける」との予測を示し、国内外の鉄鋼関係者が驚いた。

鉄鋼需要は14年に減少に転じ、15年に6億8000万トンと2連続減少。粗鋼生産は15年1月以降前年を割り込み続け、李院長の予測通り、通年で8億383万トンと34年ぶりに減少した。粗鋼生産は16年2月まで減少しているが、事態はまたも変わりつつある。

粗鋼生産は3月に増加に転じたようだ。CISA会員144社の3月中旬の日当たり粗鋼生産は166万2100トンと上旬比4・7%増、銑鉄生産は162万8100トンと5%増加。操業を止め、減産していた鉄鋼企業が鋼材市況が反転したために生産を増やし始めている。

■不意つく反転上昇

4年間下がり続け、過去20年の最安値に落ち込んだ鋼材市況に底を打つ気配はなかった。16年も軟調な市況が続くと予測されたが、15年12月に宝山鋼鉄が値上げに動き、潮目が変わった。

上海の鋼材先物価格は12月11日に上げに転じ、現物市況が反応。中国製鋼材の扱いと中国系企業への販売を増やす日系コイルセンターの幹部達は「実需なき反発」と一様に首をかしげた。不動産や電機、建機、機械など自動車以外の需要は軒並み不振だが、鉄鋼企業の赤字から価格の限界点とみた流通や需要家が購入に走り、仮需が広がった。

宝鋼が2月販売価格を4年ぶりに上げ、他の鉄鋼大手が値上げに追随した。3月5日開幕の全国人民代表大会で李克強首相が鉄鋼の能力削減を明言。仮需に拍車がかかり、鋼材市況は3月第2週の1週間にトン400―500元(約7000―8000円)、跳ね上がった。

翌第3週に鋼材市況は急落したが、それ以後緩やかに上がっている。熱延コイル市況は近年最高値の11年2月第3週5101元(3ミリ厚、増値税込)から15年12月第2週に過去20年の最安値1925元に下がり、16年4月第3週に2963元まで戻した。昨年12月の底値から5割強、約1万8000円上がった。

受注が急増している鉄鋼各社は宝鋼が3―5月も値上げを続けるなど販売姿勢を強め、市況を刺激する。だが、「鋼材価格の上昇によって鉄鋼生産が増え、輸入鉄鉱石価格が上がる心配がある」とのCISAの劉振江秘書長の危惧が現実になりつつある。

■赤字1000億元

赤字の鉄鋼企業はこれ以上、鋼材価格を下げられない。中国鉄鋼業の損益は12年に6億9000万元の赤字に転落。鞍山鋼鉄など上場大手が赤字となり、コスト削減や資産入れ替え、地方政府による資金支援、社債発行などで業績の改善を図ったが、鋼材市況の下落によって「鉄鋼業の赤字は15年に1000億元に膨らんだ」(劉秘書長)。

16年1―2月も累計144億元の赤字だが、3月に改善に向かい始めた。鋼材市況が上がる間は利益が増えていく。春需が見極められ、7―9月の発注の見定めに入る5月初めの労働節明けが市況のヤマ。需給が緩んでしまえば、市況は滑り落ちる。

企業収益を左右するもう一つの要素が原料価格だ。輸入鉄鉱石価格は11年10月第2週のトン178・05ドル(CIF、CISA指標)以降下がり続け、15年1月4日に70・74ドル、12月11日に38・31ドルとリーマン・ショック後の最安値に落ち込んだ。鋼材市況に連動して上昇に転じたが、16年4月13日時点で59・04ドルと年初から38%上昇した。

ただ、国際大手資源会社の供給量が多く、低迷する原油価格も影響し、鉄鉱石価格は低位で安定する公算が大きい。能力削減も鉄鉱石価格を下押すことになり、企業収益にはプラスとなるが、鋼材市況に作用する。鋼材価格と収益の安定に能力削減が必要と中国鉄鋼業はとうに知るが、改革の実行はなお不確かなままだ。